オースチン国防長官が米軍態勢見直し開始を発表

昨年1月以前に9月末までの予定でエスパー長官が開始済
在日米軍や在韓米軍の削減・分散も視野に入っていましたが

Posture Review.jpg4日、オースチン国防長官が声明を出し、米軍の全世界的な態勢見直し「global force posture review」を開始し、配置、配置戦力、戦略、任務等のレビューを行うと述べ、統合参謀本部議長と緊密に協議しながら政策担当国防次官が取りまとめると説明しました。ただし、いつまでに見直しを行うかについては言及していません

国防長官の声明文では、同日4日にバイデン大統領が、必要な時に戦う備えは欠かせないが、リスクがあってもまず外交の場で話し合いや協議を行う労を惜しむな、と政権内に指示したことを冒頭で引用し、最後にケネディー大統領の言葉「外交と国防は相反しない。互いに補い、強化しあう。どちらか一方だけでは失敗する」を引用して、態勢見直しにあたり同盟国等との協議を重視する姿勢を強調しています

Austin7.jpg具体的に声明では、「態勢見直しにあたっては同盟国やパートナー国と協議を行う。長官就任初日に述べたように、米国単独で任務は果たせない。世界中で米国は、大小さまざまな、長い古いに関わらず様々な同盟国等と肩を並べて立ち向かわねばならない。それらの国はそれぞれにユニークな能力や知見を有しており、それらとの関係は維持尊重するに値する」と丁寧に述べており、反面、相当にタフで衝撃度の大きい再編議論が予期される雰囲気を漂わせています

ただ冒頭でも示したように、この再編検討は前政権時から始まっています。その大きな狙いは対中国や対ロシアとの本格紛争対応であり、対中国でいえば、中国兵器の射程内に大規模な米軍戦力を放置しておくことはできないとの危機感が背景にあります。つまり、西太平洋地域においては、在日米軍や在韓米軍の削減、そして米本土や後方への分散配備の方向性を強く滲ませるものと考えるべきでしょう

本日は、そんな大きな流れを感じさせる国防長官や米軍関係者の発言を、昨年1月から時系列でご紹介しておきます

2020年1月13日:Milley統合参謀本部議長
Milley3.jpg・(アフリカにローテーション派遣されISRや空中給油や教育訓練等々のために派遣されている約1万人の米軍兵士を)削減して資源を米本土やアジア太平洋にシフトすることも考えられる
・エスパー国防長官は、何を変えるかについて何の意思決定もしていない」と述べ、「我々は国防長官にいくつかのオプションを準備しているのだ。同盟国等と協議しつつ、選択肢を検討しているのだ
解説報道→米国はこのようなアフリカでの米軍プレゼンスを今後2-3年で削減し、中国やロシア対処に振り向けたいと考えている)

同年1月23日:エスパー長官
・地域コマンド間の兵力再編(COCOM-by-COCOM review of U.S. force posture)を計画している。次年度予算期間となる2020年10月1日までにはレビューを完了したい

同年7月21日:エスパー長官
Esper RAND2.jpg・(WSJ紙が、統合参謀本部がホワイトハウスに対し、在韓米軍削減オプションを複数案提示したとの報道に関し、否定せず、)全ての地域戦闘コマンドの状況を見ているところであり、国家防衛戦略NDS遂行のため、最適化した配置を検討している。検討は米国により柔軟性を提供することを狙いとするもの
・最近米空軍爆撃機部隊が始めた、グアム島に駐留派遣する形式ではなく、米本土の基地から必要時に長距離直接派遣を情勢に応じ柔軟に行う「dynamic force employments」方式を、海軍艦艇や地上部隊にも適用するオプションも含まれる

同年7月21日:Davidson太平洋軍司令官
・米軍がF-35など新たな高性能装備を導入する過程で、北朝鮮と今夜から対峙することになっても勝利を収めることが可能な態勢が変化することはあり得る。地域戦闘コマンド司令官として、どのような態勢が任務達成のために必要なのかを見極めることは、司令官としての責務である。どの部隊を新たに導入し、どの部隊を米本国に戻すかをのガイダンスを、情勢に応じて示す必要があ

