米空軍が極超音速兵器ARRW導入を断念

3月13日の試験失敗を受け
データ蓄積のため計画通りあと2回試験は行うが
戦闘機クラス搭載のHACM開発に絞り込み

HAWC3.jpg3月29日、米空軍のAndrew Hunter調達担当次官が下院で、3月13日に部隊導入を想定したプロトタイプ発射試験に失敗した爆撃機搭載型の極超音速兵器ARRW(AGM-183A Air-launched Rapid Response Weapon)について、残る2つのARRWプロトタイプを使用した試験は予定通り実施するが、あくまで将来の他方面への応用を想定したデータ収集試験だと述べ、作戦用に本格調達はしないと決断したと明らかにしました

前日の28日にKendall空軍長官が下院で、3月13日の試験は失敗だったと初めて公式の場で認め、「ARRWは開発段階で少し苦労している」、「もう一つの空軍用極超音速兵器である戦闘機タイプ搭載型のHACM(Hypersonic Attack Cruise Missile)により注力していく」と述べていましたが、Hunter次官は更に踏み込み、ARRW型の部隊導入は無いと言い切りました

ロッキード開発担当のARRWは
HAWC4.jpg・爆撃機B-52から発射され、ロケットブースターで加速して音速の5倍以上に達した後、推進装置の無い弾頭のみが分離され目標を攻撃する兵器で、比較的射程が短いことから、固定の高価値目標を比較的近距離から攻撃することを想定した兵器と言われている
・2021年には3回連続試験に失敗していたが、2022年は5月7月12月の試験に3回連続成功しており、特に12月の試験は「大変よくできた成功」と評価されていたが、空軍長官はARRWに懐疑的で「ARRWは自身でその成熟度を証明する必要がある」とも言及していた

残ったレイセオン担当のHACMは・・・
HAWC5.jpg・HACMは、弾頭と極超音速飛行用スクラムジェットが一体化しており、戦闘機クラスから発射する方式で、戦闘機で一刻を争う高価値の標的を狙うオプションを提供することを狙いとしている。
・2021年9月に3度目の正直で基礎試験に成功し、2022年11月末にレイセオン社とプロトタイプ開発契約を約180億円で締結したところ

米空軍は今後、HACM開発に資源を集中していく事になりますが、これまでにもご紹介してきたように、米国防省や米議会は既にロシアや中国が極超音速兵器開発に成功していると言われることから国産兵器開発を急いでいますが、Kendall空軍長官は極めてクールな目線でこの開発を見ています

2022年2月の同長官発言を振り返ってみると
Kendall SASC.jpg●同兵器が完成しても、その高価格や役割から保有兵器数は「small」になる
●米国を遠ざけたい中国と、中国抑止用に同兵器を考えている米国とでは、同兵器の位置づけは異なり、中国と同様に米国が追求する必要は必ずしもない。

●空軍の空中発射型は航空機で発射地点まで運搬する必要があり、前方基地や前方配備艦艇から発射可能な米陸海軍の同兵器より不利な位置にある

AGM-183A2.jpg●極超音速兵器は有効だが、米空軍が攻撃すべき目標を攻撃する唯一の手段ではない。高価で費用対効果や他の要素からも、慎重に投資を検討する必要あり。低速度の巡航ミサイルは安価で、ステルス性や敵防空網への妨害と組み合わせれば有効で、総合的に将来の兵器体系を考える必要がある

●少なくとも初期型の同兵器は固定目標対処用になるが、米国は多数の移動目標に対処する必要があり、同兵器の必要程度は慎重に見極める必要がある
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米陸軍は2023年に2回の発射試験を行った後、2023年末にも地上発射型を部隊配備しそうですので、米軍全体としての今後の動向を「生暖かく」見守りたいと思います

米軍の極超音速兵器開発
「Zumwaltへの極超音速兵器契約」→https://holylandtokyo.com/2023/02/22/4313/
「バカ高い極超音速兵器:米議会が試算」→https://holylandtokyo.com/2023/02/08/4261/
「陸軍はあと2回試験」→https://holylandtokyo.com/2023/01/17/4107/
「3回連続ARRW試験に成功」→https://holylandtokyo.com/2022/12/16/4061/
「高価な兵器は少数保有で」→https://holylandtokyo.com/2022/02/22/2742/
「空軍長官:重要性は中国と米国では異なる」→https://holylandtokyo.com/2022/01/25/2639/
「潜水艦へは2028年」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-19
「3度目の正直でHAWC成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-28
「米艦艇搭載は2025年頃か」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-07-24

迎撃兵器システム開発関連
「迎撃兵器を日米共同開発で」→https://holylandtokyo.com/2023/03/22/4438/
「迎撃兵器開発を2企業と契約」→https://holylandtokyo.com/2022/07/01/3405/

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