2021年12月の@メキシコ湾以来の実発射試験
輸送機のミサイル投下母機使用に賛否渦巻く中
米空軍は様々なオプション求め推進中
11月9日、米特殊作戦軍所属のMC-130J Commando II特殊作戦機が、貨物庫からパレットに乗せられたJASSM-ER空対地スタンドオフミサイルを投下して攻撃する試験をノルウェーの演習場で実施し、海外で初めて成功したと欧州米特殊作戦軍がTwitter発表(発表は10日)しました
輸送機からのミサイル投下は、「Rapid Dragon計画」とのプロジェクト名で2年前に開始されたばかりの取り組みですが、極めて順調だとプロジェクト責任者の米空軍研究所AFRLのDean Evans氏はアピールし、2021年12月のメキシコ湾での試験以来の実射成功に自信を深めているようです
試験は、米軍と欧州諸国が参加する恒例の演習「Atreus」(今回は英、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア参加)内で実施され、ノルウェーの演習場「Andøya Space Defense Range」で行われました。
欧州米空軍がTwitter公開した映像が示すように、MC-130貨物室からパラシュートで引っ張り出されて投下されたJASSM-ER(最大射程1000㎞)は、海面に向いて垂直にぶら下げられた状態でパレットから真下に射出され、翼を広げると同時にエンジンに点火し、海面を這うよう飛翔した後、投下から約2分間に予定通り着弾しました
#BREAKING video from 352nd Special Operations Wing successful test fire of a palletized Joint Air to Surface Standoff Missile (JASSM). Successful extraction of deployment box, release of JASSM with wing extension, and motor engagement during exercise #ATREUS22 #SOFinEurope pic.twitter.com/3hLcXDJ3bl
— US Spec Ops Europe (@US_SOCEUR) November 9, 2022
10日付Defense-News報道はここまでですが、本日は輸送機から精密誘導兵器を投下する「Rapid Dragon計画」に関する、米空軍側の主張と米空軍OBの反対意見をご紹介します
米空軍の考え方
●対中国作戦は、米本土から遠く離れた西太平洋で実施され、作戦根拠基地が乏しい中、中国軍からの攻撃による被害も想定する必要があり、分散した小さな拠点からの作戦実施が求められ、従来の作戦運用の枠にとらわれない柔軟な発想が必要
●このような戦場環境下、大量の攻撃目標に対応するには従来の爆撃機や攻撃機だけでは不足するので、無人機や無人機ウイングマン機の活用が検討されているが、既存のアセットである輸送機の攻撃活用もオプションの一つである
●爆撃機や戦闘爆撃機だけでなく、輸送機を攻撃に活用することで、敵の攻撃や迎撃計画を複雑化させ負荷をかけることも狙う効果の一つであり、逆にB-52爆撃機を物資空輸に活用することも検討している
空軍OBの反対意見
(空軍協会ミッチェル研究所長や研究員)
●対中国作戦での輸送要求は膨大で、民間輸送力の活用が不可欠な状態なのに、軍用輸送機を攻撃に活用する余裕など全くないはず
●自己防御能力が低く脆弱な輸送機は敵の防空圏内に近づけず、少なくとも1発1億円以上する長射程精密誘導兵器を搭載する必要があるが、数千から万単位の攻撃目標に対処するためには、長射程兵器依存では米国は破産する
●長射程精密誘導兵器による「Stand-off」攻撃オプション重視が米空軍だけでなく、陸海海兵隊部隊の将来構想の中心になりつつあるが、ウォーゲームや各種机上シミュレーション結果に謙虚に向き合えば、1発500万円以下のJDAM等をより有効活用する「Stand-in」攻撃が不可欠なはず。現実を見て統合レベルでよく考えろ!
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オプションの一つとして研究開発する米空軍の姿勢にも一理ありますが、空軍OBの反対意見「Stand-off攻撃だけでは破産するし、兵器も足りない」との主張は極めて重く、対中国作戦の根本的問題をついています。
指揮統制C2改革しかり、作戦拠点の確保問題(同盟国の理解)しかり、輸送力不足問題しかり、弾薬補含む攻撃力不足しかり、中国によるミサイル攻撃に対する脆弱性問題しかり、台湾有事の足音が聞こえてきそうな今日この頃、課題は山積しています
輸送機からの兵器投下検討
「巡航ミサイル投下&攻撃試験」→https://holylandtokyo.com/2021/12/20/2550/
「Rapid Dragonを本格検証へ」→https://holylandtokyo.com/2020/11/06/380/
「反対Stand-inとoffのバランス不可欠」→https://holylandtokyo.com/2020/07/01/562/
「空軍計画部長が語る」→https://holylandtokyo.com/2020/06/09/619/
「MC-130からパレタイズ兵器投下試験」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-01
輸送能力や弾薬量の圧倒的不足
「民間海空輸送力活用のための取組」→https://holylandtokyo.com/2022/10/21/3780/
「弾薬不足:産業基盤育成から」→https://holylandtokyo.com/2022/10/19/3758/
「ウ事案に学ぶ台湾事案への教訓9つ」→https://holylandtokyo.com/2022/03/15/2806/