Barrett空軍長官らも政権交代に合わせ辞任
バイデン大統領就任式の前日に職務終了
11日、米空軍はBarbara Barrett空軍長官が政権交代に併せて退任すると発表し、14日に離任式を行うと明らかにしましたが、同時に空軍次官や会計監査官と共に、米空軍の装備調達や兵器開発の改革を2018年から先頭になって進めてきたWill Roper調達担当次官補の退任も明らかになりました
Roper次官補は、2017年から当初は国防省のSCO(戦略能力迅速調達室)室長として「無人機の群れ技術」導入などで辣腕を率い、その後米空軍の調達担当次官補としてメディアから「調達のボス:Acquisition Boss」と呼ばれ、末尾の過去記事が示すように、米空軍が取り組む新規からトラブル中の装備も含め、全ての新規装備品調達事業を仕切る八面六臂の活躍でした。
同時に、米軍全体の指揮統制の将来を握るJADC2(米空軍内ではABMS)を進めるため、先頭に立って実験演習を3回行ってその重要性アピールにも奔走していたところで、4軍の足並みが「今一つ」な中、Roper次官補の辣腕が今後ますます期待されていたところでした。
そんな中で突然の退任ニュースです。もちろん、政権が代わって後ろ盾を失う以上、改革が継続できないと考えた既定路線だったかもしれませんが、その影響は甚大と言わざるを得ません。本ブログの読者の方も、名前を憶えていなくても、顔写真には見覚えがあると思います
これまでRoper次官補が、口八丁手八丁で裁いてきた様々な事業の中で、今後が懸念されるいくつかのプロジェクトを取り上げておきます
●次世代制空機NGAD
昨年9月に、突然、既にデジタル設計技術等の最新技術を生かし、既にデモ機が初飛行済みだと発表して関係者に大きな衝撃を与え、2020年Defense-Newsの10大ニューストップに選ばれています。
一方でNGADについては、あまりに秘密情報が多く米議会から賛同を得られていない点に苦慮し、「米空軍にチャンスをくれ」と訴えていたところで、これについてもしっかり引き継いで推進するパワーのある人材が存在するのか懸念されます
8年毎に新機種導入など、陳腐化させず、多くの企業が競争する環境を作り、かつ新規参入を促進する画期的なアイディアがとん挫しそうで心配です・・・
●無人機ウイングマン構想(Skyborg)
無人ウイングマン構想は、中国やロシアなどの強固な防空網を持つ敵との本格紛争を想定し、現在は有人機がすべてを担っているISR偵察や攻撃を、安価で撃墜されても経済的負担が少ないながら、人工知能で任務遂行可能な無人機開発を目指すものです
昨年12月にデモ機製造企業3企業を決定し、2021年5月までにプロトタイプ初号機が提供され、同7月に試験飛行を開始する予定です。次世代制空機と合わせ、まだ具体的な調達構想に米議会説明等が必要な事業で、道半ばですので、今後の方向性が気がかりです
●レーザー兵器(エネルギー兵器)開発
兵站支援が難しい対中国作戦を念頭に、電力さえあれば弾薬補給の必要がないレーザーなどエネルギー兵器に大きな注目が集まっている中、昨年6月Roper次官補は、米空軍内のチームが優先している戦闘機搭載自己防御レーザー兵器開発について課題が多数残っていると慎重姿勢を見せ、「レーザーがまず目指すべきは、単純だが恐れるべき脅威となっている小型無人機だ。これこそレーザー兵器が成熟すれば対処すべき脅威だ。」と投資や研究の優先順位を再考する考えを示していたところです。今後の方向性を示す人物がいるのでしょうか???
●F-35やKC-46などトラブル装備品
新たに操縦室内から空中給油操作を行う設計にしたKC-46の操作画面が要求性能を満たさず、ハードの根本見直しをボーイングに迫っているKC-46ですが、ハード対策は早くて2024年から開始とRoper次官補は語っており、コロナで瀕死状態のボーイングをどれだけ真剣に動かせるかに後任の力量が問われるところです
F-35は自動兵站情報システムALISが機能せず、後継のODIN導入が始まったところですが、まだまだ山はこれからで、量産開始もコロナによるサプライチェーンの混乱などで先延ばしになっており、心配の種尽きず・・・です
●老朽化装備を早期退役させ、最新装備を導入
老朽化が進んで維持整備費がかさみ、対中国等本格紛争で出番がなさそうな装備を早期退役させ維持費を浮かせ、少しでも新規装備の導入を加速したい米空軍ですが、選挙区への利益誘導で早期退役に反対する議員対に直面し、A-10、RQ-4、MQ-9などの早期退役進まず・・議会との連携を含め、前進させる推進力になる人はいるのでしょうか
●調達改革全般
お役所仕事の旧来の装備品調達手法では、完成品を部隊配備する頃にはコンセプト自体が陳腐化していると問題視されている米軍調達ですが、これをオープンアーキテクチャーやアプリ更新で常に最新技術を活用できる形式に改革する真っただ中にある国防省や米軍で、Roper次官補に続く辣腕が登場するか? 国防省のLord調達担当次官も交代の可能性がある中で・・・
●新設された宇宙軍のバックアップ
出来立てほやほやの宇宙軍ですが、その話題性とは対照的に、全てが不足している状態で、いつ「SOS」が発せられてもおかしくない状態と見る向きも少なくありません。元親の米空軍の支援が不可欠ですが、予算厳しき中、一度袂を分かった宇宙軍をだれがサポートできるのか
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米空軍だけでなく、米軍全体の改革の勢いにも影響が出そうですし、フロノイ女史が産軍複合体の「闇」の作用で国防長官に成れず、オースチン元将軍が国防長官に推挙されたあたりから不穏な気配がしていましたが、ついに来たか・・・の思いもします。
20日に新政権が誕生しても、国防長官をはじめ多数の政治任用ポストを埋めるには、主要なポストだけでも少なくとも半年は必要ですから、いろいろ停滞するんでしょうねぇ・・・・。
調達関連の改革を国防省の担当次官として推進してきたLord次官も、20日で退任が明らかになりました。強力な改革推進派だった2名の退任で、しばらく寂しくなりそうです・・・
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