専門家寄稿:米空軍は兵器庫航空機を追求するな

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https://community.camp-fire.jp/projects/view/258997
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「Stand-in」と「Standoff」の適切なバランスが不可欠
CSBA研究員や国防省戦力変革担当経験者が米空軍に意見
ステルス爆撃機B-21の増強に注力せよと

Gunzinger2.jpg6月18日付Defense-Newsに、CSBA研究員も兼務するミッチェル研究所のMark Gunzinger部長が寄稿し、中国による攻撃能力や射程距離が増す中、対抗する米軍が如何なるバランスで遠方攻撃能力を保有するかについて米軍内で様々な動きがあるが、米空軍は輸送機等から長射程兵器を投下するような検討は止めるべきだと主張しています

筆者は、コストが高い長射程兵器を、有事に需要の多い輸送機から投下したり、新たに開発するステルス性のない兵器庫航空機(arsenal plane)から発射するのではなく、突破型のB-21ステルス爆撃機から安価な兵器を敵目標近傍から投下する方が、より現実的で費用対効果も高いと主張しています

B-21.jpgまた、長射程兵器を米陸軍や海軍、更には海兵隊まで導入を検討している中、同じような性格を持つ「standoff」兵器使用を米空軍が追求することへの疑問も、元B-52教官パイロットだったGunzinger氏は主張しています

Gunzinger氏は、輸送機(C-17やC-130)や兵器庫航空機(arsenal plane)から「standoff」兵器を使用することを5つの点から不適切だと主張し、数万個と言われる大規模紛争での攻撃目標数を考えるとき、ステルス性を持つ突破力のある爆撃機の不足解消に集中して米空軍は取り組むべきだと述べています

Gunzinger5.jpgご覧いただく際の注意点は、遠方攻撃(Long-range strikes)には、ステルス長距離爆撃機による「Stand-in strikes」と巡航ミサイルなど長射程兵器を用いた「standoff strikes」の2つが存在するという点です

同氏は大佐で米空軍を中途退役していますが、現役中は空軍司令部から国防長官室に引き抜かれ、2006年QDR取りまとめや戦力変革検討を行って国防長官賞を授与され、後にホワイトハウスのNSCスタッフも務め、退役後のCSBAではエアシーバトル報告書をまとめたメンバーの一人で、単に元爆撃機操縦者としてB-21増強を主張しているのではないとも感じますので、ご紹介しておきます

Mark Gunzinger氏の寄稿文によれば
Goldfein米空軍参謀総長が、数多くのウォーゲームやシミュレーション結果から、米軍が将来想定される大規模紛争に勝利するには、遠方攻撃(Long-range strikes)における「Stand-in strikes」と「standoff strikes」の適切なバランスが不可欠だと主張していることを忘れてはいけない
B-21 bomber.jpg今日の戦力構成は適切なバランスを失っており、僅か20機のB-2爆撃機を除いては、米軍の遠方攻撃能力は「standoff strikes」に依存している。だから国防省がB-21を優先事業として推進しているのだ

●輸送機や兵器庫航空機からの遠方攻撃の問題点5つ
1.輸送機や兵器庫航空機から遠方攻撃(Long-range strikes)を行う場合は「standoff」兵器を使用することになるが、B-21爆撃機導入を犠牲にし、「standoff」兵器に過剰投資して「Stand-in strikes」と「standoff strikes」のアンバランスにすることは不適切米陸海軍が「standoff」兵器導入に動く中、なおさら許容できない

2.有事において戦力の分散運用を追求するためには輸送機の役割が重要になるが、輸送機に攻撃任務を付与することで輸送力をそぐことになる。有事には民間機の動員も視野にある中、軍用輸送機に余裕はない

Gunzinger4.jpg3.輸送機や兵器庫航空機はより遠方からの兵器投下を強いられることになるが、長射程の「standoff」兵器は大型化して航空機への搭載量が減り、弾頭の大きさも制約を受けて攻撃対象が限定されることから、様々な面で攻撃作戦に支障をきたす。これに対してステルス爆撃機は、敵目標に接近することが可能で、安価で破壊力のある兵器を大量に使用することができる

4.「standoff」兵器への過剰な依存は、1目標当たりの攻撃コスト面で受け入れがたい。一般的な長射程兵器は1億円以上し、最も安価な極超音速兵器でも2-3憶円と予想されている。一方でJDAMは500万円以下である。次世代「standoff」兵器はもちろん重要だし必要だが、数千・数万の攻撃目標が想定される中で、「standoff」兵器への過剰依存は大きな負担となる

5. 輸送機や兵器庫航空機の活用は、安価で迅速な選択肢に必ずしもならない。C-17の生産ライン立ち上げだけで数千億円が必要だろうし、新たな兵器庫航空機を開発するとなれば過去の経験から開発と試験で6年、更に運用開始まで3-4年は必要だろう。つまりB-21が相当数配備されるまで、新たな兵器庫航空機は使用できない計算となる

b-1b.jpg過去30年間で米軍全体の遠方攻撃能力は減少を続け、米空軍の爆撃機はその歴史上最小規模(76機のB-52、62機のB-1、20機のB-2)となっているが、米軍として最も費用対効果の高い攻撃オプションを確保しておくことが、戦場指揮官の多様なニーズに応えるオプションを提供するために必要ではないだろうか
米空軍はB-1やB-52爆撃機を兵器庫航空機として保有しており、これ以上は必要ない。米陸海軍が遠方攻撃用の「standoff」兵器に投資を始める中、米空軍は重複投資を避け、バランスを考慮して「stand-in」戦力に焦点を絞るべきである
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Gunzinger氏の本件に関するレポート(53ページ)
https://a2dd917a-65ab-41f1-ab11-5f1897e16299.usrfiles.com/ugd/a2dd91_4f2e5df4b4b2464ca6d50d0dcd9ea04f.pdf

ステルス爆撃機であるB-21は、1機550億円以下として100機程度の調達を機種選定の前提としていましたが、米空軍は170機以上が必要だと主張し始めています

Gunzinger氏の主張する費用対効果の高い遠方攻撃(Long-range strikes)の費用面に、B-21の機体価格が含まれているのか定かではありませんが、本格紛争時には4万から6万の目標を攻撃する必要があるとの事ですので、「standoff」兵器偏重はありえないと言うことなのでしょう

Goldfein米空軍参謀総長は、陸海軍の遠方攻撃への投資を批判的に述べて、「Stand-in strikes」と「standoff strikes」のバランスの必要性を主張していましたが、Gunzinger氏は陸海軍の投資方向には口を出さない姿勢であり、このあたりの違いも興味深いところです

輸送機や兵器庫航空機からの遠方攻撃を、誰が「検討せよ」と言っているのかよくわかりませんが、今後の陸海海兵隊も交えた遠方攻撃(Long-range strikes)分担議論を見る上での一資料としてご覧いただければ幸いです

Gunzinger氏の経歴概要
https://csbaonline.org/about/people/staff/mark-gunzinger
輸送機や兵器庫航空機関連の記事
「輸送機から誘導兵器投下試験」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-01
「米空軍は弾薬庫航空機を継続検討中」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-05
「カーター長官が17年度予算案で表明」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2016-02-03
「弾薬庫航空機に向け改修」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-13
遠方攻撃に傾く米軍地上部隊
「2つの長射程対艦ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06
「射程1000㎞の砲を真剣検討」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-01-26-1
「中国対処に海兵隊が戦車部隊廃止へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-25
「再びハリス司令官が陸軍に要請」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-16
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「遠方攻撃をめぐり米空軍が陸海海兵隊を批判」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-22

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