外国人訓練生の英語教育担当機関担当が語る
極めて難しい問題に取り組む人がいます
4月13日付Defense-Newsが、2021年2月19日に米空軍練習機が墜落し、米空軍教官操縦者と航空自衛隊の飛行訓練生が亡くなった事故から2年経過を機会に、事故原因とも大いに関係あるとされている外国人飛行訓練生の英語能力問題と、英語教育を担当するテキサス州に所在する米空軍DLI「Defense Language InstituteのEnglish Language Center」の事故後の取り組みを紹介しています
当該事故は、航空自衛隊が米空軍に飛行教育を委託していた飛行訓練生ウエサキ2等空尉(事故当時:25歳)と同乗していた教官操縦者Scot Ames Jr.中尉(事故当時:24歳)が操縦するT-38ジェット練習機が、モンゴメリー地方空港(Montgomery Regional Airport)着陸直前に滑走路手前に墜落し、2名とも射出脱出することなく亡くなった事故です(事故の細部は末尾紹介の過去記事をご確認ください)
同年10月に米空軍公開した事故調査報告書によると、
●Ames中尉が、最終着陸進入時に訓練生の十分な状況把握を行わず、ウエサキ訓練生が長時間エンジン出力をアイドル状態にしていたことに気づくのが遅れ、危険な状態への対応が遅れた
●ウエサキ訓練生は、着陸直前の多様な操作手順に「飽和状態」になり、スロットルをアイドル状態にしたままにして事故を導くこととなった
●事故調査官は、T-38訓練生がこのような行動(着陸直前の段階でアイドル状態を維持する)を執ることは、搭乗者を極めて不安な状況に置くことから極めて珍しい、と報告書に記し、
●操縦教官は地面に近い着陸直前の段階では、訓練生のスロットル操作から片時も目を離さず、訓練生の誤操作には直ちに介入する態勢にあることが通常であると報告している
更にウエサキ訓練生の語学力の影響について
●英語能力が劣る外国人訓練生は、飛行訓練前に約6か月間の語学教育を受けるが、そこでの卒業成績は「平均、または平均の少し上」であった
●ただ、当該日本人訓練生は飛行訓練を通じ、飛行航空用語での発言や聞き取りに困難を感じており、教官の指示や無線通信内容の理解に影響を与えていた
●事故の直接的な原因は、教官操縦者が滑走路への最終進入段階で訓練生操縦機体の状態をよく把握せず、危険な状態からの回復にタイムリーな措置を取らなかったことにあるが、日本人訓練生の英語対話能力が原因となって、着陸直前の多くの機体操作が必要な段階で訓練生の思考を飽和させ、エンジン出力を最低限レベルに絞ったまま飛行し続けたことが大きく影響している
13日付Defense-News記事が紹介している内容
●過去10年間で外国人飛行訓練生の死亡事故は4件あり、日本人事例以外の3件は全てF-16単独操縦中の事例(2015, 2016 and 2017年に発生)で、イラク人2名と台湾人1名の事故である
●米空軍は毎年約50名の外国人操縦訓練生を教育しているが、2013年からの統計では、米空軍内での飛行事故死亡者80名の内、8%が外国人訓練生で、人数比率は高いとは言えない。(ちなみにパイロット以外も含めると、年間100か国以上から約6000名の外国軍人英語教育を米空軍は行っている)
●ただ、2021年2月の事故では成績優秀な米空軍教官パイロットも同時に死亡したことから米空軍幹部の問題意識が高まり、外国人訓練生の英語教育を担当するテキサス州の機関(DLI:Defense Language InstituteのEnglish Language Center)の訓練内容に注目が集まっている
●インタビューに対応してくれた同機関英語教官のTerry Harsh氏は、DLIはその役割を果たしており、部隊活動の映像教材などの導入も進めているが、実際に飛行訓練をこなすための英語能力を身に着けさせるには、現在の6か月間の英語教育期間に加え、追加で6か月が必要だと語り、資金や時間確保に関係者の理解を得ようと試みたが、「誰もそれを払いたがらない」と実現するのは容易ではないと語っている
●訓練生個々の能力進捗程度把握など、各訓練生が抱えている語学上の課題のより細かなフォローにも米空軍は取り組んでいる。飛行訓練部隊の教官が訓練生の語学レベルを細かくチェックする新しい評価シートの作成や、DLI教育の状況を定期的に上級部隊が確認することなども行われている。ただ、限られたカリキュラム期間と陣容で、限界もある。
●語学教育機関DLIと卒業生が進む飛行訓練部隊との訓練生の情報共有、更には全体を監督する空軍教育訓練コマンドや訓練生派遣国との定期的意思疎通も重要だと認識され、2021年2月の事故調査のためだけでなく、例えば今年2月にも米国内関係者の会同が行われている
●そのほかHarsh氏は個人的な意見として、語学教育機関と飛行訓練部隊を繋ぐ軍務に詳しい連絡役の配置や、飛行訓練に進んだ卒業生からの語学機関へのフィードバックを効率的に入手する仕組みの導入を提案していた
●最後にHarsh氏は、米国人が日本や韓国やアラブ諸国に赴任し、現地の言葉で操縦訓練を受けることを想像し、粘り強く米国での外国人訓練生教育に対応することが重要だと述べつつ、外国人訓練生が最初に接する米国組織であるDLIが、上官との関係や米国社会での一般的行動様式などを交えて語学教育に取り組んでることも強調していた
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色々言うのは簡単ですが、Harsh氏のインタビューから、日本や韓国や中東諸国からの操縦訓練生の受け入れに苦労している様子が伺えます。
それでも、毎年文化や習慣が異なる100か国以上から6000名を受け入れ、英語教育を提供している米国の努力には頭が下がります。
なお上記記事によれば、事故から1年経過した2022年2月に、ウエサキ2尉のお母さまから、米国での語学教育や操縦教育を担当していた米空軍教育訓練コマンド司令官宛てに、様々な配慮に感謝する旨のレターが届けられたとのことです
注意:上記でご紹介した内容は、13日付Military.com記事と事故調査報告書から、まんぐーすが抽出した内容ですので、必ずしも米空軍の当該事故を受けた対応や現在のDLIの状況、更に事故報告書の内容を正確に反映しているとは限りません。ご注意ください。
当該墜落死亡事故の調査報告紹介記事
「当該事故調査報告」→https://holylandtokyo.com/2021/10/12/2328/
42ページの事故調査委員会報告書
(少将が事故調査委員長)
→https://www.afjag.af.mil/Portals/77/AIB-Reports/2021/AIB%20Report%20Columbus%20T-38_Final.pdf
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