「経費固定契約」なので提案のリスク評価努力を怠った
ボーイングとの契約が失敗だったと言わんばかりの率直さ
今後、企業提案や主張や価格を厳しく見極めると
6月1日、Kendall空軍長官がヘリテージ財団での講演で、要求性能を満たせず大幅に遅れているKC-46空中給油機開発について、ボーイングとの契約を固定価格契約にしたことで国防省側に予算超過負担の恐れが無くなり、ボーイング提案の開発リスクを十分把握しようとしなかったことが現状の原因で、当時の調達担当国防次官として責任を負うべき立場にある、とあまりにも率直に語りました
同長官は当時の状況について、「ボーイングはエアバス社との熾烈な契約獲得競争の中にあり、理想的な開発シナリオを描いて問題のRVSも開発リスクが少ないと売り込んだ」とボーイングを非難しつつも、「予算超過負担の無い固定価格契約をボーイングが受け入れたこともあり、アグレッシブに企業提案を精査することを怠った」、「特に問題の無い開発案件だと思い込んだ」、「固定価格契約の5条件を満たすと判断してしまった」等と講演で吐露しています
『ご参考』国防次官当時2012年に定めた固定価格契約を判断する5つの条件
・米軍や国防省側の要求事項が明確
・関連技術が成熟しており、技術リスクが低い
・サプライヤーが信頼に足る能力を保持
・契約相手が予期せぬコスト超過に耐えうること
・企業側の事業継続意欲があること
そして同長官は、「仮に固定価格契約でなく、コスト加算型契約だったなら、企業提案をより細かく精査して現在の状況を避けられたと思う」、「企業側がリスクを受ける前提だからと、企業側に任せすぎてしまった」、「私は結果に対し、責めを負わなければならない」と述べています
この講演発言を報じた2日付米空軍協会web記事は、kendall長官は今後、事業や開発案件が良く理解された問題なさそうなものでも、企業の提案内容や主張、低価格入札に対し、より懐疑的な視線を持って精査することになる、と説明しています
一方のボーイング側はCEO・David Calhoun氏が4月、(前任者による無理した低価格入札により)KC-46で約6500億円の損失を出し、T-7A練習機とVC-25B大統領専用機をあわせて約1200億円を失う苦境にある現状に鑑み、無理をした低価格入札による契約獲得戦略を再検討していると語っているところです
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これだけ率直に公の場で話をして、ボーイングとの関係が大丈夫なのか・・・と余計な心配をしてしまいますが、ボーイングも米軍も、体面を機にしてられない「火の車」状態なんでしょう。でもドロ沼機種選定で敗れたエアバス社が訴える恐れはないのでしょうか?
ところで、この空軍長官によるヘリテージ財団講演を3回にわたってご紹介してきましたが、空軍長官が作戦運用やウクライナ対処に直接関与する立場に無いとはいえ、ウクライナ情勢に足を取られ、対中国態勢整備に支障があってはならない、予算を死守しなければならないとの切迫感を感じます
もちろん国家戦略レベルを考える政策担当部署や対外関係部署は立場が違いましょうが、米軍にとってはウクライナ問題は「邪魔でしょうがない」お話なんでしょう
追伸・・・
6月2日米輸送コマンドは、KC-46が同コマンド担当の空中給油対象機の97%に空中給油が可能になったと発表し、様々な理由により給油認可が下りていないのは以下の5機種のみだと明らかにしました
→A-10攻撃機、B-2ステルス爆撃機、CV-22オスプレイ特殊作戦機、E-4空中指揮機、MC-130H特殊作戦支援空中給油機
他のKendall長官ヘリテージ講演紹介記事
「NGADはEMD phaseに入った」→https://holylandtokyo.com/2022/06/03/3315/
「空中給油機の必要ミニマム機数を削減希望」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-06-02-1
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「RVS改修案に合意」→https://holylandtokyo.com/2022/04/27/3181/
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