空軍用空中発射型1発19億円!
陸軍用地上発射型は1発53億円!
空中発射対地巡航ミサイルJASSM-ERが2億円弱で
地上発射弾道ミサイルは終末機動型でも33億円
2月1日付米空軍協会web記事が、米議会予算室(CBO:Congressional Budget Office)が公開情報のみを使用して推測した、極超音速兵器単価や20年を想定した維持費含む総経費を報じ、あくまで「概算」とは言え、例えば空中発射型を同射程距離の対地攻撃用巡航ミサイルとの比較で価格約10倍と見積るなど、改めてその「バカ高さ」が話題となっています
米議会予算室(CBO)は、空軍用空中発射型(爆撃機搭載用の射程約1000㎞のARRW:Air-Launched Rapid Response Weapon)と陸軍用地上発射型(射程3000㎞のLRHW:Long-Range Hypersonic Weapon)のコストを推計し、
空中発射型については同射程距離の空中発射運航ミサイルJASSM-ERと比較し、地上発射型については終末機動能力を持った中距離弾道ミサイル価格を推計して比較しています
それぞれの性能や特徴比較は後回しにしてまず単純比較
●空軍用空中発射型(射程1000㎞級)について
・爆撃機搭載用の極超音速兵器ARRW
1発19億円、20年で総経費6900億円(300発製造で)
(100発のみ製造だと1発23億円)
・戦闘機クラス搭載用HACMは未成熟で推計不能
・対地巡航ミサイルJASSM-ERは1発2億円弱
●陸軍用地上発射型(射程3000㎞級)について
・LRHW, Long-Range Hypersonic Weapon
1発53億円、20年で総経費2.3兆円(300発製造で)
・中射程弾道ミサイルMaRVs機能付き
1発33億円、20年で総経費1.7兆円(300発製造で)
コストで単純比較できない各兵器の特徴や課題
●同じ極超音速兵器でも、陸軍地上発射型は移動式でも安全な発射場所確保が必要だが、空軍爆撃機は射程距離が短く攻撃目標に接近する必要があるが、任意の場所(空中)から攻撃発射可能
●空中発射型の中では、同程度の射程でも対地巡航ミサイルJASSM-ERは飛翔速度が1/10程度と非常に遅い。一方の極超音速兵器ARRWは15-30分以内に価値の高い敵目標を攻撃可能であることから、開戦初期段階で有効と考えられる
●地上発射型では、終末機動能力があっても弾道予測がある程度可能な弾道ミサイルより、大気圏内を機動性を持って高速移動する極超音速兵器LRHWの方が生存性が高く攻撃成功確率が高い
●ただし、空中発射でも地上発射型でも、極超音速兵器の抱える根本的な問題、つまり「飛翔時の大気との摩擦熱(約1650度C)」から精密な搭載電子回路や空力操縦系統をどう守るかについての課題を克服することが大前提となる
●2019年以来、米国防省は既に約1兆1千億円を極超音速兵器開発に投入し、2023-27年に間に追加で約1兆7千億円を技術開発につぎ込む計画になっている(この金額には陸軍と空軍用の同兵器製造コスト2600億円は含まれていない。なお海軍はまだ同兵器予算要求を決定していない)
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米国防省が極超音速兵器を「最優先事項」として取り組む姿勢を打ち出す一方で、Kendall空軍長官は以前から繰り返し以下を主張しています
●極超音速兵器は近い将来価格低下の可能性は低く、私は同兵器を保有しても「比較的小規模」と考える。無論価格低下に空軍も取り組む。しかし高価であり、費用対効果等々から慎重に投資を検討しなければならない
●同兵器は有効な手段だが、米空軍が要攻撃目標を攻撃する唯一の手段ではなく、低速度でも巡航ミサイルは安価であり、ステルス性や敵防空網妨害との組み合わで有効であり、総合的に将来兵器体系を考える必要がある
●米国を遠ざけたい中国と、中国抑止用に同兵器を考えている米国とでは、同兵器の位置づけは異なり、中国と同様に米国が追求する必要は必ずしもない。米国は多数の移動目標に対処する必要があり、少なくとも初期型の同兵器は固定目標に適している点も注意を要する
極超音速兵器に搭載可能な弾頭重量(恐らく大きくはない)も勘案すれば、少しはKendall空軍長官の気持ちがわかった気がします。それから「飛翔時の大気との摩擦熱(約1650度C)」克服については、未解決なんですねぇ・・
極超音速兵器開発に注目が集まる中でも、この亜音速の大ベテラン兵器トマホークの新型「Block V」が米軍内で存在感を保ち、SM-6やNaval Strike Missileと共に今後も重要な役割を果たすと考えられる理由を、5つの視点から考察します→https://holylandtokyo.com/2020/12/23/349/
米軍の極超音速兵器開発
「迎撃兵器開発を2企業と契約」→https://holylandtokyo.com/2022/07/01/3405/
「米潜水艦配備は2028年以降」→https://holylandtokyo.com/2021/11/26/2450/
「陸軍部隊が実ミサイル以外を受領」→https://holylandtokyo.com/2021/10/18/2342/
「米空軍が3度目の正直でHAWC成功」→https://holylandtokyo.com/2021/09/30/2281/
「米海軍が2段目ロケット試験成功」→https://holylandtokyo.com/2021/08/30/2169/
「米艦艇搭載は2025年頃か」→https://holylandtokyo.com/2021/07/30/2037/
「豪州とも協力」→https://holylandtokyo.com/2020/12/10/340/
「今頃学会と情報収集枠組み」→https://holylandtokyo.com/2020/11/04/378/
「3月の極超音速兵器テストは誤差20㎝」→https://holylandtokyo.com/2020/10/16/434/
「3軍協力で極超音速兵器開発」→https://holylandtokyo.com/2020/08/21/530/
「ボディー試験に成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-22
「空軍開発本格化」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-06-16
「攻防両面で超超音速兵器話題」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-09-08-1
「防御手段無し」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-03-21-1
「宇宙センサー整備が急務」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-31
米空軍と国防省の同兵器開発の対立
「米空軍が戦闘機搭載型HAWC契約」→https://holylandtokyo.com/2022/12/27/4090/
「3回連続ARRW成功」→https://holylandtokyo.com/2022/12/16/4061/
「空軍:高価な同兵器は少数保有で」→https://holylandtokyo.com/2022/02/22/2742/
「国防省が空軍に改善提言」→https://holylandtokyo.com/2022/02/10/2670/
「国防次官:同兵器は最優先事項だ」→https://holylandtokyo.com/2022/01/26/2649/
「空軍長官:重要性は中国と米で違う」→https://holylandtokyo.com/2022/01/25/2639/