F-35の失敗(維持整備費・知的財産・開発製造同時進行)回避
競争各企業の検討状況にアクセス可能体制
書類の束をでなく、デジタル設計データに随時アクセス
5月22日、Kendall空軍長官が軍事記者との朝食懇談会で、18日に関連文書(推定:提案要求書案)が関係企業に配布され、企業選定が開始された次期制空機NGAD開発状況に関して語り、F-35の失敗繰り返さないために知的財産権や維持整備関連データへの国防省の完全アクセスを確保することや、
空軍側と候補企業技術者が開発拠点であるWright-Patterson基地に集まり、まさに「side-by-side」で仕事を進めており、かつデジタル設計の利点を生かし、企業側の開発状況に空軍関係者が何時でもアクセス可能にして確認できる状態で、競争させつつ開発と状況確認を効率的に進めていると驚きの現状を語っています
<strong>比喩的に表現しているのか、現実を描写しているのか、Kendall長官の発言は理解が難しいところもありますが、オバマ政権時代に技術開発担当次官としてNGAD開発の端緒を担当し、F-35のゴタゴタ処理にも奔走してきたKendall氏の思いが詰まったNGADですので、22日付Defense-News記事から同空軍長官発言を長くなりますがご紹介します。
22日付Defense-News記事によれば空軍長官は
●F-35計画のような失敗を避けることに焦点を当てNGADに取り組み、導入後の維持整備コストに関わるロッキード社データ入手の権利を確保していなかったF-35の失敗を繰り返さないよう、製造企業保有の全ての関連データへのアクセス権を確保するし
●F-35では当時は好まれた「Total System Performance」との考え方が採用され、企業選定で契約を勝ち取った企業は、兵器のライフサイクル全てで「永続的な独占的地位」を確保することとなり、結果としてこの悪習慣がもたらすものに長年に渡り苦労をさせられている
●F-35で多くの問題を生んだ製造と開発の過度な同時進行(excessive concurrency)も極力避けなければならない。同時進行方式では、開発や試験中に判明した不具合に対処するのが極めて複雑で困難になる。NGADやB-21でも多少の同時進行は起こるが、空軍はリスク最小化に合理的な判断を行う
●開発に伴う知的財産「intellectual property」への政府側の必要なアクセス権もしっかり確保する必要がある。またNGADでは、主担当から下請け企業に至るまで「モジュラーオープンシステム設計」思想導入を徹底し、機体の能力向上時に開発時と異なる新たな企業が参入可能な形を確保する
●NGAD拠点はオハイオ州Wright-Patterson空軍基地に置き、開発担当責任者には,現在米空軍の戦闘機や先進航空機担当幹部を務めるDale White,准将が就任することになる。
●NGADは高価な装備品であり(2022年4月に同空軍長官は1機数百億円と発言)、複数の契約企業で遂行する余裕はなく、単一の主担当企業を2024年のいずれかの時期に選定する
●NGADと行動を共にする無人ウイングマン機CCAも同時並行的に開発することになるが、潜在的な複数の企業と検討を進めており、最終的に何個の企業が携わるかを述べるのは時期尚早である
●NGAD開発の端緒は、オバマ政権時に開発担当次官を務めていた際に実施した「Aerospace Innovation Initiative」で、同取り組みから生まれた6世代機用の要素技術が実験的なプロトタイプ機「X-planes」に結び付き、それらの要素技術が機能することを証明することになる
●デジタル設計技術やモデリング技術の発展により、国防省や政府側と、関連企業設計チームとの連携は以前より効率的に進められており、空軍側と応札するであろう複数企業(bidding companies)は「essentially working side-by-side at Wright-Patterson」であり、空軍側設計関係者は各企業NGAD設計チームのデータベースに直接アクセスできる体制になっている(have direct access to the databases companies are using to design their pitches for NGAD)
●関係者で希望するものは皆が基本的に同じWright-Patterson基地に住んでおり、我々は競争している企業がどのような設計を行っているかについて詳細な知識(intimate knowledge)を得ている
●我々は関係企業と一体となって、設計や契約プロセスが可能な限り融合されたものとなるよう取り組んでおり(We’re very involved with them. … We’re going to have as integrated and as fully integrated a design process and contracting process as possible)、過去に行われたどの調達案件より効率的なアプローチを執っている。
●関係企業が大量の束の文書を空軍側に提出し、その文書を時間をかけて確認する従来イメージではなく、文書の束を待つことなく、設計状況をいつでも直接直ちに確認できる体制が構築されている
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Kendall空軍長官は、物事を多少誇張して先行発言することが過去にあり、多少は割り引いて聞く必要はあるでしょうが、NGAD開発拠点が置かれた米空軍研究所AFRL所在のWright-Patterson基地に、ボーイングやロッキードやNorthrop Grumman等のNGAD担当技術者が集結し、空軍側とガラス張りの態勢を構築して受注1社を目指してしのぎを削っている・・・点は間違いなさそうです
NGADに向け、2020年9月に「既に初飛行済」と空軍省幹部(Roper次官補:当時)が言及したデモ機は、空軍長官が今回言及した「実験的なプロトタイプ機X-planes」だと思いますが、予算獲得に向け、少しずつ明らかになって行く次世代制空機NGADに注目してまいりましょう。過去記事でこれまでの経緯も是非ご確認ください
NGAD関連の記事
「企業選定開始を発表」→https://holylandtokyo.com/2023/05/22/4656/
「欧州型とアジア太平洋型の2タイプ追求」→https://holylandtokyo.com/2023/05/10/4604/
「NGADは1機が数百億円」→https://holylandtokyo.com/2022/05/09/3193/
「NGADの無人随伴機開発は」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-03-20
「無人機の群れ前線投入が課題」→https://holylandtokyo.com/2022/07/28/3474/
「デモ機が既に初飛行済」→https://holylandtokyo.com/2020/09/17/482/
無人ウイングマンCCA関連
「CCAを2020年代後半導入へ」→https://holylandtokyo.com/2023/04/03/4473/
「空軍長官:NGADが200機、CCAは1000機」→https://holylandtokyo.com/2023/03/09/4403/
米空軍の戦闘機構成議論
「戦闘機の近未来体制は」→https://holylandtokyo.com/2021/05/21/1709/
「戦闘機は7機種から4機種へ」→https://holylandtokyo.com/2021/05/18/1496/