エンジン含む部品調達不足やソフト開発で続くトラブル
欠陥箇所総計は870を超え、むしろ増加傾向
3月16日付Defense-Newsが、1月に米国防省の作戦運用試験&評価局が発表した初めての公開版(限定的内容の)「F-35開発プログラムレポート」について、民間監視団体POGO(Project on Government Oversight)がF-35の実態を正しく伝える内容になっていないと主張し、非公開版を入手&公開して批判している様子を紹介しています
F-35については、米空軍を中心とした米軍内で調達機数削減の検討が水面下で進む一方で、F-35導入を避け続けていたドイツまでが3月14日にウクライナ情勢を受け35機以内の導入を決定するなど、西側諸国で「地滑り的」な調達決定が相次ぎ、米国政府を挙げての強硬な売込み活動が伺える状況です
民間団体POGOが批判の対象にしているレポートを作成した作戦運用試験&評価局(DOT&E :Office of the Director, Operational Test and Evaluation)は、議員立法で設置された部署で、国防省の各種開発計画を極めて厳しく評価することで知られた部署ですが、国民向けの公開バージョン報告書で指摘されている内容で、特に以下の3点についてPOGOは不誠実だと指摘しています
部品不足やエンジン問題がF-35稼働率向上を阻害
●国防省は2021年1月にF-35稼働率が70%に達したと宣伝しているが、そこをピークに同年9月には53%にまで低下しており、2021年全体では目標の65%を下回り61%となっている
●非稼働31%の内訳は、定期修理8%、修理中15%、部品待ち16%で、レポートは7月までは修理労力の少ない新型機導入で高稼働率を維持できたとしているが、2021年後半に稼働率が下がったのが部品供給を維持できないサプライチェーンの根本的問題である点を過小評価している
●別のデータでは、2021年12月時点で、25%の機体が部品待ちで非稼働になっていることが明らかになっている。これは短期的に稼働率を上げても、長期的な改善を維持できる状態にないことの証左で、国防省F-35計画室の楽観的な見通しとはかけ離れている
●同様にF135エンジン問題(タービンブレードの耐久性不足)について、F-35計画室長は対処可能で根本原因を解決すると述べ続けているが、非公開バージョンではF135エンジンは修理工場の能力を超えて故障が発生しており、エンジン不足は悪化の一途をたどっている。例えば2021年5月には38機がエンジン待ち非稼働だったが、9月末には52機にエンジン待ち機体が急増している
ソフト導入時の事前チェックが不十分で問題多発
●F-35は「ソフトウェアの塊」とも言え、新ソフト導入時の事前確認が極めて重要だが、ソフト試験予算が十分ではなく様々な問題が発生している。公開レポートでは削除されているが、新しいAMRAAMソフトを導入した際、旧ソフトとの適合確認が不十分で旧ソフトを破壊した事案が非公開レポートでは紹介されている
●上記のようなトラブルを避けるため、F-35「Block 4」導入に向け、F-35計画室はC2D2との半年ごとに細かなバグや修正を継続的に行う手法の導入を試みたが、この手法も「持続的実施不可能」と同計画室が判断するに至っている
●同計画室はC2D2が完全にはうまくいかなかったが、「Block 4」導入に向け多くの役割を果たしたと強調しているが、新ソフト導入時の試験確認予算不足は致命的であり、ALIS後継のODIN開発がソフト開発予算不足で一時中断したように、このソフト導入時のトラブルは今後も続くとPOGOは警鐘を鳴らしている
不具合件数(deficiencies)は増加し続けている
●F-35関連の不具合件数(deficiencies)は公開レポートには含まれていないが、非公開版では2020年に871件(最高度のCategory 1不具合10件含む)で、2021年9月末には845件(Category 1不具合6件含む)となって若干の削減を示している
●しかし2022年3月時点では873件(Category 1不具合5件含む)となっており、不具合件数は増加傾向を示している。F-35計画室は、F-35使用者から直ちに影響する不具合ではないと確認しているとか、パイロットや整備員の業務マニュアルに明記して注意喚起しているとか言い訳しているが、800以上の不具合とは異常である
●F-35計画室は2021年に不具合171件を解決したとアピールしているが、要求性能を満たすための新たな改修や不具合是正に伴い、新たな不具合を生み出している状態で、終わりが見えない状態が続いている「一歩進んで2-3歩後退」との表現が正しいと感じる。
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POGOのwebサイト(スタッフ50名規模)
→https://www.pogo.org/
民間団体に指摘されるまでもなく、非公開の生々しいレポートを少なくとも米軍関係者は見ており、米空軍は高止まりしているF-35維持整備費が確定する2025年に現在の調達予定数1763機を再検討し、米海兵隊も司令官も購入機数見直しを示唆しています。最大の同盟国英国も国防相が維持費高止まりに激怒し、調達機数半減を検討との報道も出ているところです
ドイツで16か国目となるF-35導入国ですが、「みんなで渡れば怖くない」ではなく、各国がそれぞれ、足元の安全を確認しながら進まないと「金食い虫F-35」どころか、「亡国のF-35」が現実になりつつあります。
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3月16日付Bloombergによれば、米国防省は3月28日公表予定の2023年度予算案で、F-35調達機数を当初予定の「94機」から35%削減して「61機」にする模様です。
性能について評価する声は操縦者や作戦運用関係者からあるが、あまりにも維持費や整備費が高価で多く購入しても維持できない・・・のが理由です
結果として米軍のF-35調達機数の経変変化は
2020年度 98機
2021年度 85機
2022年度 85機
2023年度要求 94機→61機へ
米国が「亡国のF-35」から静かに引き始めている中、海外への売り込み攻勢を強めている現実がここにあります
F-35調達機数削減の動き
「米海兵隊も削減示唆」→https://holylandtokyo.com/2022/01/17/2586/
「米空軍2025年に調達上限設定を」→https://holylandtokyo.com/2021/09/09/2184/
「英国防相がF-35企業に不満をぶちまける」→https://holylandtokyo.com/2021/06/25/1949/
「英国は調達機数半減か」→https://holylandtokyo.com/2021/03/31/174/
「フィンランドが15か国目に」→https://holylandtokyo.com/2021/12/14/2520/
「F-35投資はどぶに金を捨てるようなもの」→https://holylandtokyo.com/2021/03/10/157/
F-35のエンジン問題
「エンジン問題で15%飛行不能」→https://holylandtokyo.com/2021/07/27/2022/
「エンジンブレードと整備性問題」→https://holylandtokyo.com/2021/02/17/263/
「Lord次官が最後の会見でF-35問題を」→https://holylandtokyo.com/2021/02/03/254/