世界初の対無人機等の防空兵器消耗戦に直面するウクライナ

最新戦車の次はF-16など戦闘機提供ではない
戦闘機での航空優勢狙いは非効率でロシアの思うつぼ
ロシアの航空優勢拒否戦略の継続が追求すべき道
防空弾薬の枯渇がロシアの狙いであり、それを防げ!

Ukraine Air defense3.jpg1月25日付Defense-Newsが、米空軍大佐とシンクタンク研究員の寄稿を掲載し、米国とドイツがウクライナに最新戦車提供に合意したことを受け、世間では次はウクライナに戦闘機を提供すべきとの意見があるがそれは完全な誤りであり、ロシアが戦術転換でミサイルや無人機攻撃によるウクライナ民間インフラ攻撃を激化させる中でも、ウクライナは犠牲を耐え忍んでも防空兵器枯渇を防止する選択的使用に舵を切り、防空兵器によりロシアの航空優勢確保を拒否し続けるべきだと主張しています

Bremer.jpg2名の寄稿者は、過去1年間の露によるウクライナ侵略の教訓は、現代の航空戦には、高価な戦闘機などよりも機動力を備えた地上配備の防空装備が適しているとの一つの現実であり、ウクライナにF-16などの戦闘機を提供して航空優勢を確保しようとする手法は、ロシア軍の航空アセット数量からしても完全な誤りだと指摘しています

しかし同時に筆者は、米軍をはじめ西側諸国が長年にわたり防空ミサイル等の防空システム投資を軽視してきた付けは大きく、ウクライナに提供できる防空ミサイル等の弾薬類は底をつきかけており、厳しい状況に直面しつつあると指摘し、例えば米軍はパトリオット防空ミサイル1個大隊程度しか支援できない状況だとしています

Grieco stimson.jpg弾薬不足に苦しむロシア側も、似た状況にある米軍や西側の状況に気付き始めて作戦を転換し、無人機や長射程ミサイルでウクライナの発電所など社内インフラを攻撃し、厳しい冬を迎えたウクライナ国民の交戦意志を削ぐ作戦を重視すると同時に、ウクライナ軍が貴重な防空兵器を消費せざるを得ない環境を作為して、弾薬枯渇状態による防空無効化で航空優勢を確保しようとしていると筆者は分析しています

従来の航空優勢確保は、敵の防空兵器を味方の戦闘爆撃機などで物理的に破壊するSEAD(suppressing enemy air defense)を通じてでしたが、ウクライナでロシア軍は史上初めて、無人機や長射程ミサイルを敵国民や社会インフラに向けて発射し、「敵の防空兵器を強制的に消耗させることによる航空優勢の獲得」を狙っているとも表現しています

Ukraine Air defense.jpg寄稿者の主張は厳しい選択をウクライナに迫っています。弾薬在庫が限られた西側各国からの防空兵器支援は今後あまり期待できない現状を踏まえ、ロシア軍によるウクライナ国民や重要社会インフラに対する攻撃にも、防雨兵器の使用は選択的に抑制し、少しでも長く防空兵器を温存してロシアの完全な航空優勢確保を拒否する「air-denial strategy」を継続すべきとの提案です

そして、極めて非効率な戦闘機による無人機や長射程ミサイルの要撃などに乗り出し、数量で勝るロシア航空アセットを戦場に駆り出したり、最前線のウクライナ地上部隊の防空能力を犠牲にしてはならないと寄稿者は訴えています
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Ukraine Air defense2.jpg寄稿者は、輸送機パイロットのMaximilian Bremer米空軍大佐(空軍輸送コマンド特殊計画部長)と、スティムソンセンター上級研究員でジョージタウン大学教員のKelly Grieco客員教授の2名です。ウクライナでの戦況や戦闘機提供の狙いを十分把握していませんが、この寄稿の提言はオプションとして議論に値するものだと考えご紹介しました。

なお1年前にも、ウクライナに関するご両名の寄稿「ウクライナで戦闘機による制空の時代は終わる」をご紹介しております

Ukraine Air defense4.jpg先日、ウクライナ空軍の戦闘機パイロットがロシアの無人機や巡航ミサイル要撃任務に従事し、厳しい緊張感に苦悩しているとの外国メディアの報道を見ましたが、実態としては、ウ空軍の戦闘機パイロットは戦いにほとんど貢献できず、高価なアセットとこれまでの訓練経費を生かせないまま、軍内で「肩身の狭い」思いをしているということでしょう・・・

これは、「ウクライナ」と言う環境での戦いだからでしょうか? まんぐーすは必ずしもそうだとは思いません。現代の、そして将来の航空戦の厳然とした現実だと思います。

同コンビによる別寄稿
「ウで戦闘機による制空の時代は終わる」https://holylandtokyo.com/2022/02/09/2703/

CSISやCSBAの台湾への提言:非対称戦略へ
「CSISが台湾軍に非対称戦術を迫る」→https://holylandtokyo.com/2023/01/16/4160/
「CSBAは2014年に同要求」→https://holylandtokyo.com/2020/11/08/381/

嘉手納基地からのF-15撤退関連
「第1陣の8機米へ帰還」→https://holylandtokyo.com/2022/12/06/4021/
「米空軍幹部発言から大きな流れを学ぶ」→https://holylandtokyo.com/2022/11/09/3904/
「衝撃、11月1日から段階的撤退」→https://holylandtokyo.com/2022/10/31/3817/

ウクライナでの戦い
「ウクライナでイラン製無人機が猛威」→https://holylandtokyo.com/2022/10/20/3787/
「衛星通信へのサイバー攻撃で始まっていた」→https://holylandtokyo.com/2022/06/23/3365/
「アジア太平洋への教訓は兵站」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「SpaceXに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/

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