太平洋軍トップが中国戦闘機脅威?を上院で

中国との戦闘機製造数比率で負けている
空対空ミサイルの射程でも負けている
中国がアリューシャン列島に浸食試みる

4月10日、Samuel J. Paparo米インド太平洋軍司令官が上院軍事委員会で証言し、中国が先進的戦闘機の生産で米国を上回り、最新の空中戦ミサイル射程では中国側に分がある等、かつては米国が独占していた地域の制空権が、今やどちらの国も達成できないものになっていると警告し、併せて中国がアリューシャン列島の先住民自治組織に接近し、お得意の「100年リース契約」を港湾施設に持ち掛けるなど、静かな侵略が始まっていると警告しました

また同司令官は在韓米軍司令官と共に、ウクライナ戦争に苦しむロシアを支援するため、中国と北朝鮮が人員や大規模な弾薬や工作機械等のロシア支援を行っており、見返りとしてロシアから潜水艦技術や防空兵器技術などを入手する方向にあると、中露NKの緊密な関係に警鐘を鳴らしました

本件を報じる10日付米空軍協会 web 記事と11日付military.com記事は、中国戦闘機関連の脅威と中露NK連携ばかりに触れており、対米軍の中核である弾道&巡航&極超音速ミサイルや、世界最大の艦艇数を誇る中国海軍や、宇宙やサイバー関連の脅威について記事内で全く触れていませんが、統合軍司令官であるPaparo海軍大将が「戦闘機」や「中露NK連携」だけに言及したとは考えにくく引っ掛かりますが、他報道も無いので、とりあえず2つの記事から概要をご紹介します

中国戦闘機関連の脅威について
●中国軍は2100 機の戦闘機と200機以上のH-6爆撃機を保有しており、西太平洋地域において突出した戦力を有しているが、引き続き戦力増強に注力しており、戦闘機生産量は米国比120%で米国を上回っており、かつて米国が独占していた地域の制空権は、今や両国とも達成できない状態になっている
●(議員からの、中国は現在、第一列島線における米国の制空権を否定できるのか、との質問に対し、)制空権とは空を完全に掌握することだが、両国とももそれを享受することはないだろう

●また中国の先進的な長距離の空対空ミサイルも米国にとって大きな脅威で、例えば中国戦闘機が搭載する空中戦用ミサイル PL-17 は射程距離が200マイル以上とされ、射程距離約100マイルの米軍主力ミサイル AIM-120D (AMRAAM)の射程距離をはるかに上回る。
●このため米空軍は、PL-17とほぼ同等の射程を持つ AIM-260(JATM:統合先進戦術ミサイル)開発を急いでいる。(ただし同ミサイルは機密扱い指定のため、2022年に配備予定との計画はあるものの、現時点で米空軍は試験中であるとしか発表していない)

●報道では、中国は主カステルス戦闘機J-20を年間40~50機のペースで製造している。(そして不思議なことにPaparo大将はここで、米軍はF-22の製造を2010年停止したと補足。)
●(また嘉手納にF-15Cの後継として配備される予定のF-15EXについて、)優れた電子戦能力に加え、優れた航続距離や速度、高度なセンサーや大きなペイロードといった要素からも素晴らしい作戦機だと高く評価し、(自身が少佐時に米空軍との交換パイロットとして海軍操縦者ながらF-15操縦&実戦経験があることを踏まえ)、私はF-15ファンだ。

●(議員からの、「中国当局が Adak 島をアラスカ原住民と共に管理するアリュート社に対し、100年のリース契約で同島を海運拠点使用することを打診しているが、絶対許されるべきではない」との発言に対し、)私も好ましくないと考えるし、一帯一路構想における典型的な手法だと考える。
●(また、議員の「太平洋軍はAdak島の未使用放置施設を再整備&活用すべきだ」との発言に対し)、米空軍は今夏の Northern Edge 演習でACE 構想の実践に取り組み、部隊のダイナミズムを一層高めるため、アリューシャン列島最西端の島である Adak島活用を重要視している。

