米空軍輸送機が燃料空輸試行も
専門家は極めて懐疑的な視線を
4月3日付米空軍協会web記事は、米空軍がC-5Mなどの輸送機を利用した燃料輸送を試行的に行っている様子を紹介しつつ、同時に有事初動には輸送機による少量の燃料空輸が役立つこともあろうが、相当規模の紛争を支えるには膨大な燃料補給が必要であり、根本的な燃料輸送能力不足解消には、前線基地に大規模地下燃料施設を建設したり、大規模海洋輸送船団の準備が必要だとの専門家意見を取り上げています
また、有事には輸送機に武器弾薬装備などの膨大な輸送任務が控えており、米空軍が試験的に検討している兵器発射プラットフォームや指揮統制機能ハブとしての役割を含め、燃料輸送など輸送機に期待すべきでないとの、専門家意見を紹介しています
輸送機による燃料輸送試行
●2023年2月に第9空輸飛行隊C-5M輸送機が、半分のエンジンを停止して、C-5M近傍に駐車したR-11燃料輸送車に機内燃料を提供し、C-5輸送機による燃料輸送が可能なことを立証した。
●同飛行隊は「理論的には、輸送機が不便な分散基地着陸して至短時間に燃料を提供し、最短時間で再移動できることを確認できた」と声明を発表した
●過去には、2020年にC-130がハワイで2機のF-22に地上給油した例や、2022年12月にC-17が加州でB-2爆撃機に給油したことがある。また同様に簡易燃料タンクや飛行場の一般的な燃料施設にも燃料を提供できる
シンクタンク研究者の見方
●米空軍が西太平洋地域で分散運用しようとしている基地候補には、船舶タンカーから燃料を陸揚げできる施設がないことから、輸送機による燃料輸送は一つの手段であり、C-5Mなら約6機のF-35に給油可能で、C-130だと3機弱に可能だと見積もった研究がある
●ただしハドソン研究所のTimothy Walton氏やBryan Clark氏は、有事の輸送機には膨大な輸送所用が発生することから、燃料輸送だけでなく、米空軍が検討している兵器発射プラットフォームや指揮統制センターとしての機能を担わせる余裕は、輸送機には既にないはずだと強く主張している
●また有事の必要燃料量は膨大で、作戦初動段階では緊急援助的に輸送機の燃料輸送が役立つ場面があるかもしれないが、C-5M輸送機が輸送可能な9万バレル程度の量は大勢に影響を与えられない現実に目を向けるべきだと両名は主張している
●両氏の結論は、コストがかかっても、西太平洋の島に自然環境に配慮した爆撃にもある程度耐えられる「地下燃料タンク」を設置したり、長期作戦を支えることを考えれば、強固に防御された海上タンカー船団を準備する以外はないということである
●ここで問題になるのが米国政府が外国船籍のタンカーに大きく依存していることで、両氏は大規模紛争を支えるには少なくとも80隻の米国籍タンカー船団が必要だが、実際には10隻確保を目指すプロジェクトが、米議会が米運輸省に命じて動き出した程度である
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米空軍輸送コマンドは、恐らく米空軍全体のACE構想に取り組んでいる姿勢を見せるため、一応オプションとして実施可能なことを検証しているのでしょうが、ハドソンのWalton氏やClark氏の主張は完全な正論です
いろいろな兵器開発やプロジェクト発表の「華やかさ」に惑わされることなく、対中国作戦の難しさの足元をしっかりと踏まえておく必要があります
輸送機からの兵器投下検討
「巡航ミサイル投下&攻撃試験」→https://holylandtokyo.com/2021/12/20/2550/
「Rapid Dragonを本格検証へ」→https://holylandtokyo.com/2020/11/06/380/
「兵器投下に反対 Stand-inとoffのバランス不可欠」→https://holylandtokyo.com/2020/07/01/562/
「空軍計画部長が語る」→https://holylandtokyo.com/2020/06/09/619/
「MC-130からパレタイズ兵器投下試験」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-01
輸送能力や弾薬量の圧倒的不足
「米空軍若手がACEの課題を語る」→https://holylandtokyo.com/2020/11/27/397/
「民間海空輸送力活用のための取組」→https://holylandtokyo.com/2022/10/21/3780/
「弾薬不足:産業基盤育成から」→https://holylandtokyo.com/2022/10/19/3758/
「ウ事案に学ぶ台湾事案への教訓9つ」→https://holylandtokyo.com/2022/03/15/2806/