13日、露のプーチン大統領が差し止めていたイランへの地対空ミサイルS-300輸出を解禁する指示を出し、イスラエル首相が直ちにプーチン大統領に抗議すると共に、米国務長官が露外相に電話して決定を見直すよう動き出しています
ロシアが2010年に自ら決定した禁輸の解除は、2日にイランと欧米諸国の間で合意された核協議結果を受けたものと考えられていますが、「同床異夢」を絵にしたような合意が、ロシアにつけいる隙を与えたのかも知れません
地対空ミサイルS-300はピカピカの最新型ではありませんが、米国製パトリオット級の能力があるSAMと言われています。多くの形式や発展型があり、細部性能も不明な部分が多いのですが、SA-10やSA-12とも呼ばれる防空ミサイルです
13日付Defense-Newsによれば
●プーチンが署名した13日の輸出解禁指示は、2日のイラン核開発に関する合意を受けた、今後の複雑な技術的交渉を伴うイランへの段階的な制裁解除の前になされた。
●ロシアの決定はイスラエルの厳しい非難を呼び起こし、米国の懸念の引き金となった。一方でイラン国防相は「地域の永続的な安全保障に向けたステップだ」と高く評価した
●ロシアは2010年に、イランへのハイテク兵器の禁輸を定めた国連制裁が決議された後に、自主的にS-300の輸出を中止していた。これを受け、イランはロシアを相手取り、国際司法裁判所に4000億円の訴えを起こしていた。
●ラブロフ露外相は、ミサイル禁輸は国連決議には含まれて居らず、イランと欧米6カ国(英中仏露米独)との協議の進展でこれ以上の自主規制は必要なくなった、と語り、更に防空ミサイルは防衛的装備で他国の脅威とならないと主張した
●ケリー米国務長官は早々にラブロフ露外相に電話した。国務省報道官はロシアの決定が国連決議違反ではないと認めた上で、「国務長官はロシア側に建設的でない」、「イランがイエメンやシリアで不安定に資する動きを見せる中、ミサイルの売却を行う時期ではない」と長官がロシアに伝えたと説明した
●米国防省の報道官は「我々は以前からこの取引に反対している。Unhelpfulだ」と報道陣に語った
●1月に露国防相がイランを訪問した際、イラン政府関係者は「S-300問題の解決で両国は同意した」と語っていた
●また2月に関連ロシア軍事企業は、S-300の改良型である「Antey-2500」のイランへの提供を提案したと語っていた
イスラエル首相は激怒
●イスラエルのネタニアフ首相はプーチン大統領に電話し、「この様な決定はイランの攻撃性を増すだけで、中東の安全保障を脅かす」と警告した
●ロシア大統領府はイスラエル首相から電話があったことを認め、「プーチン大統領はロシア指導部の決断ロジックを詳細に説明した」と説明した
●ネタニアフ首相の声明は「ロシアによる高性能兵器のイランへの売却は、イランと欧米6各国が進めている危険な交渉の直接的な結果である」、「イランとの交渉が中東の安全保障を高めるなどと言う主張を、誰が信じるだろうか」と訴えている
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今のロシアは、「欧米の嫌がることなら何でもします」との「獣臭」を振りまいていますが、それ以上に経済情勢が厳しく、外貨を稼ぐ必要があるのかも知れません。
しかし、キューバとの関係改善と併せ、イランとの核交渉で点数を稼ぎたいオバマ政権にとっては、この上なく不愉快な態度でしょう。イランとの交渉が道半ばなため、6ヶ国の一つであるロシアとの関係をあまり悪化させたくない米国にとって、ロシアに強く出るにも限界があり・・・
ただでさえ良くない対イスラエル関係にも、「火に油」の様相です
「米軍がウクライナで露軍事情報収集」
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-02
2014年ロシア情勢にも詳しい「東アジア戦略概観2015」
→http://www.nids.go.jp/publication/east-asian/j2015.html