緊密な中露NKの脅威を語る
●中国と北朝鮮が対ウクライナ戦争でロシアに軍事支援を与え、ロシアは見返に両国へ軍事支援を与えており、アジア太平洋地域の安全保障リスクとなっている。例えば中国は、ロシアの軍事力再建支援のため、ロシアが導入した工作機械の70%と旧型チップの90%を提供。中国は潜水艦の静粛化技術などなどをロシアから提供される模様
●北朝鮮もロシアに数十万発の砲弾と数百発の短距離ミサイルを送り、北朝鮮は見返りに防空部隊と地対空ミサイルによる支援を受けることを望んでいる

●(Brunson在韓米軍司令官は、)北朝鮮はロシアの力を借り、極超音速兵器開発等を進めつつ、ロシア装備で強化され、近代化された130万人以上の軍事力を擁している
(なお4月9日にウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアがウ戦用に中国人を積極的に募集し、中国政府が承知の上で、既に150人以上の中国人傭兵が戦闘に参加していると発言)

なお同委員会で民主党の重鎮であるジャック・リード上院議員は、米軍は韓国に2万8500人の部隊を駐留させているが、トランプ大統領が在韓及び在日米軍の縮小や、両国との演習削減に言及したり、最近国防省がアジア太平洋の全PAC-3部隊を中東に展開させたりしていることは、アジアでの軍事態勢や同盟国との信頼関係を損なうものだと非難しています

/////////////////////////////////////////////////////

繰り返しになりますが、10日付米空軍協会 web 記事と11日付military.com記事が、Paparo司令官の上院軍事委員会発言全体をカバーしているのか不明です。同協会が米空軍応援団であることを念頭に見るべき記事でしょう。

対中国の米軍航空戦力に関しては、以下の過去記事にあるStimson Centerレポートが訴えたように、「中国のミサイル兵器の存在を考すれば、有事に日本やグアムの滑走路には期待できないから、滑走路に依存しないアセットや無人機中心体制への変革」が求められているのに、離陸して戦力になるかも怪しい戦闘機や空対空ミサイルを太平洋軍トップが論じることに絶望を感じてしまいます

特に、西側の高付加価値目標(AWACSや空母や爆撃機や電子戦機など)を攻撃対象として設計されたといわれる中国のJ-20を、F-22などの戦闘機と同レベルで議論するあたりには、「大将」としての見識を疑います

Stimson Center による当然の帰結レポート
「日本やグアムの滑走路には期待できず」→https://holylandtokyo.com/2025/01/06/10547/

Paparo太平洋軍司令官の関連
「露がNKに戦闘機提供へ」→https://holylandtokyo.com/2024/12/11/10427/
「中国と偶発的事案の懸念なし」→https://holylandtokyo.com/2024/11/22/6572/
「特殊作戦への投資不十分」→https://holylandtokyo.com/2024/09/27/6241/
「無人機で中国を1W阻止」→https://holylandtokyo.com/2024/06/17/6036/
「同大将のご紹介」→https://holylandtokyo.com/2024/05/07/5884/

中国の台湾侵略を2026-27年との前提発言&検討
「CSISのWargame結果」→https://holylandtokyo.com/2023/01/11/4135/
「2025年に中国と戦う」→https://holylandtokyo.com/2023/01/31/4241/
「グアムMD態勢は2026年までに」→https://holylandtokyo.com/2022/06/07/3295

世界の安保・軍事情報を伝えたい ブログ「東京の郊外より」支援の会
米国を中心とした世界の軍事メディアが報じている、世界の標準的な安全保障情報や軍事情報をご紹介するブログ「東京の郊外より・・・」を支援するファンクラブです。ご支援お願いいたします。
ブログサポーターご紹介ページ
お支援下さっている皆様、ありがとうございます!そのお気持ちで元気100倍です!!!●赤ちょうちんサポーターの皆様(3000円/月)●ランチサポーターの皆様(1000円/月)mecha_mecha様kenj0126様●カフェサポーターの皆様(...
タイトルとURLをコピーしました