空自操縦者の米国での墜落死亡事故調査報告

米軍教官同乗で空自訓練生が2月に墜落事故死
訓練生のスロットル操作ミスを教官が修正できず
ご冥福を祈りつつ、操縦の難しさを考えます

T-38 AC5.jpg10月7日、米空軍が2月19日にアラバマ州モンゴメリー地方空港近傍で発生したT-38練習機の墜落事項に関する調査報告書(8月6日付)を、Web上で公開しました。

当該事故は、航空自衛隊が米空軍に飛行教育を委託していた飛行訓練生ウエサキ2等空尉(事故当時:25歳)と同乗していた教官操縦者Scot Ames Jr.中尉(事故当時:24歳)が操縦するT-38ジェット練習機が、モンゴメリー地方空港(Montgomery Regional Airport)着陸直前に滑走路手前に墜落し、搭乗していた2名が亡くなった事故です

T-38 two.jpg航空自衛隊は戦闘機に進む飛行訓練生の一部の養成を米空軍に委託しており、当時15名の空自パイロット訓練生が、ミシシッピ州Columbus空軍基地の米空軍第14飛行訓練航空団で教育を受けていました

亡くなったお二人のご冥福を祈りつつ、国家安全保障の一翼を担うべく、「航空機の操縦」という難しい技術の習得に日夜取り組んでいる若者がいることを知っていただくため、8日付Military.com記事と事故調査報告書から事故と事故原因の概要をご紹介いたします

事故の概要
T-38 AC.jpg●2021年2月19日、2名は飛行訓練科目の一環として、母基地のミシシッピ州Columbus空軍基地から、アラバマ州のモンゴメリー空港を経由し、最終的にフロリダ州Tallahassee国際空港に向かう飛行を計画した
●母基地を離陸後、最初の目的地であるモンゴメリー空港への着陸準備に入っていた当日午後4時40分ごろ、滑走路の手前約600m地点に墜落した
●両名とも、操縦席から緊急脱出することはなかった

事故の流れ
●当該機はウエサキ訓練生の操縦により、空港が定めた着陸機用のサークル軌道を描きつつ、滑走路中心方向と一致するように最終着陸旋回に入ったが、この際、基準速度よりも18ノット早く飛行し、同時に旋回が急角度すぎて、滑走路中心ラインより手前に侵入しそうな状況(Undershoot)状態にあった
T-38 AC2.jpg●この状態を感知したAmes中尉は、ウエサキ訓練生に速度を落とし、旋回を少し緩め滑走路中心線に進入するよう指示したが、その後当該機は着陸進入速度を下回る速度にまで減速し、高度を失った

●Ames中尉は操縦をウエサキ訓練生から代わり、飛行速度と高度を回復するため、エンジン出力を最大のアフターバーナー状態にまで上げた
●しかし、その時点までに18秒間もエンジン出力を最小のアイドル状態にしていたこともあり、速度と高度を回復することができず、滑走路手前約600mの地点に当該機は墜落した

報告書の事故原因分析
●Ames中尉が、最終着陸進入時に訓練生の十分な状況把握を行わず、ウエサキ訓練生が長時間エンジン出力をアイドル状態にしていたことに気づくのが遅く、危険な状態への対応が遅れた
T-38 AC3.jpg●ウエサキ訓練生は、着陸直前の多様な操作手順に「飽和状態」になり、スロットルをアイドル状態にしたままにして事故を導くこととなった

●事故調査官は、T-38訓練生がこのような行動(着陸直前の段階でアイドル状態を維持する)を執ることは、搭乗者を極めて不安な状況に置くことから極めて珍しい、と報告書に記し、
●操縦教官は地面に近い着陸直前の段階では、訓練生のスロットル操作から片時も目を離さず、訓練生の誤操作には直ちに介入する態勢にあることが通常であると報告書に表現している

教官操縦者に関する関連情報
●Ames中尉は、同航空団に所属して初めて教官操縦者勤務を経験しているパイロットであったが、部隊長や同僚からの評価は高く、飛行隊の中でも教官初勤務者の中では優秀な教官の一人と見られ、飛行隊内で優秀教官表彰されていた
●事故直前の9日間、母基地周辺の悪天候のため飛行訓練ができていなかった。9日ぶりの飛行訓練を迎えた当日、関係者によれば、Ames中尉は休養十分だといい、飛行再開を喜んでいた(excited to fly the mission)

T-38 AC4.jpg●ただ、直接事故との関係はないと考えられるが、以下のような飛行当日の事象から、数日間のフライト中断によりAmes中尉は、いくらかプロ操縦者としてやるべきことにぬけがみられる状態(may also have lost some amount of proficiency)にあり、細部への注意が散漫であった(lack of attention to detail)状態で、訓練生の同種訓練におけるリスクへの配慮が不足していた可能性がある

●事故当日の気象ブリーフィングに出席していなかった。また最終目的地のフロリダ州Tallahassee国際空港に気象悪化で到達できない場合の、代替飛行場への必要燃料量を計算していなかった
●T-38練習機がエンジン交換整備を行った直後は、まず母基地周辺での飛行訓練を実施した後、他飛行場への移動訓練に進むことになっているが、その流れの抜けに気づいていなかった
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42ページの事故調査委員会報告書
(少将が事故調査委員長)
https://www.afjag.af.mil/Portals/77/AIB-Reports/2021/AIB%20Report%20Columbus%20T-38_Final.pdf

着陸直前に18ノット速度超過の状態から、何秒間エンジンを「アイドル」状態にすれば適切な速度になったのでしょうか? 少なくとも18秒間は長すぎたということですが、5秒間ぐらいだったらOKだったのでしょうか?

やはり、人間が空を飛ぶということは、容易なことではないということです。合掌

注意:上記でご紹介した内容は、8日付Military.com記事と事故調査報告書から、まんぐーすが抽出した内容ですので、必ずしも報告書の内容を正確にご紹介しているとは限りません。ご注意ください

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