イスラエルは期待の防空兵器をウに提供せず

米印が導入済の「アイアン・ドーム」提供を継続拒否
ロシアとの関係に配慮&最新装備の秘密漏洩危惧
短射程ミサイル・ロケット防御システムとして世界最強とか

Iron Dom6.jpg7月21日付読売新聞朝刊が「世界最強の防空システム“アイアン・ドーム”、イスラエルがウクライナへの提供拒む」との記事を掲載し、対シリア軍事作戦やロシア在住ユダヤ人コミュニティーの存在などロシアへの配慮、また最新防空システムの技術漏洩への懸念等から、ウクライナが強く要請している短射程ミサイル防衛分野で世界最強と言われる防空システム「Iron Dom:アイアン・ドーム」の提供を拒否していると報じています

Iron Dom.jpg「Iron Dom:アイアン・ドーム」は、イスラエル北部の脅威となっているイスラム武装組織「ヒズボラ」や、南部ガザ地区に根を張る「ハマス」からイスラエル国内に発射される短射程ミサイルやロケット弾からイスラエル国民を守るため、米国からの軍事援助資金を活用してイスラエル企業ラファエル社が開発し、2011年から同国で配備運用されている防空ミサイルシステムです

 

Iron Dom7.jpgあくまで短射程のミサイル・ロケット・迫撃弾・砲弾などを迎撃する目的のシステムで、対処範囲も10㎞以内程度と言われていますが、様々な兵器が世界中に拡散して重層的な防御態勢構築を迫られる中、米軍やインド軍も導入し、米陸軍部隊は対中国を意識したグアム島での試験も行っています。

また、最初の海外輸出が対露のアゼルバイジャンやルーマニアで、その後インドと米軍へも輸出され、シンガポール、韓国、サウジ、キプロスも導入を検討中と報じられています

Iron Dome8.jpgやみくもに迎撃ミサイルを発射するのではなく、システムで迎撃可能な目標を絞り込んで対処する基本方針で運用プログラムが構成されており、イスラエル軍やラファエル社の発表では、1目標に2発の迎撃ミサイルを発射する運用で、運用開始の2011年当時で既に90%の撃墜率を達成したとされており、このクラスの防空システムとしては「世界最強」との評価も聞かれる装備です

Iron Dom4.jpgただし、迎撃ミサイル1発が1500~2000万円と高価で、迎撃対象目標が大量に発射される安価なミサイルやロケット弾であることから、その費用対効果をどう評価するかが各国の導入判断の際に悩ましい問題となっており、例えば韓国では、2011年から何度も導入検討と国産化と費用対効果分析結果で導入見送りが繰り返されています

前置きが長くなりましたが、以下では「Iron Dom:アイアン・ドーム」を巡るウクライナとイスラエルの状況をご紹介します

7月21日付読売新聞朝刊記事によれば
Iron Dom9.jpg●2011年の「Iron Dom」導入以来、イスラエル国民の命を守り続けた同システムは、昨年8月にはロケット弾470発の97%の迎撃に成功している。その成果にウクライナが目を付け、2022年10月に正式にウクライナからイスラエルに同システム売却を要請した
●しかしイスラエルはウクライナに色よい返事をせず、ロシアへの表立った批判を控える姿勢も一貫しており、ウクライナに軍事物資を送らず、医療機器の提供など人道支援にとどめている

Iron Dom8.jpg●イスラエルがアイアン・ドームを提供しないのは、ロシアの動きに神経をとがらせているからだ。イスラエルは自国防衛のため、内戦が続くシリアの軍施設や武装勢力の拠点の空爆を散発的に続けている。この空爆はシリアの制空権を握るロシアの黙認なしには、実行できない。また、ロシアには数十万人とされるユダヤ人のコミュニティーがあり、ロシアと敵対したくない事情も背景にある。

●このようなイスラエルの姿勢に、ロシアからの攻撃が再び激化しているウクライナはいら立ちを募らせ、6月28日に在イスラエルのウクライナ大使館は、「ロシアは空爆して我が国民を殺害している。それなのに、イスラエルはウクライナへの防衛装備品売却を依然拒んでいる」とイスラエルを痛烈に批判する声明を出した

Uzi Israel.jpg●この状況に関し、イスラエルのベギン・サダト戦略研究所ウジ・ルービン研究員は「イスラエルの役割は歴史的に正しい側につくことではなく、国防や経済的必要性に見合う側につくことだ」と冷徹に指摘している

●またイスラエル軍の前情報局長で国家安全保障研究所のタミール・ハイマン所長は、「アイアン・ドームは北のシリアや南のガザからのロケット攻撃を受けるイスラエルにとって国民の命を守るために欠かせない装置だ。イスラエルが最も懸念しているのは、シリアでの動向に加え、ウクライナに供与した最先端の技術が奪われ、ロシア、さらにイランに流出することだ。そうなればこの装備の優位性を保てなくなる。イスラエルは今後もウクライナにアイアン・ドームを提供することはないだろう」との見解を示している
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Iron Dom2.jpg米国からイスラエルに対し、同システムを提供するよう圧力がかかっているとの話も聞きませんし、2022年2月の開戦時からイスラエルのウクライナとロシアへの姿勢は一貫しているようです

「イスラエルの役割は歴史的に正しい側につくことではなく、国防や経済的必要性に見合う側につくことだ」・・・一つの正論です

WSJ紙のIron Dom紹介映像(2分30秒)

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