250機削減で91機新規購入の予算案11日議会へ提出
F-35は前年48機から更に42機へペースダウン
削減機には32機F-22、65機F-15C/D、56機A-10など既定方針で
3月11日、米国防省が米議会に2025年度予算案(2024年10月から使用予算案)を提出し、物価インフレ率を考慮しない段階で前年度比1.6%増で、インフレを考慮すると実質マイナスとなる予算案(宇宙軍は名目2%減で、インフレ考慮だと4%近い減額)となっており、2023年夏に成立した財政責任法(Fiscal Responsibility Act)のあおりを受け、厳しい内容となっています
米空軍は元々、2025年度から本格的に旧型の航空アセットを積極的に早期退役させ、浮いた維持費や整備費を新しい装備導入に振り向ける近代化優先方針を示しており、米空軍省の予算担当次官補Greiner少将は、「我々は近代化に重点を置いており、旧型航空機を退役させることで節約&確保可能となる約3000億円を、新たな航空機開発導入などに充当する」と空軍の自助努力の姿勢をアピールして予算案を語っており、
Kendall空軍長官も予算案提出の会見で「米空軍は許容できるリスクレベル範囲内で、空軍の能力を何とか守れると考えている」と説明していますが、予算支出を厳しく制限する「財政責任法」が成立したのは空軍内での2025年度予算案骨格議論が終わった後だったことから、厳しい追加削減を迫られた結果であることは間違いありません
仮にこの予算案がそのまま成立したとすると、米空軍の保有する航空機数の総計は、半世紀をさかのぼっても史上最低規模となり、5000機を割り込む4903機となる模様だと米軍事メディアは報じており、その機種別削減計画数と新規導入機数は下の2つの表でご覧いただくとして、本日はその内訳に関する米空軍幹部の説明ぶりや米メディアの見方を合算して、11日付米空軍協会web記事からご紹介いたします
左が削減機種&機数 右が調達機種&機数
●F-35Aを42機(前年48機から減少)、F-15EXを18機(前年24機から減少+打ち止め)、合計60機の新型戦闘機導入を考えているが、新戦闘機を毎年72機導入したいとの空軍長期目標には達していない。この背景には無人ウイングマン機CCA導入に際し、米空軍の戦闘機部隊を「再定義したい」との空軍参謀総長の3月上旬の発言もあり、今後の推移を見守る必要がある。
●Jones空軍副長官は「戦闘機数は短期的には減少するが、CCAにより長期的には計算結果が変わるだろう」「F-35の調達遅延は新ソフトTR-3開発導入遅延によるもの」と説明している
●2025年度には、老朽化してほとんど飛行できない機体もある65機のF-15C/Dや、2029年までに完全退役を予定する56機のA-10の退役を計画し、出力の弱い旧式エンジンを搭載している26機のF-15Eも廃止を希望している。ただ自己防御装置を強化している一部の改修済F-15Eは、アップグレードして継続活用を考えている
●議会等で強い物議を醸しているのは際も古いタイプの「ブロック20」F-22戦闘機32機の退役で、空軍は「ブロック 30/35」機体の能力向上予算確保のためにも、また次世代制空機(NGAD)の開発検討費用捻出のためにも、戦闘に耐えられない「ブロック20」機体の退役を要求している。なお空軍は過去数年で、F-22 保有機数を 185 機から 153 機に削減している
●第4世代戦闘機の新規導入で様々な議論を巻き起こしたF-15EXについては、当初144機の導入を計画していたが、2025年度の要求18機を最後として、計98機で調達を打ち切ると空軍は発表している
●T-38練習機の後継機T-7練習機に関しては、射出座席開発などの重要な問題に直面しているが、老朽化で維持整備負担や経費が激増しているT-38維持の負担を軽減して飛行時間を確保すべく、7機を導入してパイロット養成需要に宛てたい
●1950年代から使用して老朽化が著しく維持整備費が急増している16機のKC-135を退役させ、KC-46A空中給油機を15機調達を計画している。また本格紛争に備えた次世代空中給油アセットNGAS開発のため、同開発専従のオフィスを立ち上げ必要な投資を行う、とも空軍は説明している
別報道からその他の予算部分について
●「財政責任法FRA」により米空軍が追加削減を迫られたのは約3000億円である
●ミニットマンⅢ・ICBM後継のGBSD計画は、2026年度に大きな選択を迫られるが、どのような対応が可能か検討している
●F-35やF-15Eの調達機数は削減しているが、次期制空機NGADや無人ウイングマン機CCAの開発費は維持している
●空対空ミサイルAIM-120 AMRAAMや空対地ミサイルJASSM-ERについては、米議会の承認を得て是非とも複数年契約をお願いしたい。複数年に渡る大きな規模の発注を準備しなければ、材料調達や生産ラインが非効率になるなど、多くの不具合が生じる事を説明したい
●パイロット不足については、機体の操縦席を埋めることに問題はないが、パイロットが就くべき幕僚ポストに配置する要員が不足している。操縦者養成に関しては、T-38稼働率が急落する中、T-7開発が数年遅れることがボトルネックになっている
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もう少し国防省全体の大きな視点から2025年度予算案を説明し、次に各軍種予算を概観し、最後に細かな部分を見ていくのが王道ですが、複雑に問題が入り組んで頭の整理がつかず、米空軍の枝葉末節である「航空機購入と退役」の話題紹介から入ってしまいました。
米空軍で一番大きい問題(国防省全体での最上位級)は、次期ICBM(ミニットマンⅢシステム全体の後継)開発予算で、特に地下サイロや指揮統制施設や通信施設関連の予算見積もりが爆発的に膨らみ、米空軍の年間予算を遥かに超える5兆8000億円規模となっている問題です。空軍は実質さじを投げた形で、誰がどうこの事業を裁くのかさえ見当がつかない状況になっている現状から、核抑止3本柱の見直しもあり得そうな気がしております
米空軍幹部やOB専門家の「極東で戦闘機無力発言」
「嘉手納からのF-15撤退を軍事的合理性から考える」→https://holylandtokyo.com/2022/11/09/3904/
「米軍F-35調達機数削減の予兆を指摘」→https://holylandtokyo.com/2023/07/18/4823/
「新空軍2トップはF-35調達数削減派」→https://holylandtokyo.com/2023/05/19/4648/
今はどうなってるんでしょうか?
米空軍の戦闘機構成議論
「戦闘機の近未来体制は」→https://holylandtokyo.com/2021/05/21/1709/
「戦闘機は7機種から4機種へ」→https://holylandtokyo.com/2021/05/18/1496/
超巨大プロジェクト次期ICBMシステム整備の苦悩
「空軍だけでは実質無理」→https://holylandtokyo.com/2024/03/01/5591/
「法抵触の議会通知」→https://holylandtokyo.com/2024/01/29/5478/
「長官が苦悩&不安を語る」→https://holylandtokyo.com/2023/11/22/5244/