セキュリティー、インフラ、整備&操縦能力等を理由に
5-10年後の再検討を米が示し、
最新型F-16やF-15をF-35の代替に提案も
タイの中国への接近に対する警鐘との見方アリ
5月25日、タイ政府が米国に要請していた、老朽化が進むF-16A/B戦闘機やF-5軽攻撃機の後継機としてのF-35戦闘機導入について、米国政府から時間的制約、技術的要件、作戦運用&整備能力などを理由に断りの連絡があったとタイ空軍報道官が発表しました
タイ空軍は、1980年代から運用している初期型F-16を約50機とF-5を約30機、更に2011年に導入したスウェーデン製JAS-39グリペン戦闘機を12機(1機は事故で喪失)を保有していますが、ロイター報道によればF-16とF-5の後継として8機のF-35戦闘機導入を米国に打診していたとのことです
別の5月23日付タイ国内報道では、在バンコクの米国大使が最近タイ空軍司令官を訪問し、タイ空軍基地のセキュリティー状態、飛行場の施設能力、維持整備インフラ施設、作戦運用に必要な操縦者や整備員等の人材確保容易性等の観点から懸念事項があり、これらを改善するには相当な時間と経費が必要になることから、今回のタイ空軍の要望には応じられないと伝達した模様です。
ただ完全にタイ側の要望を却下したわけではなく、上記懸念事項の改善を5-10年後に再度確認し、可能な状態となればタイ側の要望に応じることもあり得ると説明し、現時点での代替案として米国大使は、最新型F-16戦闘機(Block 70)やF-15の売却を提案したとのことです
タイ側からは、追加でグリペン戦闘機を購入する案が有力との「米側をけん制するような」報道も最近出ていましたが、米側の返答が7月になるだろうと予想していた中で、早々と5月中に米国大使館を通じて連絡があったことを受け、米国側のタイへの迷いがない明確な姿勢が示されたと受け止められるのでしょう
タイは最近の総選挙で、2014年のクーデターで誕生した軍事政権が敗北し、今後の政権運営や連立政権の行く末に注目が集まっていますが、2014年以来、中国との軍事協力関係強化が目立っており、例えば中国軍とタイの陸海空軍それぞれが共同演習を行うなど、中国軍と緊密な関係にあるのがタイ軍です
また軍の装備や兵器導入面でも中国とタイは2014年以降緊密で、2017年に中国製潜水艦をタイ海軍が3隻導入したほか、弾薬輸入面でもパイプが太くなってきているところで、今回の米側によるF-35売却拒否は、F-35に関する機密情報がタイから中国に漏洩することを強く懸念したものであり、同時にタイ側に中国との関係を見直すようシグナルを送ったものと多くの専門家が見ているようです
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ASEAN諸国と米国や西側との関係については、フィリピンが中国側の高圧的態度に我慢できずに急速な米側回帰に動いている一方で、カンボジアやインドネシアが依然として中国寄りだと最近ご紹介していますが、タイの動向は気になります
3月の米タイ共同主催の「Cobra Gold演習」は、オブザーバ国含め30か国7400名規模の大演習に復活して、微妙な米タイ関係に改善の兆しか・・・とお伝えしましたが、そう単純ではないようです。
まぁ、米国大使がタイ空軍司令官に説明したように、「タイ空軍基地のセキュリティー状態、飛行場の施設能力、維持整備インフラ施設、作戦運用に必要な操縦者や整備員等の人材確保容易性等の観点の懸念」は否定できないと思いますが、東欧の小国ルーマニアやポーランドやチェコにもF-35売却許可している点からすれば、単純比較はできませんが・・・
タイと米国関係の関連
「Cobra Gold演習がコロナ前規模に」→https://holylandtokyo.com/2023/03/02/4349/
「対中国で分散作戦演習JPMRC」→https://holylandtokyo.com/2022/11/14/3900/
「タイが中国戦車追加購入へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-04-05
「タイが中国潜水艦購入へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2015-07-13
他ASEAN諸国と米国関係
「インドネシアは塩対応」→https://holylandtokyo.com/2023/05/24/4640/
「米比が33年ぶり比で空軍演習」→https://holylandtokyo.com/2023/05/08/4597/
「米比とBalikatan演習」→https://holylandtokyo.com/2023/04/20/4524/
「カンボジアに中国軍施設」→https://holylandtokyo.com/2022/06/15/3354/