米空軍が電子戦専門航空団創設

正確には「電磁スペクトラム戦」です
サイバーとISRを司る第16空軍隷下に創設
既存の電子戦部隊を集め第350電磁スペクトラム戦航空団として

350th SWW2.JPG6月25日、米空軍は戦闘コマンドACC隷下の第16空軍内に、新たな電子戦専門の第350航空団(電磁スペクトラム戦航空団:Spectrum Warfare Wing)を立ち上げ、電子戦以外の部隊も所属していた第53航空団から独立する形となりました

記事タイトルに使用した「電子戦」との表現は正しくなく、より広い「電磁スペクトラム戦」と呼ぶことに米国防省は変更したのですが、この用語の変更は、2020年10月29日に完成したことが発表された「国防省電磁スペクトラム戦略」で、従来の伝統的な電子戦分野である電子妨害や心理戦活動、商用・公用・軍用の電磁波運用管理だけでなく、米軍が電磁波の世界で容易に隠れる(Hide)ことが出来たり、商用周波数帯を作戦用により容易に使用出来たりする方向を目指すことになったことから変更されたと承知しています

350th SWW.JPGまた全体が非公開の同戦略では、「電磁スペクトラム運用を司るcombatant commandを創設する方向で検討する」ともされており、これらを含め同戦略の具体的ロードマップが今年3月末にはHyten統合参謀本部副議長の下でまとめられたはずですが、こちらも非公開となっています

国防省レベルの「電磁スペクトラム戦」検討の動きを受け、各軍種も動き始め、米空軍は非公開ながら今年春に「電磁スペクトラム戦戦略」をまとめたと報道され、米陸軍も前線の電子戦部隊を2027年までに再編成完了する計画を今年1月に打ち出しているところです

これら米国防省を上げての動きの背景と米空軍の同戦略作成に関し、Brown米空軍参謀総長が今年1月27日に端的に語っていますので振り返ってみると・・・

Brown4.jpg湾岸戦争以降の30年間、我々は電子戦に背を向け、居眠り運転状態を続けてきた
航空優勢は一部の地域で確保可能だろうが、電磁スペクトラム戦での優越はもはや可能ではない。多くの通過点があるゴールがない終わりなき戦い

単にステルスや自己防御ジャミングと言った防御的なものではない。過去25年使用した装備では将来は戦えない。米空軍は電子戦分野で機動し攻撃する攻撃的な態勢を目指す。従来の防御的な電子戦から攻撃的な姿勢への大転換を図る
2030年に到達すべき姿をわかりやすく提示し、空軍全体での取り組みを促進する。その想定は中国を相手にしたものになる

各種報道等によれば第350電磁スペクトラム戦航空団は
Young EMS.jpg6月25日時点ではフロリダ州エグリン空軍基地で編成されているが、新たな部隊建設場所の環境影響調査を現在実施中で、同調査終了後、各種調整を経て新根拠基地が発表される
編成時点で軍人と文民併せ約1200名で構成されているが、計画では、米本土3か所に分散して所在する8個部隊も配下に入れ、2131名となる予定

同航空団の任務は、全部で69個存在する米国や同盟&友好国の電子スペクトラムシステムに電子戦能力を提供し、そのための電磁スペクトラム専用のモデリング、プログラム作成、シミュレーション、アセスメントも担う
ミッションステートメントは「Deliver adaptive and cutting-edge electromagnetic spectrum capabilities that provide the warfighter a tactical and strategic competitive advantage and freedom to attack, maneuver, and defend.」

中核部隊の第53航空団所属だった「53rd Electronic Warfare Group」は、編成改編で既に第350航空団配下に移動している。(この部隊が主力のようで、部隊編成組織は示されているものの、具体的な保有装備等については公開情報が見当たりませんでした)
350th SWW4.jpg新航空団司令官となったWilliam Young大佐はプレスリリースで、「電磁スペクトラム戦で敗れるようなことがあれば、我々は全ドメインでの戦いで敗北することになる。そのようなことにならないために我が部隊は新編された。我が部隊の立ち上げは、米空軍の本分野へのコミットメントを示すものであり、統合戦力が望む場所とタイミングで自由に攻撃・機動・防御できるようなるため、関連部隊の一体化と近代化に取り組んでいく」と述べている
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この関連ニュースが、米軍の本分野での危機感を示すエピソードとして、2014年にウクライナ軍支援に米軍関係者が現地に赴いた際、既にロシアの支援を受けた反ウクライナ勢力が無人機の操縦妨害や誤誘導能力を駆使して前線をコントロールし、国境から20マイル圏内のウクライナ軍携帯電話を使用不能にするほどの妨害能力を有していたことに「驚愕」したことなどを紹介しています

350th SWW3.jpgまた中国軍が統合参謀本部に電子戦担当高官ポストを2015年に新設したことなど、米軍が今も検討中のことを、ロシアや中国が先んじて行っている点などを紹介しています

「30年間居眠り運転してきた:asleep at the wheel for the past 30 years」と空軍トップが表現した現実を謙虚に見つめ、サイバーやISR部門を絡めた第16空軍での融合運用も併せ、更なる前進を期待いたします。日本は今も実質「ゼロ」ですから、言うまでもありませんが・・

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