防衛研究所が「中国の影響工作」概要解説

情報を制御して自らに有利な状況生み出す工作
欧米民主主義の正当性を弱めるため習近平が強化指示
西側諸国向けは効果的ではないと分析

NIDS China.jpg防衛研究所webサイトが12月8日、山口信治・中国研究室主任研究官による「中国の影響工作概観——その目標・手段・組織・対象」との5ページの論考を「NIDSコメンタリー」として掲載し、習近平が強化している「情報を制御して自らに有利な状況生み出す行動である影響工作」について、タイトル通り「その目標・手段・組織・対象」との視点から紹介していますのでご紹介いたします

少々乱暴に結論から言うと、山口主任研究官は、中国による影響工作は主たる対象を「台湾、各国の華僑華人、グローバルサウスの国々」に置いており、「西側諸国に対する工作は、必ずしも大きな効果を上げているわけではない」と分析しており、日本のマスゴミが中国の経済崩壊について極めて消極的な報道姿勢を撮り続けていることや、日本の現状や将来に関して悲観論を強調する報道ばかりを垂れ流している現状との大きなギャップを感じる結論レポートとなっています

NIDS China2.jpgマスゴミだけでなく、防衛研究所も11月24日発表の「中国安全保障レポート」で、中国の経済崩壊について一切触れない異様とも言える研究姿勢を示していますが、これが日本政府の検閲のせいなのか、防衛研究所としての政府への「心遣い」なのか、中国軍事脅威の崩壊兆候を「隠したい」防衛省の姿勢を反映したものなのかは不明ですが、以下でご紹介する「NIDSコメンタリー:中国の影響工作概観」を見るにあたり、事前に注意喚起させていただきます

山口主任研究官による分析概要
影響工作とは、情報を制御し、相手国の認識や判断を操作したり混乱させることで、自分たちに有利な状況を作り出す行動を指すが、本稿では中国の影響工作の背景や影響工作の手段と目標、実施に関わる組織、その対象、それがもたらす問題を概観
習近平は、西側諸国が中国の軍事的封じ込めだけでなく、民主主義や人権イデオロギー浸透により、中国共産党を内部から変質させたり、政権を崩壊させようとしているとの認識を強く持っている。西側は中国におけるカラー革命を画策しているので、西側による中国を「妖魔化」する情報発信や、政権への信頼を揺るがせる言説を排撃し、さらに米欧の民主主義の国際的な正当性を弱め、中国の見方考え方を内外に拡散浸透させなければならないと、習近平は考えている

Hua Chunying4.jpg上記認識を基に中国は、①中国のイメージを向上して中国政策に対する支持を広げ ②中国に不利な外国の主張や情報に反駁し、中国に不利な情報を遮断し、③相手国の社会の分断を拡大し、政治社会に混乱を生み出す・・・事を推進している
具体的には、第一にプロパガンダ・宣伝分野で、中国国営メディア情報発信を拡大し、 外国メディアへの中国外交官の寄稿や新華社記事の配信で中国の主張を世界に伝え、外国のプロパガンダへ反駁する。第二のディスインフォメーションでは、偽情報をソーシャルメディアなどに流し、相手国の主張への信用を毀損し、相手の社会や政治に混乱をもたらす

●第三の統一戦線工作は習近平が特に重視して強化している手段であるが、主要敵を内部分裂させたり、友好勢力を増やそうとする策略を意味する。対象として重要なのが華僑・ 華人や外国における友好人士で、習近平は工作を統一的な指揮下で再活性化させようとしており、党の部門である中央統一戦線工作部のみに任せるのではなく、党全体の重要事業と位置付け、関連部門間の連携強化を推進している。

NIDS China3.jpgただし、これら中国の手法は、ロシアのような直接的に相手の政治・社会の混乱を狙うアプローチに比べてより間接的で、言説空間において優位に立ち、相手の掲げる価値を引き下げることを狙ったもので、中国は伝統的に相手国のエリート層への働きかけが得意な一方で、ディスインフォメーションは中国にとって比較的新しい手法である
●本工作実施に関連する組織は非常に多く、その指揮関係は非常に複雑。大方針に基づくとは言え、その実施が関係機関の緊密な調整下で実施されているというよりは、バラバラな行動の集合と見る方が適切

