2022国家防衛戦略NDS:National Defense Strategy

初めてNPRとMDRも内包して80ページで
かつての「2+1/2」などの必要戦力量について言及無し

2022 NDS.jpg10月27日、オースチン国防長官が「国家防衛戦略NDS(公開版)」を発表し、史上初めて核体制見直しNPRとミサイル防衛見直しMDRも含めた80ページの文書を公開しました。NDSは約2週間前に大統領府から発表された「国家安全保障戦略NSS」を受けたものです。

12日のNSS公開がロシアのウクライナ侵略を受け3月予定から10月に遅れ、その影響を受けて米議会用の非公開版NDS作成から6か月遅れて公開版が公表されたわけですが、国防省関係者は大部分が2030年の世界を想定して対応方針を示す内容となっているNDSについて、ウクライナ侵略前の見積もりやコンセプトが誤りでないことが実証され、中核部分はほとんど変化がないと記者団に説明したようです

以下では、全くグラフや絵や図表の無い80ページの文書や、各種報道が紹介している国防省高官による「NDS説明ブリーフィングや質疑」も含めて、2022NDSの特徴的な部分を箇条書き方式で「つまみ食い紹介」したいと思います。

全般の特徴(まんぐーすの印象も含めて)
2022 NDS2.jpg●トランプ政権時の2018年NDSとの大きな違いは、2018年が「great power competition with near-peer nations」との表現だったのが、バイデン政権NSSの流れを受け、中国を第一の脅威とし、ロシアをその次に位置づけ、「長期的にシステマティックに米国に挑むことのできない脅威」と位置付けている
●初めて、核体制見直しNPR(25ページ)とミサイル防衛見直しMDR(12ページ)を含めた、合計80ページのNDSとして発表された

●これまでのNDSで示されてきた、目標とする戦力量、例えば「2つの主要紛争に対応可能な量」とか、「win-hold-win」が可能な戦力量等の記述がない。これに関しNDSは、「NDSが示す優先事項に対応できるよう、包括的でデータ分析に基づき、必要な戦略態勢を導く新たな検討枠組みで検討していく」と表現しているが、国防省幹部は具体的にどのような方向か答えなかった

●関連で米軍戦力量に関し国防省高官は「Joint Warfighting Concept activities」で煮詰めていくと説明すると同時に、海兵隊による、戦車部隊の廃止や歩兵や回転翼部隊の削減による総兵数の削減、ロケット部隊や対艦部隊や無人システムの増加や電子戦の強化など、対中国を強く意識した将来構想「Force Design 2030」を好事例として高く評価

2022 NDS5.JPG●米軍配置の見直しについても具体的には言及がなく、国防省高官は2023年度予算計画とリンクさせていると説明するにとどまっているが、オースチン長官が会見で「ウクライナ対処で2万人を欧州に緊急動員したが、極めて有効に機能した」と緊急時の派遣展開での対応に自信を示しており、NDS関連報道でも、常駐からローテーション派遣型への移行を追求する姿勢がにじみ出ていると紹介されている

●米軍再編(配置見直し)に関しては、Milley統合参謀本部議長が4月に米議会で述べた「私の希望は、恒久的な展開基地施設は設けるが、恒久的に駐留は行わないことである」との言葉に凝縮され、前線駐留は費用面でも駐留先との摩擦面でも負担が大きいことを国防省高官が最近しばしば言及している。また数万人規模の米軍を、日本や韓国に駐留させておく必要性についても、議論が続いていると報じられている

個別分野について「つまみ食い」紹介
2022 NDS3.jpg●中露の脅威については、特にサイバー、宇宙、水中能力への投資と能力増強注目し、人口知能や自動化などの先進技術を絡めた取り組みに警戒。また宇宙兵器や戦術核兵器、極超音速兵器やエネルギー兵器開発も併せ、民間技術の発達を迅速に軍事分野に導入することが重要で取り組みと記述。再生可能エネルギー利用も同様
●小規模で短期対応が必要な紛争対処も求められることを想定し、その際にも中露との本格紛争準備態勢が影響を受けないような戦力構成を作り上げ、戦力運用を行うことが重要。これにより中露が米国や同盟国の国益を害することが無いように抑止する

●中露以外にも、北朝鮮の核開発やミサイル増強、イランの核開発やウクライナへの無人機輸出など武器輸出などの深刻な脅威にも対応する必要があり、加えて気候変動対処、パンデミック、国境を超える脅威についての対応を重視

2022 NDS4.jpg●これら脅威への対処においては、軍種間の協力や同盟国等との連携を含めた「integrated deterrence」が重要で、同盟国等との関係強化には、日ごろからの地道な演習や展開訓練やウォーゲームの共同実施などが極めて重要

●また米軍内では、全ドメインでシームレスな戦力融合を強化し、米国や同盟国に手出しすることが、大きなコスト負担を招くことを潜在敵対者に知らしめて抑止する
●軍需産業界とも協力し、軍需産業基盤の強化により安定したサプライチェーンの構築に取り組んでい行く

核態勢見直しNRP関連
2022 NRP.jpg●数十年に渡る学界を巻き込んだリ理論研究も踏まえ構築されてきた米露2極での抑止世界ではなく、中国も交えた3極体制での抑止を機能させる必要があるが、容易ではなく引き続く格闘していく
●バイデン政権は核兵器への依存を減らす方針を掲げて発足したが、中国が議論のテーブルにつかず、ウクライナを巡るプーチンの姿勢もあり、動きにくい状態が続いている

●また核兵器運用態勢を維持するため、衛星やサイバー空間を通じた強固な核兵器運用のためのC3システムを維持する必要を強調
●NDSは、B83-1重量投下型核爆弾の退役と、海上発射巡航ミサイル搭載核の開発中止を要求しているが、バイデン政権は決定していない。

ミサイル防衛見直し
(報道が見当たらず、本文を見るのも疲れて断念・・・)
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国家安全保障戦略NSS発表の際は、「旧統一教会」に隠れ、日本でほとんど報道が無かった印象ですが、国家防衛戦略NDSも同様の扱いでしょうか? 嘆かわしい状態です

沖縄嘉手納基地からの米空軍F-15戦闘機撤退とローテーション派遣への移行ニュースに代表される、米海兵隊を含む在日米軍の今後の「転進(撤退)」の動きに注目しています

米国防省のNDS紹介ページ
https://www.defense.gov/National-Defense-Strategy/
NDSの現物(NPR25とMDR12ページも含む80ページ)
https://media.defense.gov/2022/Oct/27/2003103845/-1/-1/1/2022-NATIONAL-DEFENSE-STRATEGY-NPR-MDR.PDF

トランプ政権での国家安全保障戦略NSSと関連文書
「国家安全保障政策を概観」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-12-23-1
「NDS:国家防衛戦略」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-01-20
「リーク版NPR」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-13

米海兵隊の変革
「歩兵の多能兵士化を推進中」→https://holylandtokyo.com/2021/04/27/117/
「海兵隊で歩兵が砲兵を支援する新形態演習」→https://holylandtokyo.com/2021/04/15/107/
「対潜水艦作戦にも」→https://holylandtokyo.com/2020/11/09/382/
「司令官が在日米海兵隊削減を示唆」→https://holylandtokyo.com/2020/09/28/488/
「米海兵隊は戦車部隊廃止へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-25

世界の安保・軍事情報を伝えたい ブログ「東京の郊外より」支援の会
米国を中心とした世界の軍事メディアが報じている、世界の標準的な安全保障情報や軍事情報をご紹介するブログ「東京の郊外より・・・」を支援するファンクラブです。ご支援お願いいたします。

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