2019年1月~12月の事象の記録と分析
米露東南アジアと核管理も含めた地域分析
14日、防衛研究所が毎年発行で24回冊目となる「東アジア戦略概観2020」を発表し、全文webサイトで閲覧可能となりました。
「防衛研究所の研究者が内外の公刊資料に依拠して独自の立場から分析・記述したものであり、日本政府あるいは防衛省の見解を示すものではない」、「文責を担う執筆者の氏名および分析根拠を示す脚注を明示することにより、研究者が独自に分析した学術専門書としての性格を明確にした」と「はしがき」に明記されている性格のものですが、「日本政府あるいは防衛省の見解」から逸脱した内容では当然ありません
2017年版をご紹介して以来、2年間サボって来ましたが、日本の安全保障環境をコンパクトに学ぶには最適の書物(しかも無料)ですので、まんぐーすの独断で「さわり」部分をご紹介し、皆様のご参考に供したいと思います
特に、米軍の国家防衛戦略NDSで対中国を念頭に「戦力態勢の在り方に係る4つの層(接触・鈍化・増派・本土)から成るグローバル運用モデル」を提示し、陸軍が中心となって検討検証を進める「マルチドメイン作戦」(MDO)の進展の中で米陸軍が存在感を増している点など、これまでご紹介していない内容が紹介されています
コロナ対処で「引きこもり状態」にある皆様におかれましては、YouTubeばかりでなく、こんな読書オプションも如何でしょうか?
防衛研究所webサイトの「東アジア戦略概観2020」より
●中距離核戦力(INF)全廃条約終了とその影響
2019年8月2日にINF全廃条約の失効後、米露ともに中距離ミサイルの開発に公式に着手しており、東アジアにおいてミサイルの分野で軍拡競争が発生する可能性がある。
その場合、米露関係、中露関係、日露関係など北東アジアの国際関係を本質的に変化させる可能性を秘めており、東アジアの戦略環境に大きな影響を与えるおそれがある。
●デモに揺れた香港と習近平政権
2019年において習近平政権にとって予想外の大きな問題となったのが、香港住民のデモに端を発する混乱である。
事態の終息の方向性が見えていない中、この影響が台湾の総統選挙情勢にも大きな影響を与え、香港情勢を見て台湾の将来にあらためて危機感を覚えた台湾民衆の心をつかんだ民進党が形勢を逆転した
●覇権争いへ転換する米中関係
米中の貿易交渉を断続的に実施し、2020年1月には両国政府が「第1段階」合意文書に署名して歩み寄りを見せた。ただ、今後「第2段階」の協議が合意にまで進展するかは予断を許さない状況が続いている。
それは米中両国が単なる貿易不均衡是正の条件闘争ではなく、科学技術力を含めた総合的国力を争っていることがその背景にあるからである。対米関係で難しいかじ取りを迫られている習近平主席は、米国との長期戦を覚悟しているものとみられる
習近平主席は9月3日、共産党幹部を教育する中央党校で重要講話を行い、「現在の世界はこの100年間なかった大きな変局の中にある」、「中華民族の偉大な復興は、決して気楽に鳴り物入りで騒いでいるだけで実現するものではなく、偉大な夢の実現には偉大な闘争が必ず伴う」と述べ、直面する闘争は少なくとも2049年の中国建国100周年までは続くと指摘した
こうした中、習近平主席は、周囲を腹心で固めて権力基盤を強化し、党内を引き締め、自らに対する軍の忠誠を強化する取り組みを続けている
●「危機回帰」をめぐり揺れ動く朝鮮半島
第2回米朝首脳会談が共同声明なく終わった後、北朝鮮はミサイル発射再開で危機に(瀬戸際外交に?)回帰する能力を米国に強調した。
並行して北朝鮮は中国に対し、米軍プレゼンスの将来に関わる平和体制協議に中国を参加させることを示唆して提携への引き込みを図った。中国抜きの平和体制協議の可能性を示した南北「板門店宣言」から1年余り後に早くも韓国を無視した動きに出ている。
北朝鮮は核兵器への恐れが米韓にもたらす戦略上の効果と、中国の米軍への脅威認識を強く意識した行動をとっている。こうした行動の背後で北朝鮮は国内において、金正恩を代替する勢力の出現を防止すべく、国家機関を支配勢力の一翼とし、人々を「金日成民族、金正日朝鮮」に帰属させるイデオロギーの再確認を進めた。
●米国「戦略的競争」の実像
冷戦以降も地域での紛争抑止とコミットメントの象徴として、米軍の前方プレゼンスが引き続き死活的な重要性を持つ一方、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)システムにより、とりわけ九州から沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島(カリマンタン島)に至る第1列島線内において基地・港湾施設や水上艦艇などの軍事アセットが脅威下に置かれる状況に至っている。
視認性・脆弱性のジレンマとも呼ばれるこの問題は、米軍の前方戦力の在り方を考える上で無視できない課題となっている。
NDSでは、より具体的な運用に関するコンセプトとして、戦力運用の柔軟性と予測困難性を高めるための動的戦力運用や、戦力態勢の在り方に係る4つの層(接触・鈍化・増派・本土)から成るグローバル運用モデルなどを提示している。
つまり、単に象徴的な「プレゼンスのためのプレゼンス」ではなく、前方の基地施設やそのほかの軍事アセットが有事の際に激しい戦闘環境下に置かれることを前提とし、それでもなお迅速に展開しながら敵の軍事行動を拒否し得る前方での態勢が必要とされているのである。
そして敵戦力に対する前方からの拒否という点で、近年存在感を示しているのが陸軍である・・・
/////////////////////////////////////////////////
東アジア戦略概観2020のwebページ
→http://www.nids.mod.go.jp/publication/east-asian/j2020.html
この記事では、ほんの触りの部分しかご紹介していませんので、ネットアクセスで簡単に見らる現物を是非ご覧ください
米陸軍をはじめとする米軍の変化や、覇権争いへ先鋭化する米中対立の様子など、今後のコロナを巡る様々な中国と西側の対立・駆け引きを考える上で参考になる内容がまとめてありますので、繰り返しになりますが、「コロナ引きこもり期間」にお勧めの報告書です
東アジア戦略概観の関連
「2017年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-08
「2016年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-25
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-15
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13-1
「2013年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-04-10
「2012年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-03