2023年度国防予算案は4%増だが大荒れ予感

22年度より4%増も、ウクライナ危機の物価上昇考慮間に合わず
共和党は予算額773Bドルを875Bにまで増額要求
米議会は2022年も753Bを782Bに増額させた実績あり

Pentagon.jpg3月28日、米国政府が2023年度予算案(2022年10月~23年9月カバー)を公表し、前年予算案から約4%増の773Bドルを要求しました。

バイデン大統領は同予算案公表に合わせ、「安全保障関連予算の歴史の中で、史上最大の投資計画の一つとなる」とその額をアピールし、ホワイトハウス高官も「2022年と23年の予算の伸び合計は9.8%となり、必要な軍事能力強化と維持のための予算額を確保した」とその妥当性を強調しています

2023 Budget.jpgしかし、以前から中国等対処を念頭に最低でも前年比5%の国防費増額を求めてきた共和党議員を中心に「不十分だ」「適切でない」との声が既に上がっており、昨年2022年度予算案753Bを米議会の力で782Bに増額させた実績を踏まえ、今年は875Bドルを目指すとの声が共和党議員から聞こえています

予算案773Bドルの予算案に対し、「875Bドルを目指す」とは少し飛躍が過ぎるとのご意見もありましょうが、この予算案は実質的に今年1月末には既に固まっており、その後のウクライナ危機によるエネルギーや各種原材料費高騰など物価上昇分が全く考慮されていない額であり、国防省幹部も「実質購買力は低下している」「最近の物価上昇への対応は今後の検討課題」と素直に認めているところです

28日付Defense-News記事から全般概要を見ると
hypersonic subm7.jpg軍種別の伸び率は海空宇宙を重視
陸軍と海兵隊の伸び率1.7%
海軍は4.8% 空軍は3.4% 宇宙軍はなんと35.4%
●研究開発費は過去最大の9.5%伸び確保
極超音速兵器開発に4.7Bドル(5600億円)、マイクロ電子と5Gに3.3Bドル(4000億円)、バイオテクノロジーに1.3Bドル(1500億円)

●米議会の選挙区への配慮で難航の旧式装備早期退役
旧式装備早期退役で2.7Bドル(3250億円)を他分野へ再投資
米空軍が140機を早期退役計画、100機のMQ-9を他の政府機関へ移管
米海軍は艦艇24隻を退役(巡洋艦5隻、LCSを9隻、潜水艦2隻、うちLCSなど16隻は早期退役)
●欧州抑止イニシィアティブに6.2Bドル(7450億円) ウクライナにはこのうち360億円

Columbia-class4.jpg●核抑止3本柱の近代化に34.4Bドル(4兆2000億円)
6.3Bドル(7500億円)をコロンビア級戦略原潜に、5Bドル(6000億円)をB-21ステルス爆撃機に、3.6Bドル(4300億円)を次期ICBM(GBSD)、4.8Bドル(5200億円)を核抑止指揮統制システムに
●サプライチェーン強化に
3.3Bドルをマイクロ電子関連に、0.6Bドルを極超音速兵器とエネルギー兵器関連に、0.25Bドルを稀少材料に65億円を溶接や鍛造部門に、52億円をバッテリーや電源貯蔵に

28日付米空軍協会web記事で空軍関連では

Kendall air 2.JPG●Kendall空軍長官は「2023年度予算案はtransformationalな予算案だ」「小出しの変化では脅威の変化に対応できない」と述べる中で、「研究開発費が大幅増額となっているが、これは他の分野で大幅カットを受け入れざるを得ないことを意味する。2024年度予算案では、より一層厳しい選択を行うことになる」と表現している
●更に同長官は、「輸送力についてはおおむね固まっているが、transformationは戦術戦力やglobal strike分野に焦点を当てて行う」とも語っている。他の空軍幹部も「深遠なtransformational changesとなる2024年度予算のプレリュードとなる23年度予算案」と語っている

●研究開発費は前年度比で20%増、調達経費は15%増、作戦運用&維持整備費は4%増
F-22 iwakuni2.jpg●航空機の早期退役や他への移管は約240機。 33機のBlock 20 model で近代化改修に経費がかさむF-22を含む。なおF-22の残りの機体には約400億円の近代化改修費が予算化されている

●240機を削減(早期退役140機とMQ-9を100機他機関へ移管)と、新規導入82機で、全体でプラスマイナスで158機減少。早期退役には大部分のE-3 AWACSとE-8 J STARSを含む
(ちなみに、2022年度予算では最終的に、要求した早期退役201機のうち、42機のA-10以外は退役が議会で認められている)

F-35 Germany.jpg●F-35については、2022年に48機が、2023年予算では33機に大幅減少。ロッキード社のBlock 4成熟待ちが理由。同長官は総調達数1763機に依然コミットしていると最近発言も
●F-15EX購入は、22年度12機から23年度は24機に倍増。NGADとB-21用の無人機ウイングマン関連は150億円、NGADは2000億円でF-35Aにも約1200億円
●極超音速兵器は戦闘機用HACMと爆撃機用ARRWに計680億円
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あくまでも「米国防省がまとめた予算案」です。

また、これからウクライナ問題で安全保障環境が激変する中、ウクライナ問題発生前に固まった予算案が、議席数が伯仲する米議会で議論されるわけです。大変です

国防予算関連の最近の記事
「F-35調達機数は減少へ」→https://holylandtokyo.com/2022/03/25/2933/
「海軍は3大近代化から1つに絞れ」→https://holylandtokyo.com/2021/06/11/1898/
「空軍の戦闘機構想」→https://holylandtokyo.com/2021/05/21/1709/
「陸軍は2023年で変わる」→https://holylandtokyo.com/2020/09/11/478/
「海兵隊は対中国で戦車部隊廃止へ」→https://holylandtokyo.com/2020/03/26/790/

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