米海軍の空母や空母航空戦力は、精密誘導兵器の発達により今後ますます脆弱になると指摘され、更に次期空母フォード級の価格が従来の2倍(約1兆6千億円)に跳ね上がっていることから、米議会や専門家等から将来性について疑問や批判を受けています
具体的に米議会は、米海軍に対し「空母の価格低減策」や「空母の代替」の検討を命じ、米海軍は1年を掛け「嫌々ながら」検討を進めています
そんな中、11日、米海軍の航空戦力軍司令官(commander of Naval Air Forces)であるMike Shoemaker海軍中将が、空母及び搭載航空機が提供する戦力は、現在も将来も柔軟性のある戦力オプションとして重要であり続けるとの文書を発表しました。
また翌12日には、CSISと米海軍協会が主催の「海軍航空戦力」のパネル討論会に登場し、上記文書の主張を発信しています
11日付 Shoemaker海軍中将の文書によれば
空母と空母攻撃群の存在意義は
●今日、米国の安全保障環境は、今まで以上に、空母戦闘群を求めている。空母戦闘群は、多様な脅威や自然災害にまで迅速に対応し、国家指導者にオプションやプレゼンスやアクセスを提供している
●脅威度が高いエリアに置いても、空母群はその戦力構成や機動性を生かして生存性を高め、その航空戦力の総合力は戦力投射力により、世界中で平和や安定の鍵として機能を果たしている
●空母攻撃群CSGは、空母と搭載航空戦力、ミサイル巡洋艦、ミサイル駆逐艦、補給艦等で構成され、その組織的融合力を持って世界の共通在である航行の自由を確保している
●従って、空母攻撃群が現在提供している外交や経済を支える機能を、すぐさま代替出来る物はない。アクセスが限られ、外交ルートでは対応に時間が必要な事象に対応し、敵対者の意図を拒否し、行動の自由を確保し、統合や他友好国のアクセスを確保するのは、空母攻撃群の役割である
●特に政治情勢やホスト国との関係で、事態発生時の初期段階で地上航空基地が使用出来ない場合、空母航空戦力のみが必要地点に到達出来る。今日の波風の高い世界情勢下、空母攻撃群の提供する戦略的で柔軟性のあるオプションへの需要は継続して高いだろう
●例えば、2014年の夏にISの勢力拡大が激しかった折、アラビア海に所在した空母ブッシュは、僅か30時間で作戦可能態勢を取ることが出来た。最初の10日間は、同空母戦力だけが軍事オプションだった
●911同時多発テロ以降ずっと、空母攻撃群はローテーション派遣を継続しながら当該地域でプレゼンスを発揮し、切れ目のない体制を維持してきたのだ
●また2015年4月には、空母ルーズベルトがイエメン沖で海賊対処に当たっていた際、イエメンへ向かっていた(恐らく反政府組織への物資輸送用の)イラン輸送船が引き返したことがあった。これは空母のプレゼンスが地域の安定に貢献した好例である
●更に災害対処の側面も重要だ。2011年、日本での地震と津波被害に派遣された空母レーガンは、救援物資の輸送や人命救助に活動した。被害を受けた地域の港や飛行場の代替として、日本政府の救援活動の立ち上がりを支えた
将来の空母航空戦力について
●フォード級空母の導入に際し、費用対効果や残存性に関する疑問を指摘する声もあるが、ニミッツ級空母から大きく改善された能力と、技術進歩に併せて発展する艦載航空戦力の力には、大いに期待を持って良い
●フォード級空母は省力化も進めており、空母活動間のトータルの経費で見れば、ニミッツ級に比して約5000億円もコスト削減が可能である。歴史上、後継装備はそれ以前より常に高価である。しかし2番艦、3番艦はコストダウンを図っていく
●艦載アセットへの投資は、将来の戦いにおけるアクセス確保、戦力投射、海上制圧を可能ならしめるものであり、空母の配備される全てのアセットは、様々なタイプの任務の効果や致死性に貢献することが期待される
●艦載無人偵察攻撃機UCLASSは、継続的なISR、対処を急ぐ目標対処、精密攻撃能力を期待される。このシステムはA2ADエリアでの活動能力を提供し、指揮官の目や耳となり、空母攻撃群の前方の状況や脅威把握を行う。
●空母艦載型F-35Cは、そのステルス性による突破力、多様なセンサーによる情報収集融合、他機や艦艇情報とリンク融合する事が期待される。
●FA-18は先進兵器を多量に搭載でき、F-35を補完し、多様な作戦で「high/low mix」の対応力ある火力を提供する
●EA-18Gは電磁波の世界を支配し、高度な電子戦攻撃を行い、空母攻撃群や兵器を防御し、敵通信を攪乱することで味方の地上部隊を保護する
●E-2Dは、目標探知追尾に優れた新レーダーと、重要な指揮統制を提供し、IAMD防空&BMD融合や長距離の防空や対艦戦闘を含む、多様な任務のコーディネートを行う。
●MH-60RとSへりは、空母攻撃群の防御を引き続き担い、R型は艦艇近傍での対潜水艦作戦を行う。V-22オスプレイは、物資補給や人員輸送を担うと共に、その柔軟性を生かして他任務も支援する
●空母艦載機ではないが、対潜哨戒機P-8Aや無人大型偵察機MQ-4Cは、海洋ISR情報を空母戦闘群に提供し、対潜水艦作戦の成功に大きな役割を果たしてくれる
●思慮深い適切な判断と革新的な投資戦略により、将来の空母と艦載航空アセットは継続的に、必要時にまずアクセス確保、戦力投射、海上制圧を可能ならしめるアセットであり続けるだろう
●21世紀の国家安全保障と世界の安定に必要不可欠なものとして、将来の空母戦闘群は、継続的に地域安定のためのプレゼンスを提供し、必要時には強固に防御されたエリアでも新たな能力とアセットで適切な役目を果たすだろう
12日のCSISでの講演に関しては
DODBuzz記事→http://www.dodbuzz.com/2015/08/12/us-navy-details-future-carrier-air-wing/
CSISの関連webページ→http://csis.org/event/naval-aviation
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最後の部分に「思慮深い適切な判断と革新的な投資戦略により」とありますが、米海軍の従来の予算枠では空母や戦略原潜の更新が収まらないので、別枠でこれら予算を確保したいとの「都合の良い提案」です。
諸般の情勢を考えれば、強制削減が現実味を帯びる中、全く無理な話でしょう・・・
この文書を読む限り、空母は「対中国本格紛争」や「強固に防御された地域や環境:highly contested environments」において余り期待されていないのかな?・・・との印象を強く持ちます。
深読みかも知れませんが、最終フレーズの「operate in highly contested environments when required」との表現は、普通は空母に期待しないけど、どうしてもと言われれば・・とも解釈出来るような気がします
実際、厳しい環境下で空母はこの様に活動出来る、との説明や主張は一切含まれていません。
平時のプレゼンスと災害対処、何とか対IS作戦までが空母の限界なのでしょうか。
Shoemaker中将とホッピー飲みながらお話ししたら、そんな本音が聞こえてきそうな米海軍航空戦力軍司令官による「commentary」でした。
空母に関する記事
「空母建造費の削減検討に30億円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-07
「空母代替検討:やる気なし?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-24
「空母をどう位置づける?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-22
「米会計検査院が空母に待った」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-12
「新空母フォード級を学ぶ」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-20
「映像:革新的新カタパルト」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-12-10
「米海軍NIFC-CA構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-26
「NIFC-CAとSM-6連携」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-27