空軍長官がAETPエンジン導入主張しつつ意味深発言
「AETPは高価なエンジン」「概算で70機分削減だ」
AETP採用しないと軍需産業崩壊発言には「言い過ぎ」
9月7日、Kendall空軍長官がDefense-News主催のパネル討議でF-35エンジン問題について国防省レベルでの早期決断を促すとともに、自身が希望する新エンジンAETPへの換装を選択した場合、F-35用への開発だけで8000億円以上必要なことから、米空軍は概算でF-35調達機数を70機削減する厳しい選択を迫られると語りました
繰り返しご紹介してきたようにこの問題は、現在使用されているF-35用エンジンF135(Pratt & Whitney)のエンジンブレードの耐久性が想定より低く、機体稼働率低迷と維持整備コスト増の大きな要因となっていることから、次期制空機用に開発中のAETPエンジンをF-35に適応開発して搭載するか、現F135エンジン改修を行うか、現F135エンジンの維持整備体制等を強化して「しのぐ」か等の選択を迫られている件です
空軍長官はかねてより、高価(F135改修の3倍)だが出力や燃料消費効率が3割近く改善するAETP採用を希望していますが、一方でF-35が米海軍海兵隊や同盟国でも広く採用されていることから、国防省レベルで2024年度予算議論の中で早期決断すべきであり、「いつまでもAETPのF-35適応開発検討に予算を注ぎ込んでいられない」と国防副長官や調達担当国防次官に訴えてきたところです
7日のパネル討議で空軍長官は、「既に数百機のF-35を保有している我々は、高価な開発費が必要なAETPエンジンをどのようにどの程度導入するかを考えねばならない。概算で開発費は70機分のF-35に相当し、新エンジンを導入するには70機少ないF-35で我慢することが求められる」と具体的に語っています
AETPのF-35用適応開発費は8000億円強で70機相当なのかもしれませんが、AETP導入でライフサイクルコストが4兆3000億円に膨らむとも報道されており、F135改修案よりも遥かに高額で、これを米空軍内で納めようとすると70機の削減では済まないとも考えられます
また同空軍長官はパネル討議で、8月11日に空軍エンジン開発担当幹部が「AETPへの換装を選択しないと、エンジン関連の軍需産業基盤が崩壊する」と発言して物議を醸している件については、「言い過ぎだ:overstatement」と述べ、軍需産業界に健全な競争環境を維持することは関係者が常々考えていることで、引き続き念頭に置いておく必要がある課題だと述べるにとどめています
更に次期制空機NGAD用のエンジンAETPプロトタイプ製造契約に関し、それぞれにエンジン試作中のGE 社(XA100エンジン)とPratt & Whitney社(XA101エンジン)に加え、競い合っているはずの機体開発3企業ボーイング、ロッキード、N-グラマンも含むことを8月19日に米空軍が発表して話題になりましたが、この件についてKendall長官は「製造されるエンジン数は、F-35と比較するとmodestだ」と語り、1期数百億円だと同長官が表現したNGADの調達機数が少なくなることを示唆しています
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7日のパネル討議で「70機」という数字を出したKendall空軍長官の意図はよくわかりません。
単に、8000億円以上と言われる高価な開発費のイメージを表現したのか、空軍は70機調達機数を削減してでもAETPを希望すると主張したかったのか、ライフサイクルコストまで含めると跳ね上がる経費を飲み込むため、現在の1763機調達予定数を350-400機削減することへの前振りなのか、同盟国等への迷惑な強制情報提供なのか・・・
益々「亡国のF-35」との表現がふさわしい戦闘機となってきたF-35について、今後とも生暖かく見守っていきますが、世界各国の空軍でF-35を担当させられている有能な働き盛りの皆様が直面する苦悩を思うと、本当に胸が痛みます
F-35のエンジン問題
「AETP採用しないと産業基盤崩壊訴え」→https://holylandtokyo.com/2022/08/24/3562/
「空軍長官:国防省に下駄預ける」→https://holylandtokyo.com/2022/08/09/3515/
「空軍長官:数か月で決着すべき」→https://holylandtokyo.com/2022/05/26/3260/
「上院で議論」→https://holylandtokyo.com/2022/05/18/3223/
「下院軍事委員長がAETPに関心」→https://holylandtokyo.com/2021/09/09/2184/
「エンジン問題で15%飛行不能」→https://holylandtokyo.com/2021/07/27/2022/
「エンジンブレードと整備性問題」→https://holylandtokyo.com/2021/02/17/263/
「Lord次官が最後の会見でF-35問題を」→https://holylandtokyo.com/2021/02/03/254/
次期制空機NGAD用のAETPエンジン開発
「プロトタイプ開発契約に機体メーカーも」→https://holylandtokyo.com/2022/09/01/3581/