2023年予定の最終テスト2回がいずれも直前中止
米陸軍は2021年に受け入れ部隊編成し準備進めてきたが
11月8日、米陸軍のDoug Bush開発&調達担当次官補が記者会見で、2023年3月に続き、本年10月末に計画していた陸海軍共同開発の極超音速兵器C-HGB(Common Hypersonic Glide Body)発射試験が、テスト直前の機材チェック段階での不具合発覚で2回連続中止となっており、懸命に原因探求を行っているが、2023年中に再試験を実施して当初計画に沿って同兵器を部隊配備することは「highly unlikely:極めて難しい」と明らかにしました
陸海軍共同開発の極超音速兵器C-HGBは、陸軍が両軍共用の「hypersonic glide body」を担当し、海軍が「two-stage hypersonic missile booster」開発を担う形で、国防省による積極的な仲介もあり3年前くらいから開発が加速し、2020年初めにハワイでの試験に成功、2021年後半にはmissile booster試験に失敗したものの、2022年6月に仕切り直し試験で成功していたところです
米陸軍は比較的順調な開発状況を踏まえ、2021年5月にワシントン州の米陸軍第1軍団(5th Battalion, 3rd Field Artillery Regiment, 17th Field Artillery Brigade unit)に極超音速兵器(LRHW:Long-Range Hypersonic Weapon:通称「Dark Eagle」)の受け入れ部隊を編成し、実ミサイルを除く地上管制装置や発射機や輸送トラック等を2022年9月末に配備完了、2023年運用開始に向け、本格的な部隊運用細部手順検討を開始していました
そして2023年1月、米陸軍の迅速能力造成室長(Rapid Capabilities and Critical Technologies Office)Robert Rasch中将が、予定している米陸軍部隊への2023年「末」極超音速兵器の配備前に、時期は非公表ながら陸海軍共同での同兵器のフル装備試験を2023年中に2回実施すると語っていたところでした(なお当初計画では、2023年9月末までに部隊配備完了でした)
今年に入って2回連続の試験中止の原因は一切公表されておらず、8日に会見したBush担当次官補は「関係者が全力で原因究明に取り組んでおり、もう少しで解明できると思う」、「陸軍はLRHW(Long-Range Hypersonic Weapon)に引き続き関与し、配備を完了する。そのタイミングが少し遅れるだけだ」とのみ語っています
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下の過去記事にあるように、極超音速兵器は中露が米国に先んじて開発&配備を行っており、米国防省は米議会からの厳しい指摘を受け最優先開発案件として同兵器開発に取り組んでいますが、ウクライナでロシア製同兵器が飛翔速度が落ちる目標到達直前の段階でウクライナ軍に迎撃される事例が相次ぎ、研究者からは同兵器の費用対効果について疑問呈する意見も出始めています
また陸海軍とは別に、航空機からの発射型を開発する米空軍も同兵器開発に苦労しており、4月には大型爆撃機搭載型ARRWの開発試験不調を受け、Kendall空軍長官がARRWタイプの装備化断念を表明し、戦闘機クラスから発射のHACM型に絞り込むことになっています
空軍長官はまた、「米国を遠ざけたい中国と、中国抑止用に同兵器を考えている米国とでは、同兵器の位置づけは異なり、中国と同様に米国が追求する必要は必ずしもない」「同兵器は近い将来価格が低下する見通しはなく、少なくとも初期型の同兵器は固定目標に適している面もあり、保有してもsmall小規模になろう」とも語っており、同兵器の特徴や用途等も踏まえ、日本も関与しそうな迎撃兵器も含め、慎重に見守る必要があると思います
米軍の極超音速兵器開発
「ウで次々撃墜:同兵器を過信するな」→https://holylandtokyo.com/2023/06/01/4695/
「空軍がARRW配備断念」→https://holylandtokyo.com/2023/04/05/4478/
「Zumwaltへの極超音速兵器契約」→https://holylandtokyo.com/2023/02/22/4313/
「バカ高い極超音速兵器」→https://holylandtokyo.com/2023/02/08/4261/
「陸軍はあと2回試験」→https://holylandtokyo.com/2023/01/17/4107/
「3回連続ARRW試験に成功」→https://holylandtokyo.com/2022/12/16/4061/
「高価な兵器は少数保有で」→https://holylandtokyo.com/2022/02/22/2742/
「空軍長官:重要性は中国と米国では異なる」→https://holylandtokyo.com/2022/01/25/2639/
「潜水艦へは2028年」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-19
迎撃兵器システム開発関連
「迎撃兵器を日米共同開発で」→https://holylandtokyo.com/2023/03/22/4438/
「迎撃兵器開発を2企業と契約」→https://holylandtokyo.com/2022/07/01/3405/