コロナ沈静後のパイロット不足や争奪戦に備え

コロナ下でも米空軍の操縦者養成は淡々も
今後の民間航空会社の需要増を予期し
操縦者の確保や養成の効率化に向け改革引き続き

Brown AFA.jpg22日、Brown米空軍参謀総長が空軍協会航空宇宙サイバー会議で講演し、パイロットの民間への流出で操縦者の充足率が低下している問題について、コロナ下で新規養成が困難な中でも安定した養成数を達成でき、2021年は増加するだろうと述べる一方で、コロナ沈静後の民間航空輸送増を見据え、国としてパイロット不足が再燃すると危機感を訴え、養成迅速化や効率化に向けた取り組みをアピールしました

米空軍は深刻なパイロット不足問題に直面し、操縦者ポストの約2割に相当する2000名のパイロットが不足している状況にあります。その原因は、比較的不便な勤務地、度重なる海外派遣任務、予算制約から生じた訓練飛行時間の削減、また給与や待遇面で優れた民間航空会社からの引き抜き増などが背景にあると分析され、米空軍は多岐にわたる対策を講じてきました

Brown AFA3.jpg例えば、勤務延長に伴う特別ボーナスの支給、勤務地の子弟教育環境の改善、民間航空会社との引き抜き防止のための協議、新規パイロット養成数を増やすための体型制約緩和による女性等の流入促進、操縦席設計基準見直しで多様な人材受容性拡大検討(身長、手足の長さ等)、一部身体特性を満たさない者への機種限定採用制導入、養成カリキュラム見直しによる養成期間の短縮(各自の素養に応じた柔軟な教育シラバス導入)などなどです
(細部は下記の過去記事をご覧ください)

この課題への対策の一つである新規パイロット養成目標だけから見ると、
2018年度目標は1180、2019年度目標は1311名、2020年は1480名目標、2022年までに養成数1500名達成に目標設定・・・と2018年10月に議会で当時のWillson空軍長官が証言していますが、以下の記事からすると、民間航空会社がコロナで大打撃を受けている間も、希望者確保と養成の効率化&迅速化は容易ではない印象で、流出はある程度抑えられているのかもしれませんが、米空軍の苦悩は続いていま

23日付米空軍協会web記事によれば
Brown AFA2.jpg●Brown空軍参謀総長は、米空軍における新規操縦者養成は、コロナ下にありながら比較的安定した実績を残していると自己評価し、今後の養成コースの効率化迅速化を考える上でも良い兆候だと表現した
●報道されている新規養成数は、2019年は1279名(目標1311名)、2020年度は1263名(目標1480名)であるが、2021年度の見通し数を操縦者養成を担う訓練教育コマンドのWebb司令官は、2020年度から約100名増だと語った

●ただし今後は、コロナ下でパイロット採用を抑えていた民間航空会社の採用活発化が予期されており、航空宇宙サイバー会議に出席したユナイテッド航空のScott Kirby社長は、米軍と民間航空会社の両方でパイロット不足が再び顕在化する兆しが見えていると語っている
Kirby United.jpg●ユナイテッド航空社長とBrown大将は共に、これまではそれぞれの初級操縦訓練を受ける前に、約20万円程度を自費で負担して民間飛行学校で操縦を体験したものを有利な扱いにする制度を運用してきたが、そんな人材は限られていることから、飛行経験のない若者に目を向ける必要があると語った

●Brown大将は、重要なパイロット確保は国家として考えるべき重要事項だと表現しつつ、最近の米空軍の取り組みを説明した
— 操縦者志願者が受験する能力評価試験AFOQTの点数は、最新の試験の点数ではなく、過去の試験も含めた最高点で出願可能
— 基礎的航空能力テストTBASを3回まで受験可能とする
— 上記AFOQTやTBASは、従来5か月から6か月間隔をあけないと再受験できなかったが、間隔を3か月に短縮する
— これまでにAFOQTを受験経験がない者向けに、試験対策用の事前勉強会を開催する

pilot shortage.jpg●また同参謀総長は既に開始している、大学新卒者用パイロット養成コース「Undergraduate Pilot Training 2.5」や、固定翼訓練を無くす等の取り組みを含めた「Helicopter Training Next」コースへの取り組みもアピールした
●更に米空軍は、民間文民教官による初期操縦過程におけるリモート・シミュレーター訓練の実施や、訓練生の技量や能力に応じた最適カリキュラムのAI活用作成等もアピールし、「従来の画一的な訓練シラバスだけでなく、データを活用したテイラーメイドなシラバス提供も試みて、必要技量のより効率的で迅速な獲得付与に取り組んでいる」と語った
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コロナで民間航空会社の旅客需要が大幅低下し、新規パイロット採用が激減する中でも、米空軍の新規養成増加計画は順調とは言えない印象です。でも民間への流出も激減でしょうから、米空軍はつかの間の「一息ついた」状態なのでしょう

大きく考えてみると、単に「大空を飛んでみたい」とのシンプルな夢を描く若者が減ったということなのでしょう・・・・。

無人機の活躍や性能を見聞きしてきた世代ですから、有人機パイロットの将来に限界があることを肌で感じている世代・・・と言えるかもしれません

米空軍パイロット不足関連
「女性登用増に航空機設計基準変更」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-20
「ヘリ操縦者養成から固定翼削除試行」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-06
「米空軍がパイロット募集の身長基準を廃止」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-23
「Fly-only管理の募集中止」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-15
「5年連続養成目標数を未達成」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-19
「採用の身長基準を緩和」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-18
「操縦者不足緩和?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-12
「操縦者養成3割増に向けて」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-21-1
「下士官パイロットは考えず」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-19-3
「F-35操縦者養成部隊の苦悩」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-12-3
「下士官パイロット任務拡大?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-22
「仮想敵機部隊も民間委託へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-09-1
「さらに深刻化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-10

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