空軍長官が次期ICBM開発の苦悩&不安を語る

B-21と並び核抑止3本柱で失敗不可の開発案件も
老朽ミニットマンⅢ開発から半世紀でノウハウ散逸
「未知の未知」に次々遭遇:コスト増大懸念で決断に苦悩

Sentinel.jpg11月13日、Kendall空軍長官がシンクタンクCNACSで講演し、核抑止3本柱の2本を担う米空軍で、B-21爆撃機開発は10日に初飛行を終えてほぼ計画通りであるが、Minuteman IIIの後継ICBM開発(LGM-35A Sentinel開発)は、開発を進めるほど「未知の未知」に遭遇し、

前回のミニットマン開発から50年以上が経過して知見(各種設計図や製造ノウハウや技術者等)が失われ、450個のICBM格納サイロが広範な土地に分散配置されているなど、知れば知るほど「複雑で大きな課題」となっていると語り、不確かな部分が多数残され、コスト激増の恐れをはらんだ非常に決断が難しいプログラムになっていると苦悩を吐露しました

Kendall AFA5.jpgMinuteman IIIの後継ICBM(LGM-35A Sentinel)は、GBSD(Ground Based Strategic Deterrent)とも呼ばれてきましたが、この難しさやコスト問題から、戦略原潜後継検討を含めた「3本柱」後継開発検討時の約10年前から「ICBM廃止議論」がくすぶっていますが、2020年には米空軍がB-21開発と同じNorthrop Grumman社と契約し、2029年配備を目指してLGM-35A Sentinel開発を開始しています

ただ、米空軍ICBMは約400発が450個の地中サイロで運用されており、サイロは面積32000平方マイル(日本の中国四国地方を合わせた面積:イメージで縦横130㎞×640㎞)に分散配置されている状態で、多くの部品調達が不能になっているミニットマンミサイル後継開発だけでなく、同様に資料散逸のサイロと土地再開発調整、サイロと指揮所を結ぶ指揮統制システム開発&建設などなども含み、ざっくりと総額15兆円プロジェクトと言われてきましたが、

Sentinel2.jpg検討を進めれば進めるほど「未知の未知」が見つかり、米国防省での長年の勤務歴と剛腕で知られるKendall長官が、「Sentinel開発は、最も大きく複雑なプログラムで、恐らく米空軍が担った中である意味最も巨大なものであろう」と講演で表現しているほどです

例えば同空軍長官は、「開発を進め課題を理解するほど、より多くのコストが掛かることが判明し、その都度インパクトがどの程度になるか、計画の修正で対応可能かどうかをアセスメントしている状況だ」、「指揮統制装置もその一つで、幾つかの分野でコスト上昇は避けられない」と、「不確かさ」山盛りの状態に直面している様子を表現しています

Sentinel5.jpgもう一つ厄介な問題は、調達担当国防次官だったKendall氏が一端国防省の職から離れ、現職である空軍長官に就任するまでの間に、Northrop Grumman社とコンサルタント業務でかかわりがあったことから、米国の法律で、同社が絡む国防省プロジェクトの意思決定に距離を置くことが規定され、「剛腕」が十分発揮できない点です

2023年度予算案には、核抑止3本柱の近代化に34.4Bドル(5兆1000億円)が投入され、6.3Bドル(9500億円)をコロンビア級戦略原潜に、5Bドル(7500億円)をB-21ステルス爆撃機に、3.6Bドル(5400億円)を次期ICBM(GBSD)、4.8Bドル(7200億円)が核抑止指揮統制システムに投入されており、それぞれ各計画への支出は今後膨らみます

LGM-35A Sentinel概要紹介(約8分半)


米会計検査院GAOは6月発表のSentinel開発に関するレポートで、スタッフ不足・サプライチェーンの喪失混乱・ソフト開発の知見喪失等々を問題とし、少なくとも2029年完成は難しく、2030年中盤以降にずれ込むと指摘している模様です。戦略原潜・大型爆撃機・ICBMの「3本柱」を維持可能かどうかの議論は、必ず近い将来再燃すると思います

次期ICBM(GBSD)開発関連
「2023年予算案では」→https://holylandtokyo.com/2022/03/30/3066/
「次期ICBM中止なら爆撃機待機再開主張」→https://holylandtokyo.com/2021/04/23/114/
「米戦略軍司令官が延命論に怒り」→https://holylandtokyo.com/2021/01/21/303/
「提案要求書RFP発出」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-07-18
「次期ICBM(GBSD)企業選定」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-08-27-1

米軍核兵器の惨状
「初のオーバーホール」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-05-15
「移動式ICBMは高価で除外」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-16
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1

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