Lord次官:最後はF-35稼働率の状況説明

複数ある任務の一つでも可能な機体は69%
全ての任務が可能な機体は39%
ご紹介が遅くなってしまいましたが・・・

Lord2.jpg1月19日、20日正午に退任したEllen Lord調達担当国防次官が最後の記者会見を行い、F-35の稼働率改善状況について説明しました。

F-35の稼働率については以前から何回かご紹介してきましたが、この会見の模様を報じるDefense-News記事もコメントしているように、その発表事項の統計の範囲や数値の定義が「安全保障上の非公開事項」にあたるとして明確でないため、あまり突っ込んで議論もできないのですが、大まかな傾向としてご紹介しておきます

Mattis.jpgちなみに米軍は、当時のMattis国防長官から主要な戦闘機(F-22、F-35、F-16、FA-18)の稼働率80%を達成せよと指示されましたが、結局クリアーすることができず、Mattis長官退任後に、「単純な稼働率80%目標は、部隊任務達成度合いに比例しない」と理由をつけ、従来からの部隊ごと機種ごとの目標設定に回帰しています

そんな中で、Lord次官がF-35の稼働率について最後の会見で説明したのかよくわかりませんが、米軍が抱える調達や維持整備の問題の典型として、また史上最大の装備品調達であるF-35の状況に触れる責任を感じたのかもしれません

20日付Defense-News記事によれば
F-35 3-type.jpg19日、記者団に対しLord次官は、F-35は引き続き稼働率目標達成のために努力を続けているが、目標としている80%には到達していないと説明した
具体的に同次官は、「多数ある任務の一つでも可能:can meet at least one of its assigned missions」な機体の割合は現状で69%で、目標の80%に達していないと述べ、「全ての任務が遂行可能な機体:fully mission capable aircraft」の割合は36%で、目標50%に向け努力していると説明した

これら稼働率が改善されない主な理由として同次官は、キャノピーの表面剥離やF135エンジン関連問題があると語った
同次官は細部には言及しなかったが、キャノピーについては以前から表面のコーティング剥離が課題となっており、2019年に国防省F-35準備室報道官が製造メーカー「GKN Aerospace」と改善協議を行っていると説明していたところである

ただ、国防省としては、種々の問題を抱えつつも、F-35の稼働率は改善していると説明を続けており、例えば・・・

●2020年7月の下院委員会でLord次官は
F-35稼働率は、2020年1月には60%であったが、同年6月には70%に上昇した。また全ての任務が可能な機体比率は、同期間で40%から50%に上昇したと説明し
●2019年11月の下院委員会でLord次官は
戦闘任務にあたる飛行部隊での稼働率は、2018年10月の55%から、2019年9月の73%に上昇した・・・等と説明してきている

F-35B.jpg一方で、この「稼働率」がどのような統計数値を基に算出されているのかは、「作戦運用上の非公開事項」であるとして不明確な部分も多く、公表数値がF-35の中でも初期に納入されて教育部隊で主に使用されている稼働率の低い機体を含めた数値である場合や、「作戦用部隊:combat-coded squadrons」の数値である場合がまちまちで、単純な比較が難しいケースもある
会計検査院GAOレポートでも、2018年度はF-35の3タイプ全てで稼働率が向上したと記載されているものの、細部データが記載されていないケースがある

また、2020年11月の会計検査院GAOレポートでは以下のような説明があるが、年度ごとの稼働率の細部は公開されず、毎月継続的に上昇しているのか、凸凹がかなりあるが上昇しているのか等の傾向は読み取れない

— 2012年から2019年の間で、F-35Aが国防省が定めた目標稼働率を達成したのは2年のみ
— 2013年から2019年の間で、F-35Bが同様の目標達成は1年のみ、F-35Cは2年のみ
— 目標稼働率を達成できなかった主要な原因は、修理に必要な部品不足である。サプライチェーン

が前線部隊が必要とする部品をタイムリーに提供できないのだが、加えて、部品が想定していたよりも頻繁に壊れ、また米軍内の補修能力が故障に十分対応できない点も低い稼働率の要因である
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F-35 Gilmore.jpg軍隊とすれば、重要装備品の稼働率は隠したい数値ですので致し方ないのですが、開発と部隊導入を同時に進めた結果、様々なバージョンが部隊で混在し、維持整備に困難を抱えているF-35の状態を垣間見るためにご紹介いたしました

最近F-35関連報道は減少傾向ですが、米空軍F-35の保有機数は昨年夏時点で機種別第3位(1位F-16が938機、2位A-10が281機、3位F-35Aは241機)で、今年春にはA-10を抜いて第2位になる見込みです。開発途中のF-35ですが、早くも維持整備問題が大きな課題の「亡国のF-35」です

航空自衛隊のF-35部隊の状況は不明ですが、苦労されていないことを願います

主要戦闘機の稼働率問題など
「8割目標を放棄」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-08
「海軍FA-18は何とか達成?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-25
「米空軍はF-16のみ達成可能」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-09-06
「戦闘機稼働率8割への課題」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-09
「マティス国防長官が指示」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-11
「B-1爆撃機の稼働機一桁の衝撃」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-05
「2Bソフト機は稼働率4割台」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-10-1
「2/3が飛行不能FA-18の惨状」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-07
「世界中のF-35稼働率は5割」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-03-3
最近のF-35関連記事
「新型戦術核搭載飛行試験」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-28
「5月の事故対策改修は秘密」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-24
「ODIN提供開始」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-24
「中東でかく戦えり」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-19
「機種別機数が第3位に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-07
「B型とC型が超音速飛行制限甘受」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-27
「ボルトの誤使用:調査もせず放置へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-29
「ポーランドが13カ国目に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-03

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