上院軍事委員長が「ウ支援」や中国気球を語る

民主党の重鎮で米国軍事政策のキーマンの一人
F-16など今後の軍事支援の考え方や気球への「?」
軍事予算10%カット(2022年規模への縮小)には否定的

Reed.jpg2月7日、民主党の重鎮で上院軍事委員会委員長であるJack Reed議員が軍事記者団とのオンライン懇談を行い、ウクライナ支援の今後の考え方や中国気球事案、更にウクライナ支援で急膨張する軍事費を抑制する声が高まっている件に関しかなり率直に語りました

ウクライナ支援に関しては、F-16戦闘機より、弾薬や長射程地上火砲や情報&ノウハウ&ソフト支援等が当面の重要項目だと述べ、併せてウクライナで浮き彫りになった弾薬不足と軍需産業基盤問題を最大の教訓だと表現し、中国気球に関しては誰が何のために何をしたかったのか等々の基本的な疑問から解決する必要があると語っています

Reed2.jpgオンライン懇談会の全体を把握しているわけではありませんが、7日付米空軍協会web記事が上記内容を報じていますので、様々な思惑や意見が交錯して情報が混乱している事象に関するキーマンの発言でもあり、頭の整理にご紹介しておきます

ウクライナ支援について
●ウクライナからの軍事支援要望への対応を考える際、米国は戦いの現状と何が違いを生み出すかに基づいて判断する必要がある。今の段階では、F-16戦闘機の要望は最も緊急性が高いものとは考えられず、既存兵器の弾薬や戦車を含む戦闘車両、HIMARSなど長射程ロケットシステムが、よりインパクトを与え、かつウクライナ軍が迅速に円滑に受け入れ可能な兵器だと考える

F-16 Ukraine.jpg●ロシア側の強固な防空体制を勘案すれば、ウクライナ軍はF-16戦闘機を有効に使用できる状態には無い。現状でウクライナ軍戦闘機等は、ロシア防空網の脅威でほとんど活動できていないし、飛行しても超低空を這うように侵攻し、目標直前で安全な範囲で高度を上げ爆弾等を投下する程度の極めて限定的な作戦しかできていないし、それでも操縦者を失っている

●ウクライナ空軍は胸に手を当ててよく考えるべきだ。F-16の提供を受けて何が変わるのか? 現状の強固な露防空網を前にしてF-16を生かすことができるのか? 長期的な視点でF-16の有効性を否定することはできないが、現時点では優先度は低い

ATACMS Ukraine.jpg●米議会では、すでに提供済のGMLRS(Guided Multiple Launch Rocket System)より射程の長い、ATACMS(Army Tactical Missile Systems)を推す声がある。既にGMLRS投入でロシアは前線指揮所を後退させざるを得なくなっており、ATACMS導入が更なる効果を生むとの期待からである。また米だけでなく、NATOや西側諸国からの様々な軍事的助言やインテル提供やソフト改修支援なども、極めて重要な役割を果たしている

●(ロシアが反撃準備を進めているとの一部の分析に関し、)ウクライナ軍は優秀で士気が高く、露の攻撃に耐え、西側提供の戦闘車両等々を巧みに使用&維持整備して反撃できると考えている。ウクライナ軍は電子戦にも優れた能力を発揮している
●(一方で、ロシアが大規模に後退を迫られるような事態になった場合、)特に、2014年にロシアが併合したクリミア半島にウクライナ軍が迫るようなことになれば、ロシアによる核兵器投入の危険性が高まるのではないかと懸念している

ウクライナの教訓と米国防費への影響
GMLRS Ukraien.jpg●ウクライナから得た最も大きな教訓は、弾薬の緊急調達や緊急製造に対応できない軍需産業の問題であり、議会として今後取り組まねばならない大きな課題である
●(ウクライナ支援を含め国防費が急膨張していることへの懸念から、)一部共和党議員からでている、国防予算を約10%カットして2022年予算レベルを上限に押さえる案については、8-10兆円の削減を意味するが、紛争が進行中であることや中国軍事行動が活発化している中では、多くの支持を得ることは難しいと思う

米本土に進入した中国の気球に関して
Chinese Balloon2.jpg●米国は大統領の指示に基づき、適切に対応して撃墜した。
●多くの米議員が疑問を持っているように、既に活動している中国の偵察衛星で、気球より多くの情報を得ているはずなのに、なぜ? 何の目的で? 何がきっかけで? あんな気球を送り込んだのか理解に苦しむ。習近平を含む中国指導部の政治的判断が絡まない、下層レベルの判断で行われた可能性も高いと思う

●いずれにしても、気球を回収して調査しており、中国にとって不都合な結果が出る可能性もある。米議会は来週(13日の週)に調査報告を受ける予定になっている
●いかなる結果になろうとも、米議会は中国に限らず、領空侵犯を許さないし、今回の事案で明らかになった領空監視能力等のギャップを見極め対処していく
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Chinese Balloon.jpgウクライナのF-16要求を、米国として受け入れがたい理由は、Jack Reed委員長の発言や戦いのエスカレーションを望まない米国の思惑、そして現実的な面からは先日ご紹介した米空軍大佐による軍事メディア寄稿に表現された「戦闘機では露にかなわない論」など、様々に表現されており、実現は難しいのでしょう

中国の気球に関しては、2月8日に米国防省報道官が記者会見を行い、数年前から世界中で同様の気球偵察活動を行っていると説明し、2月13日の週の米議会への国防省報告が注目されます

ロバート・ゲーツ語録75
→中国の文民と軍人の間にはすき間の兆候がある。2009年の音響測定艦インペカブルへの対応や2007年の衛星破壊実験を中国文民指導者は事前に知らなかったようだし、私が訪中間の2010年1月のステルス戦闘機J-20初飛行も→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-14

弾薬量の圧倒的不足問題
「CSISも弾薬調達&提供問題レポート」→
「米空軍の弾薬ロードマップ検討」→https://holylandtokyo.com/2023/02/09/4208/
「米軍は弾薬にもっと予算配分を」→https://holylandtokyo.com/2022/12/02/3990/
「賛否交錯:輸送機からミサイル投下」→https://holylandtokyo.com/2022/11/15/3936/
「弾薬不足:産業基盤育成から」→https://holylandtokyo.com/2022/10/19/3758/
「ウ事案に学ぶ台湾事案への教訓9つ」→https://holylandtokyo.com/2022/03/15/2806/
「Stand-inとoffのバランス不可欠」→https://holylandtokyo.com/2020/07/01/562/

ウクライナでの戦い
「ウクライナでイラン製無人機が猛威」→https://holylandtokyo.com/2022/10/20/3787/
「アジア太平洋への教訓は兵站」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「ウで戦闘機による制空の時代は終わる」https://holylandtokyo.com/2022/02/09/2703/

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