23日、有力シンクタンクCNASが米軍に更なる改革を求めるレポート「Sustainable Pre-eminence: Reforming the U.S. Military at a Time of Strategic Change」を発表。「国防費の増額を続けていかないと、米軍事力の威力優越を保てないとする人々には不同意である」との明確な姿勢の基、よりメリハリの利いた米軍の組織編成や装備体系を訴えています。
民主党やオバマ政権と強い繋がりを持ち、2代連続で国防省のNo3政策担当次官を輩出しているCNASが、声高に国防費維持増額を軍需産業の「ひも」のように訴える共和党へ強力パンチを繰り出しました。
ただし本レポートも、カウントダウン状態の国防費強制削減(Sequestration)の発動には、米軍が長年担ってきた世界戦略を高いリスクにさらすと警告を発しています。
CNASの関連webページ
→http://www.cnas.org/sustainablepreeminence
執筆者は元軍人を含む4名ですが、まんぐーす的には非常にバランスのとれた良い提言で、世界中の軍が参考にすべき点も多いと思います。本質を離れた「政争の具」となりつつある最近の議論に飽き飽きしていたところでしたので、久々に清流に巡り会った気分です
まずレポートを貫く4原則は・・・
●海空軍はアジア太平洋や中東への戦力投射を念頭に優先を明確にすべき
●各軍種は相互依存を増やし、統合の有効性や不必要な重複を削減せよ
●軍の要求は、統合戦力としての能力発揮を基準に、脅威を忠実に分析した結果に基づかなければならない
●技術開発への投資は、次世代装備の先の飛躍を狙って加速されるべき。特に、無人、自動、人工知能分野への投資
主要な提言には・・・
●統合参謀本部議長や副議長には、地域戦闘コマンド司令官や軍種司令官以上の発言力を与え、地域コマンドや軍種に要望ではなく疑問を呈する力を与える。これでペンタゴンに組織文化の変更をもたらす
●地域コマンドを現6個から4個へ削減。アフリカと北米コマンドは、それぞれ欧州と南米と統合し、事務スタッフも統合
●今後10年間で、ペンタゴンの事務スタッフを約10万人削減。また各レベル司令部が抱える契約外部職員の人数に制限を加える
各軍種への提言には・・
陸軍は・・
●陸軍は総兵力を48万人まで削減し、装甲旅団の1/4を予備役にすべき。
●Ground Combat Vehicleの投入は2021年まで延期。Light Tactical Vehicle調達数の削減。Distributed Common Ground Systemの中止。Stryker生産とHumvee近代化は中止。M1戦車輸出を加速
空軍は・・・
●F-35の現在の購入予定数1763を1000から1200に削減すべき
●次期空中給油機KC-46Aの数を抑制。戦域間空輸能力を重要視し、海軍や海兵隊のC-130任務を引き継ぐ。
●長距離ステルス無人攻撃・偵察機の要求値を変更を加えつつ、開発を継続する。調達機数(現80-100機)は要再評価
●特にアジア太平洋と中東地域における基地へのアクセスや使用合意の獲得を増加すべき
海軍は・・
●空母を10隻に、また艦載航空団を9個に削減。艦載型F-35の調達数を現計画の369機から半減すべき
●沿岸戦闘艦LCSの調達数も、現計画55隻から27隻へ削減すべき。年2隻の攻撃型潜水艦建造は2020年代前半まで継続すべき。揚陸艦の隻数は30隻を維持。
●無人ステルス艦載機X-47B計画を加速し、その次を見据えた計画も進めるべき。艦載機の1/4は無人機にすべき。一方で海上監視型グローバルホークのBAMS(Broad-Area Maritime Surveillance)の調達機数を半減
海兵隊は・・・
●兵員数を17.5万人へ削減。3MEUを維持も、加州配置の1個を豪州に移動すべき。また豪州沿岸、グアム、カタールに事前集積基地を設ける。
●垂直離着陸F-35の購入計画は継続も、FA-18CとD、EA-6Bを艦載機から除くべき。オスプレイ調達を314機で2016年に打ち止め。ヘリの調達は継続
●海兵隊のC-130とC-9輸送機、小型輸送ジェット、E/A-18G及び無人機システムは削減すべき
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基礎知識不足で評価できない部分も多いのですが、基本4原則の通り、軍種間で重複する装備をバッサリ切り、統合思考で必要部分を生かす方針が貫かれており、「すがすがしさ」を感じます。
素晴らしい議論の基礎が提示されたと思います。
強制削減が実行されれば、この程度の再整理では間に合わないのでしょうが、それでも良い方向性を示していると思います。
陸自の定員を見直し、戦闘機を削減し、弾道ミサイルを導入・・正規・不正規の手段をあれもこれもやって・・高度な柔軟性を備えた抑止力と戦闘力を具現する効率的な日本の国防組織と装備体系を、いつか「たたき台」としてファイルできたら・・当然作戦イメージも合わせて・・・と空を見上げるまんぐーすです。
CNAS関連の話題やレポート等
「対中国の日米同盟を提言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-10
「海空軍を重視せよ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-10
「バランスのとれた軍を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-09
「政策担当次官はCNAS」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-01-25
「CNAS理事長が禅の思想を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-07-31
「CNAS出身次官アジア政策」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-30