当初はF-16クラスの機体に人工知能を搭載して
自動車の自動運転が苦労している教訓にも学べ
4日、おなじみの米空軍協会ミッチェル研究所主催のオンラインイベントに、米国防省の統合人工知能センター長であるJack Shanahan空軍中将が登場し、米空軍研究所AFRLが2018年から開始している戦闘機に人工知能を搭載する研究で、2021年7月に有人戦闘機との空中戦を予定していると明らかにしました
ただ、自信たっぷりということではなく、自動車の自動運転に世界中の複数の自動車企業が数千億円レベルの巨額の投資を10年近く続けている中で、未だに完全自動運転を実現した「level four」の自動車が出現していないことを例に挙げ、成功が約束されたわけではないと表現し、自動車業界の教訓にも学んで前進したいと語っています
先日は、国防省最高位の研究機関であるDARPAが進める人工知能空中戦プロジェクトACE(Air Combat Evolution)について、18か月間の「フェーズ1」検討に入るとご紹介しましたが、DARPA側は「空中戦シナリオを、異機種、多数機、作戦レベルの多様なシナリオへと適応範囲を広げる」レベルを狙っているようなので、米空軍研究所はその一部を担っているのかもしれません。
Shanahan空軍中将は、ご紹介するAFRLのプロジェクトの成果は、「多数進行中の他のAI活用システム」に融合・統合されて活用されると説明していますので、それなりに他プロジェクトとの役割分担が緩やかにでもあるのだろうと信じておきましょう
4日付米空軍協会web記事によれば
●米国防省の統合人工知能センター長Shanahan中将は、空軍研究所のチームリーダーであるSteve Rogers氏が、2021年の飛行準備のため大変忙しく困難な時間を過ごしていると語り、機械と人工知能が人間を打ち負かす準備をしており、成功すれば偉大な成果となると表現した
●空軍研究所はAI操縦の戦闘機を2018年から追求しており、関係者はプロジェクト開始当時のインタビューで、「F-22やF-35のような最新鋭機に人工知能を搭載するのではなく、当初は、F-16のような機体に搭載する予定だ」と説明していた
●研究開発リーダーであるRogers氏は、「数千時間の飛行経験がある優秀な戦闘機パイロットを、様々な英知を集めて学ばせた人工知能でサポートしたら、どれほどの能力を発揮できるだろうか・・・」、「人間がまだ思考し始めていない将来までも、タイムラインで意思決定を手助けしてくれるだろう」と構想を語っている
●プロジェクトの成果については、「多数進行中の他のAI活用システム」に融合・統合されて利用され、米空軍が優先推進する「Skyborg:無人ウイングマン構想」から、戦闘計画システムや維持整備管理に至る様々な分野で、人工知能や機械学習が生かされることになる
●今年2月の米空軍協会の航空宇宙戦シンポジウムで、基調講演を行ったSpaceXのElon Musk氏は、「F-35の敵は人間に遠隔操作された無人機となろうが、その無人機は人工知能により支えられた機動や行動で強化されているだろう」と述べ、無人機の時代を予言して空軍関係者に波紋を投げかけた
●この講演に絡めてShanahan中将は、自動車の自動運転に世界中の複数の自動車企業が数千億円レベルの巨額の投資を10年近く続けても、未だに完全自動運転を実現した「level four」の自動車が出現していないことを例に挙げ、成功が約束されたわけではないと表現し、一方で自動車業界の教訓に学ぶことでより、迅速に人工知能戦闘機を実現することも可能だろうと述べた
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ミッチェル研究所イベントの映像
2018年から開始して、2021年7月には有人機と空中戦がデモ可能、とのレベルがどの程度なのか気になりますが、高度な搭載システムにあまり頼らない第4世代機F-16クラスで、AIによる機体姿勢や機動や運動エネルギー管理の基礎を確立しようとの路線だと想像しました。
より多くのセンサー情報やデータリンク情報を処理する必要がある第5世代機への投入は、その先だということでしょう。DARPAの研究とのすみわけや連携が背景にあることを信じつつ・・・
DARPAの無人機空中戦ACE研究
「空中戦を支えるAI開発本格化」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-19
米空軍の構想
「米空軍の無人ウイングマン構想」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-27
「XQ-58AのRFI発出」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-04-06
「XQ-58A 初飛行」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-03-09-1
「空母搭載の小型無人機」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-03-03
「空軍研究所が関連映像公開」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-31-3
豪州とボーイングの取り組み
「試験初号機を披露」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-05-1
「豪州とボーイングが共同で」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-03-09-2
無人ウイングマンの位置づけ
「日米が協力すべき4分野」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-18
「戦闘機族ボスがNGADを語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-28
「CSBAの米空軍将来提言」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-24
「連接重視で航空アセット削減へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-28
「次期制空機検討は急がない、急げない」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-19
「米空軍が次期戦闘機検討でギャンブル」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-05