中国から2500nmに位置する重要作戦拠点のミサイル防衛
弾道・巡航ミサイルそして極超音速兵器から守るには
狭いグアム島の限られた土地への配備に苦労
5月23日、米ミサイル防衛庁MDAのJon A. Hill長官(海軍中将)がCSISで講演し、2026年までの運用開始が至上命題で、米太平洋軍ほか各方面からの早期実現求める声が高まるグアム島ミサイル防衛体制整備について語っていますので、3月末の2023年度予算案説明時の関連説明を、補足説明する形でご紹介いたします
繰り返してご説明するまでもなく、中国大陸から約2500nmの距離で中国の弾道ミサイル射程内に入っているグアム島は、米軍の対中国作戦の起点となる西太平洋の数少ない作戦基盤であり、海軍艦艇・潜水艦への弾薬補給や修理施設、空軍作戦機の一大発進基地&燃料弾薬補給施設、海兵隊の拠点などなど、重要な役割を担っています。
そして中国は当然のごとく、弾道ミサイルのみならず、大型爆撃機搭載の巡航ミサイルや極超音速兵器を開発配備し、更に最近では巡航ミサイル搭載の原子力潜水艦まで建造しているのではないかと報道されているところです
以下では、3月末の2023年度予算案説明時のMDA長官や関係幹部発言と並列表記して、CSIS講演の概要をご紹介いたします。発言内容に齟齬があるわけではなく、補完関係にあると考えたので併記形式といたしました
5月25日付米空軍協会web記事によれば
(●は3月末の予算説明、→→は5月23日のCSIS講演内容)
●2023年度予算案でグアムMD用に約660億円を要求し、多層なミサイル防衛体制構築のための配備装備や配備場所の調査検討、レーダーや兵器用部品調達費用に使用する
●現状のMDシステムは北朝鮮からの弾道ミサイル対処能力はあるが、中国からのミサイルを含む脅威は日進月歩の勢いで変化している
→→グアム島の防衛は、米国本土のミサイル防衛に続き2番目に重要な任務と考えている。グアム島は、弾道&巡航ミサイルや極超音速兵器から防御可能な態勢とはなっておらず、グアム島を360度全周警戒するセンサーと迎撃用ミサイルシステム、そして指揮統制センターを整備する計画を2023年度予算で推進する。
→→最も重要なのは、米空軍が多くのセンサー情報を持っているが、宇宙、地上、海上配備の様々なセンサー情報を集約し、指揮官が一目で状況把握できる指揮統制システム構築で、最も難しい部分だと考えている
●ルーマニアやポーランド配備のAegis Ashoreのような固定システムだけではなく、分散型システムを検討しており、移動式ランチャー活用にも関心を持っている
→→敵もグアム島の米軍施設攻撃を狙っており、搭載迎撃ミサイル数が減り兵站負担が増すことになっても、迎撃兵器は車両搭載移動型を導入することに決定したように、指揮統制センターも移動可能型にできないか検討している
●米海軍のSM-3やSM-6、PAC-3、そして現有のTHAADの組み合わせを基本とするが、米陸軍が2023年に配備予定の「Mid-Range Capability missile」などの将来装備も、可能になったタイミングで組み入れることも検討する
●上述の各迎撃用ミサイルシステムは指揮統制システムとして米陸軍の「Integrated Battle Command System」で連接されるが、「イージスシステムの火器管制能力」も活用する。現時点では、弾道ミサイルと極超音速兵器対処に取り組んでいるが、その後にPAC-3の持つ優れた巡航ミサイル対処能力を米陸軍C2システムを通して融合させる
→→2013年から配備&運用しているTHAADに加え、パトリオットPCA-3を地上配備を完了することで、グアム島ミサイル防衛用に周辺海域でローテーション待機するイージス艦を3-4隻を開放することができる
→→イージス艦の指揮統制&火器管制装置は、艦艇搭載のSM-3 やSM-6など迎撃兵器以外に、弾道ミサイルや極超音速兵器防衛の指揮統制を強化することができる
●課題は、グアム島でミサイル防衛システムに使用可能な土地が限られていること
→→シカゴ市ほどの面積のグアム島では、多くの場所が観光資源等として保護地域となっており、利用可能な面積は27%しかなく、陸海空軍海兵隊間で土地の確保競争になっている
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グアム島は、かつて日本からの観光&買い物ツアーが盛んでしたが、今や中国団体ツアーが島を席巻して日本人は遠ざかり、更には中国人女性がグアム島で出産して子供に米国籍を取得させようとして問題化している、との報道をコロナ前に見たことがあります
グアム島には原住民の皆さんの聖地が多く存在して土地利用が容易でない面もありますが、観光用景観確保で軍事使用や開発を規制しているのであれば、中国人のために規制しているとも言えなくもなく、極めて皮肉な状態になっています
グアム島ミサイル防衛が極めて重要なら、日本列島のミサイル防衛も重要なはずですが、くれぐれも日本の皆様には、ミサイル防衛の限界も理解していただく必要があると思います。迎撃できる範囲や迎撃ミサイルの数には限界があり、攻撃兵器の価格と比較し、その防御には数十倍・数百倍のコストが必要なことも、忘れてはなりません
MDA長官が3月末に同テーマで語った内容
「グアムMD整備の状況と困難を語る」→https://holylandtokyo.com/2022/04/05/3082/
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