同年7月21日:Hoffman国防省報道官
・いくつかの地域戦闘コマンドは、より効率的な米軍全体の態勢を考える上で、変更の必要性や可能性がある伝統的な任務や行動を背負っている

同年7月29日:エスパー長官
Esper5.jpeg・(トランプ大統領が6月に発表した「ドイツが国防費を増加させないことへの制裁」としての駐留米軍削減について、)大統領の指示以前から検討していた世界的な米軍再編の一環だ。当初言われていた0.95万人規模より多い約1.2万人規模の削減を計画している
・(米欧州軍司令官と共に会見で)削減する1.2万人の約半数にあたる6400名は米本土へ帰還し、他はポーランドやイタリア、バルト三国や黒海周辺地域に移動してNATO戦力配置をより東に移動させる方向で、ドイツには依然として欧州最大の24000名が残る

同年8月末:エスパー長官
・国防長官として西太平洋のパラオ共和国を初訪問し、パラオとの間で米軍が使用可能な港湾、空港、基地施設に合意

同年9月23日:Berger海兵隊司令官
Berger.jpg(中国の脅威増大を背景に、)WW2や朝鮮戦争後に形成された現在の米海兵隊の西太平洋地域での配置は、今後10年を考える時、統合戦力にとって現在の体制は良い体制(not a great posture)ではない。見直しを行っている
・グアムにも一部を置かねばならない(We have to factor in Guam)。我々は太平洋地域全体に分散した態勢を取らねばならず、これにより地域の同盟国やパートナー国と協力し、中国のような国際規範を書き換えようとする国々を抑止しなければならない

(同発言を受けた各種軍事メディア報道)
→米海軍と海兵隊プレゼンスは、西太平洋で日本に大きく依存している。空母や駆逐艦を横須賀で、強襲揚陸艦は佐世保を拠点としている。海兵隊もIII Marine Expeditionary Forceの約1.8万人を沖縄においているが、専門家は、中国からのミサイルや爆撃機攻撃に対して脆弱な固定基地に戦力が集中していることに疑問を呈している。海兵隊は今後数年(in coming years)で、数千名の兵員と家族を沖縄からグアムに移すことを計画している
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ASB6.jpg独駐留米軍1.2万人の削減については、この態勢見直しが終わるまで凍結・・との方針が示され、欧州の変化がどうなるか見えませんが、大きな流れは本格紛争への備えと分散だと思います

エアシーバトル・コンセプトが公表された10年ほど前から、在日米軍や極東米軍の中国正面からの「転進」可能性について、軍事的合理性に沿ったものだと予想してきましたが、すぐ目の前に迫ってきたということでしょう

ASEANPlus.jpgこの態勢見直しについて日本のメディアが、日本との関係について全く触れていないのがとっても不思議です。関係ないどころが、在日米軍の見直しは本丸の一つだと思いますし、だからあえてバイデン大統領の「外交重視」「協議重視」声明とタイアップして打ち出されたのに・・・
中東でのイスラエルと複数アラブ諸国との国交樹立や、この米軍の態勢見直し開始に関する日本のメディアや論壇を見ると、大丈夫か???と思います

米軍再編関連の記事
「司令官が在日米海兵隊削減を示唆」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-25
「ドイツ駐留米軍削減発表」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-30
「在韓米軍削減案報道に長官は」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-22
「9月末までに米軍再編検討を」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-14
「アジア太平洋で基地増設検討中」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-28
「新統合作戦コンセプトを年末までに」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-18
「太平洋軍司令官が議会に要望」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-29
在日米軍基地は有事には
「米空軍はアジアで米海兵隊と同じ方向へ!」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-25
「西太平洋の基地防御は困難」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-23
「欺まんで中国軍を騙せ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-21
中国軍事脅威の本質は
「脅威の変化を語らせて下さい」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
「中国軍事脅威の本質を考えよう」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2012-12-30
「A Balanced Strategyを振り返る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2011-11-27

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