INFの呪縛を解かれ米陸軍PrSMが射程500㎞越え

飛翔距離は非公開ながら499㎞越え目的の試験で
米陸軍の遠方攻撃力強化の中核兵器
更なる射距離延長を検討中だが
米空軍からの強い反発も意に介せず

PrSM3.jpg10月14日、米陸軍から「Tactical Missile System」後継として長射程ミサイル開発を請け負っているロッキード社が、開発中のPrSM(Precision Strike Missile)の射程延伸試験(13日)に成功したと発表しましたが、具体的な射距離については公表を避けました

米陸軍は対中国正面の戦力運用として、射程が異なりつつ重なる様々な兵器を保有し、中国正面の様々な場所に機動的に配備することで、中国A2ADの目標選定を混乱させつつ、敵艦艇を含む敵に打撃を与える運用を考えており、従来保有の大砲や多連装ロケットの他に、より長射程の極超音速兵器やPrSM配備を構想しています

PrSM5.jpg米陸軍はこのPrSM開発契約をロッキード社と2020年初頭に結び、これまでに射距離85㎞、180㎞、240㎞の試験を行い、2021年5月には400㎞の試験にも成功しています。ちなみに、この3つの射程では、高く打ち上げて射距離を調整する85㎞試験が最も難易度の高いそうですが、多様な射程で攻撃できることが中国を混乱させる上で必要なようです

10月13日の試験は、射程499㎞を超えることを目標に実施された様ですが、この距離は米国がトランプ政権下の2019年にINF(中距離核戦力500~5000㎞)全廃条約から離脱したことで導入可能となったものです

PrSM4.jpgPrSMは2023年度(2022年10月~)に初期運用態勢確立を目指しており、今年9月末から、これまでの開発フェーズから生産製造開発(engineering and manufacturing development)フェーズに移行すると発表されていたところです

米陸軍は更なる射程延伸投資の費用対効果を検討中で、2022年度中には要求値を固める模様で、まだ射程延伸試験は続きそうです。

14日付Defense-News記事によれば
PrSM2.jpg●5回連続の試験発射成功となった13日の試験を受け、ロッキード社のPaula Hartley戦術ミサイル担当副社長は、「PrSMは引き続き、要求される射距離と性能を満たす取り組みを続けていく」、「基礎的性能として更なる射程能力を示すことができ、陸軍の近代化優先要求にこたえることができた」とコメントを出している
●また陸軍は、2021年実施の全ドメイン指揮統制改革(Project Convergence campaign of learning)試験演習にPrSMを参加させ、統合戦力のセンサーや指揮統制システムの中での運用法検討を進めている

●ロッキード社は演習での発射レートなど細部への言及を避けたが、PrSMは2台の発射機を横に並べ、交互に発射させるような運用を行ったようである
PrSM6.jpg2023年の運用開始までには射程延伸に加え、移動艦艇攻撃等にも対応可能なミサイルシーカーの能力強化や破壊力の増強に取り組むことになる

●ただ米陸軍Futures Commandは今後の射程延伸構想を決定しておらず、同副社長は「非常に難しい選択になるだろう」と費用対効果の検討の難しさに言及しつつ、これまでのところは開発資金に問題はないと語った
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米空軍はこのような米陸軍や海兵隊の動きを、遠距離攻撃兵器が高価で、大規模紛争での4-6万もの攻撃目標を遠方精密誘導兵器で対処するのは国家破産につながると、陸軍や海兵隊の取り組みを厳しく批判し、現実的なWarGameやシミュレーション結果を素直に見つめろと主張しています

PrSM.jpg米空軍の領域を犯す陸軍海兵隊の動きのけん制とも見え、軍種間の予算抗争の一面もありますが、米空軍の主張にはもっともな面もあり、最近話題の「ゲームチェンジャー」極超音速兵器など、高価な遠方攻撃用ミサイルだけでは大規模紛争に決着をつけることが不可能なのも厳然たる事実でしょう

その辺りの全体を見渡し、仕切っていくのが統合参謀本部であり国防省の役割だと思うのですが、それがそうでないのが世界中の軍隊の現状でもあります。敵と戦う前に、陸海空軍内の戦いで疲弊するという「いつか来た道」です

INF全廃条約関連
「トランプが条約離脱発表」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-20-1
「露は違反ミサイルを排除せよ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-06
「露を条約に戻すためには・・」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-20
「ハリス司令官がINF条約破棄要求」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-29
「露がINF破りミサイル欧州配備」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15
陸軍と海兵隊の遠方攻撃傾倒
「米陸軍トップが長射程攻撃やSEADに意欲」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-12
「米陸軍は2023年から遠方攻撃兵器で変わる」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-09
「海兵隊も2つの長射程ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06
「射程1000nm砲に慎重姿勢」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-10
「射程1000nm砲の第一関門」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-15
米空軍による陸&海兵隊批判
「米空軍大将が陸海海兵隊を批判」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-22
「空軍トップが米陸軍を厳しく批判」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-04-03

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