唯一の核管理条約「新 START」の期限 2026年2月に向けて

米空軍GSC令官が「条約失効後」の世界に何時でも対応可能と
100機導入目途のB-21爆撃機は145機でもなく更にと

6月5日、米空軍の核兵器担任である戦略爆撃機部隊とICBM部隊を配下に置く、米空軍 GSC(Global Strike Command)司令官Thomas A Bussiere 大将(次の米空軍副参謀総長の候補)が講演で、2026年2月の条約失効期限を前に、既にロシアが 2023年に延長拒否を表明している「新 START 条約」に関し、

現存する唯一の核兵器管理条約である同条約の重要性に触れつつも、同条約延長が困難な情勢を踏まえ、弾頭数や運搬手段数を制限する同条約「失効後の世界」に備え、「陸上部隊と爆撃部隊の両方が追加能力を提供する事になるかも」、「指示があれば、我々にはそれを実行する能力があり、命令を実行する準備を整えている」と語っています。

なお本件に関し米空軍報道官は、条約が失効した場合に、追加予算と指示があれば、(配備中の400発のICBM ミニットマンⅢは、3つの核弾頭を搭載可能に設計されているが、条約のため各1発しか搭載していないが、)複数弾頭搭載ICBM を警戒待機態勢に置けるし、B-2爆撃機とB-52 爆撃機に追加でより多くの核兵器搭載も可能だが、「あくまで大統領と国防長官の指示があっての話だ」とコメントしています

同司令官の発言内容に細部に触れる前に、まず2年3か月ぶりに取り上げる「新 START 条約」を復習します。

新START条約は米露間で2011年2月5日に発効したもので、双方の戦略核弾頭上限を1550発とし、その運搬手段である戦略ミサイルや爆撃機配備数の総数を 800以下に削減し、配備済の運搬手段上限を700に制限する条約です。有効期限は10年間で、最大5年の延長を可能とし、条約の履行検証は米両国政府による相互査察により行うこととなっています。

核兵器管理の条約には新STARTとINF全廃条約がありましたが、1987年12月8日に米露が署名し、相互に射程 500kmから 5500km の地上発射弾道ミサイルの廃棄と保有禁止を約束するINF全廃条約は、ロシアが条約を履行していないとして、トランプ政権が2019年8月2日に破棄通告しています。

INF全廃条約破棄を受け、新START条約が核兵器管理の唯一の枠組みとなったことから、多くの専門家が同条約の延長すべきと主張し、末尾の過去記事で紹介しているように、2021年の10年目の有効期限切れの際は、最後の最後までロシアのノラリクラリ戦術で紛糾した挙句、土壇場で5年間の延長に両国が合意した超難産の経緯も踏んで今日を迎えています

ただしトランプ大統領は第1期目の際に、本条約を「オバマ時代の悪いディールだ」と呼び、新START 条約の延長はせず、中国も含めた米中の3カ国で核兵器管理の合意を追及すべきだと発言しています。
(中国は、米露が中国並みの核兵器規模にまで削減したら、考えてやってもよい・・・的な姿勢です。)

2度目の大統領に就任した直後のトランプ氏は2025年2月にも、米国の新核搭載兵器への投入予定金額を嘆き、露中との軍備管理協議を進めたいと述べ、「新たな核兵器開発の必要はない。世界を50回、いや 100回以上破壊できる。そんな中でも我々も彼らも核兵器を開発している」、「我々は皆、もっと生産的な分野に資金を費やすべきだ」と記者団に語っているところです。

そんな中、6月5日に米空軍GSC司令官は・・・
●(計画から既に3年遅れと米空軍予算全体の2年分の経費超過となっている次期ICBM 計画に関し、)発射施設と指揮統制インフラの建設費用、つまり土木工事の規模の大きさが主な原因で、計画は最大3年遅れているものの、その他は順調に進んでいる
●新ICBM 発射施設と管制センターでの運用体制に移行する過程で、抑止力に必要な最低限のミニットマンⅢを保有し続けるため、非常に綿密な計画を策定している。移行期にミニットマンⅢの運用を維持することは国家の責務だ

●複雑なICBM の更新近代化と、B-2後継としてのB-21導入、新型空中発射巡航ミサイル、そして海軍の新型戦略原潜コロンビア級導入を同時に進めているが、将来は核兵器 3本柱すべてを同時にやるのではなく、10年ごとに1本ずつやることも検討が必要かもしれない

●空軍は1機約 1000億円のB-21を少なくとも 100機購入する計画である。しかし多くの部隊指揮官、国防省関係者、そして米議会から「100機で十分か?」との疑問が出始めている。145機に増やすべきとの試算もあるが、それは過去の脅威予測を前提としている。
●適切な数字は何かを再検討する必要がある。幸いその決定を下す時間は十分にある

●無人機技術の発達は承知しているが、自分が生きている間に自律型核搭載無人爆撃機が実現するとは考えていない。核兵器の使用を決断するのは人間だ

追加情報:新任のMeink 空軍長官が6月5日に下院軍事委員会で、トランプ大統領の「核兵器はもう十分だ」発言について質問され。・・
●核抑止力は米国の国防における最優先事項の一つである。空軍長官に就任以来、次期ICBM計画に最も多くの時間を費やしている
●私はトランプ大統領と意見が合わないと思ったことは一度もないし、今後も全くないと考えている。大統領の優先事項を支える重要な計画だからだ。
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「新 START 条約」が失効するであろう2026年2月に向けての動きを、2年3か月ぶりに取り上げましたので、過去の経緯や背景説明が多くなってしまいました。

同時に、核兵器を巡る様々な課題が、3本柱全てで噴出している現状を概観いただけたのでは・・・とも考えております。

最後に・・・米空軍GSC 司令官 Bussiere 大将には、以下2点について是非コメント頂きたいところです。
●次期爆撃機 B-21の機種選定要求事項や初期契約には、B-21は「optionally manned」であることが記載&要求され、つまり無人機運用が可能なことが求められているはず
●2011年7月14日に、当時のカートライト統合参謀副議長が記者団に言い放った以下の発言
・私は米空軍に「なぜ次期爆撃機に有人タイプが必要か説明せよ」との課題を与えているが、誰一人としてその理由を教えてくれない。
・核任務を行う爆撃機は有人であるべきだと言う者がいるなら聞いてみたい。ICBMや SLBMや巡航ミサイルに有人型があったか?

Bussiere大将は、次の米空軍副参謀総長の候補です
「混迷の次期ICBM計画を担う」→https://holylandtokyo.com/2025/07/23/12257/

戦略爆撃機が有人機である必要性は?
「米軍 No2が米空軍を痛烈批判」→https://holylandtokyo.com/2021/12/18/2542/

2021年:新START期限切れ寸前延長
「米が露の条約不履行を非難」→https://holylandtokyo.com/2023/02/02/4251/
「露が再延長合意」→https://holylandtokyo.com/2021/01/23/305/
「ドタキャン後に延長表明」→https://holylandtokyo.com/2020/10/19/435/
「延長へ米露交渉開始?」→https://holylandtokyo.com/2020/04/20/730/
「中国は核兵器管理条約を拒否」→https://holylandtokyo.com/2020/07/13/570/

中国の核軍備管理への姿勢
「中国外務省の兵器管理局長発言」→https://holylandtokyo.com/2022/01/11/2597/
「核兵器軍縮条約に加わる意思なし」→https://holylandtokyo.com/2020/07/13/570/

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