米空軍が「ゴールを動かして」KC-46の運用態勢確立を宣言

RVSやブーム固着の1級不具合改善が未完のまま
運用制限を課したままでA-10除き給油可能と宣言
ネットワーク中継機としても初任務成功発表

KC-46A3.jpg9月16日米空軍がKC-46A空中給油機に関し、A-10攻撃機への空中給油を除き、RVS運用制限などが残るものの、B-2戦略爆撃機への給油任務など米戦略軍関連の任務を含む全ての任務に関し、全世界で任務遂行可能状態になったと宣言しました。

開催中の米空軍協会主催の航空宇宙サイバー会議で、19日に米空軍輸送コマンド司令官Mike Minihan大将が記者団に明らかにしたもので、RVS(Remote Vision System)とは別の第1級不具合である給油ブームの柔軟性欠如(stiffness)問題でA-10への給油承認が出せていないが、RVSなど他の不具合については運用制限をかけ現場の工夫で対処することとして「運用開始宣言」を行うことにしたと説明しています

KC-46 RVS.jpg運用開始宣言の前兆として、砂漠地域での運用態勢検証のためカタールに派遣されていた4機のKC-46が8月29日に、作戦任務に向かうF-15Eストライクイーグルに空中給油を行い、初の実戦任務機への給油を行ったと9月中旬に発表され、「前のめりだな・・・」と思っていたところでした

まんぐーすは、RVSの新バージョンRVS2.0が完成して改修完了する2024年以降に、戦闘任務への投入を含む「運用態勢確立宣言」を行うものだと関係幹部のこれまでの発言から認識していましたので、「ゴールを動かされた」「キツネにつままれた」ような気分で驚きましたが、米空軍が自ら「リスク」を背負って「運用開始宣言」を行ったのですから、これ以上グジグジいうのは止めておきましょう。

KC-46 RVS2.jpg加えて8月29日のF-15Eへの給油任務時には、KC-46に搭載されたネットワーク中継装置「Military Data Network communications system」が初めて作戦任務に投入され、地上の航空作戦センターと空中の作戦機との間のデータ通信を中継するノードの役割を果たして、戦場参加者の状況認識向上に大きく貢献したとも発表されています

Minihan司令官は記者団に対し
●私はKC-46が現在も抱える問題の解決に関し、ボーイング社と厳しく真正面から向き合っており、課題解決の質・時間管理・コストについて一切妥協していないし、最短で課題を解決するようプッシュし続ける。しかし、能力を備えた給油機が手元にあるなら、その活用をなぜためらう必要があるのか?

Minihan.jpg●仮に明日の戦いに敗北することがあれば、10年後のKC-46部隊はあり得ない。私には今KC-46が必要なのだ。私はKC-46の能力に100%確信を持っている。同機の飛行や修理や支援に当たる者は同機を愛しているし、給油を受けた側も同じであり、訓練のために展開した世界中の地域戦闘コマンド司令官も同機のファンになってくれている。

●(RVSやブーム以外にも、)貨物搭載管理ソフトの不具合で飛行中に貨物固定フックが外れる等の不具合があり制約があるが、運用制限状態でも任務遂行可能宣言を行うことが可能だと考えている。現場部隊は暫定対処手順を編み出しており、現場の手順書TTPに注意書きを加えること等で対応していく
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米空軍や航空自衛隊の対中国作戦環境を考えると、空中給油機が極めて重要であることから、KC-46についてはチマチマと延々とフォローしてまいりました。

Minihan3.jpg米空軍は計179機を同機を購入予定で、既に60機以上を受領済とのこともあり、またKC-135やKC-10の老朽化や維持整備費高騰が著しいことから、「ゴールを動かしての運用態勢確立宣言」は正に「苦肉の策」と言えましょう。

それでも管轄する空軍輸送コマンド司令官が、リスクを覚悟の上で前線の兵士に対し、逃げも隠れもせず「私には今KC-46が必要なのだ」と正々堂々と述べることで、部隊運用に勢いも出ると期待しています

ちなみにMinihan司令官は、本来32個の勲章を授与されており胸につけることが可能なようですが、前職の太平洋軍副司令官時代に、個人功績に関するものは装着せず、大規模部隊指揮官として、部隊表彰を受けたことを表す3つのみを着用することにしたそうです。

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