中国の影響工作にかかわる組織は、大きく分けて、宣伝、統一戦線、人民解放軍の3つの系統。宣伝系統は、宣伝に関わる組織からなり、「中央宣伝思想工作領導小組 (組長)」が工作の全般的指導と調整実施。三つ目の人民解放軍は、軍の影響工作を実施する。新たに設立された戦略支援部隊は、 サイバー、電磁スペクトラム、宇宙という情報に関わる機能を統括しており、関連の深い心理・認知領域もその任務に含まれている模様
●二つ目の統一戦線工作系統は、習近平により組織的な強化が図られており、党内に中央統一戦線工作領導小組を設立し、中央統一戦線工作部の機能が大幅に強化され、政府内の独立部門だった国務院僑務弁公室、国務院国家民族事務委員会、国務院国家宗教 事務局が中共中央統一戦線部の指揮下に置かれるなど、一元的統制が強化されてきた

Wenbin2.jpg主要な対象は、台湾、グローバルサウスの国々、そして各国の華僑華人である。西側諸国に対する中国の影響工作は、必ずしも大きな効果を上げているわけではない。
●まず、台湾の独立傾向を防ぎ、さらに統一を促進することは、中国共産党にとって長年の大目標。次のグローバルサウスの国々については、「一帯一路」等でグローバルサウスの国家と経済・政治・安全保障上の関係を深めようとの姿勢の表れ。世界中に拡大する華僑華人コミュニティを中国共産党の政策のためにまとめ上げ、動員することも狙いとしてるが、華僑華人は実際には多様で、すべてが中国共産党の影響下にあるわけではない

何が問題か。中国の影響力工作が民主主義国にもたらす可能性があるのは、社会の分断と混乱、政策課題について中国有利な世論誘導、人権や民主との普遍的価値の相対化、選挙介入による政治体制への影響力行使、価値・イデオロギー面から現在の国際秩序を揺さぶり不安定化すること・・・などである
NIDS China4.jpg●中国の手法は、それほど洗練されているとは言えない部分がある。とくにディスインフォメーションはかなり粗い。工作を担当する組織間調整が綿密とは考えにくいく、洗練された連携が取れない状態かも
●影響工作の効果の検証は一般的に難しいが、中国のアプローチは間接的であることから更に難しくなっている。中国の限界、弱さを正しく把握することも重要。

日本は、中国による様々なタイプの行動に対し、価値や原則を守るために全政府的アプローチで対処が必要。影響工作は技術発展と密接な関係にあり、特に人工知能の発展は、影響工作の実施側と対抗側の双方に今後欠かせないものとなる。グローバルサウスへの工作への対処には、広い国際的協調による対策が欠かせない
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最近の地上波放送や新聞雑誌が、視聴率を下げ発行部数を減らしている原因は、「テレビ放送や新聞雑誌がつまらないだけでなく、目にすると気分が悪くなるからだ」とのSNS上での声が大きな賛同を集めています。

習近平 愛される国.jpg中国の影響力工作がもたらすものを、山口分析官は「社会の分断と混乱、政策課題について中国有利な世論誘導、人権や民主との普遍的価値の相対化、選挙介入による政治体制への影響力行使、価値・イデオロギー面から現在の国際秩序を揺さぶり不安定化」だと端的に指摘していますが、日本のマスゴミが日々垂れ流しているのは、これらを狙った操作された情報ばかりで、普通の日本国民が「目にすると気分が悪くなる」レベル情報のオンパレードです

それなのに山口分析官が「西側諸国に対する工作は、必ずしも大きな効果を上げているわけではない」と論評している評価の根拠が良くわかりませんし、日本への影響工作(日本の政治家や報道機関へのハニートラップ工作等々)に言及が一切ない点なども含め、論考全体を読んでみて話の流れに不自然さが感じられ、誰かによって初期原稿が大きく修正された可能性を強く感じました。

中国経済崩壊に言及ゼロ
「異様な中国安全保障レポート2024」→https://holylandtokyo.com/2023/11/28/5299/
防衛研究所による各種論考紹介記事
「サイバー傭兵の世界」→https://holylandtokyo.com/2020/08/05/515/
「ミャンマーと露の接近を恐れるASEAN」→https://holylandtokyo.com/2023/05/02/4545/
「量子技術の軍事への応用」→https://holylandtokyo.com/2022/01/14/2577/
「「先の大戦」「あの戦争」を何と呼ぶべき」→https://holylandtokyo.com/2021/08/13/2103/

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