コストとF-35Bへの導入困難が背景に
P&WはF135改修型を2028年から提供開始と
3月10日、Kendall空軍長官は2024年度予算案の説明の場で、過去2年間に渡り議論されてきたF-35エンジン問題について、次期制空機NGAD用に開発されてきたAETP(Adaptive Engine Transition Program)エンジンへの換装をコストとF-35B型機への搭載リスクから断念し、現F135エンジンの改修で対応すると明らかにしました。
F-35エンジン問題は、現在使用のF135(Pratt & Whitney製)のエンジンブレード耐久性が想定より低く、機体稼働率低迷と維持整備コスト増の大きな要因となっていることや、F-35「Block 4」がより大きな電源や冷却性能を必要とすることから持ち上がっていました
米空軍はKendall空軍長官を先頭に、航続距離30%増で推力20%増以上の性能向上が得られ、機体への電力供給余裕も生まれ、対中国等の想定環境に必要な能力提供が可能となると主張してAETPエンジン(GE社のXA100かP&W社のXA101)搭載の決断を国防省に求めてきましたが、F135改修と比較して3倍のコストがかかり、F-35調達数の70-80機削減を迫られる可能性にも言及して国防省に判断をゆだねていたところです
また、米空軍がAETPで突っ走る中、米海軍や海兵隊やF-35購入同盟国がコスト負担に耐えられるかや、F-35B型やC形にAETPが対応可能かが問題として指摘されてきましたが、Kendall長官や国防省幹部は「コスト負担が難しく、またF-35B型機へのAETP搭載の技術的リスクが高い」とAETP断念の理由を説明した模様です
P&W社からF-35エンジン供給を奪還しようとしてAETP搭載を強く推進していたGE社は、F-35B型機への対応問題を解決したと最近発表し、F-35「Block 4」以降へのパワー提供にはAETPが必要だと主張してきましたが、「この判断は大変残念だ」、「しかし2022年12月末に米空軍と締結した(次期制空機NGAD用に向けた)AETP開発予算で、XA100エンジンの更なる成熟に引き続き取り組んでいく」とコメントしています
引き続きF135エンジンの改修を担うことになったP&W社は、既に2023年度予算でF135改修の初期設計に着手しており、2028年から改修F135エンジンを提供可能だとし、既に10年かけて構築され稼働状態にある世界中のF-35エンジン整備施設や装備やサプライチェーンをそのまま使用できる点でも、コスト(AETP導入の1/3)と信頼性面で最も優れた選択だと改めて強調しています
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剛腕のKendal空軍長官が強烈に押していたAETP採用が、あっさり却下されました。また昨年夏には、米空軍次世代エンジン開発担当技術者が、AETPエンジンを採用しないと「米国の先端航空エンジン産業基盤は1企業のみに縮小して崩壊する(collapse)」とまで発言していましたが、不採用となりました。
F-35を導入した同盟国や海軍海兵隊からの反発も大きかったのだろうと推測します。
米空軍はAETP導入コストとして8000億円との数字を上げていましたが、その1/3でも2600億円で、1機あたりの改修費がどの程度になるのかが気になるところです・・・
F-35のエンジン問題
「GE社とP&W社が異なる主張」→https://holylandtokyo.com/2022/09/29/3681/
「AETP採用なら調達機数削減!覚悟?」→https://holylandtokyo.com/2022/09/13/3644/
「AETP採用しないと産業基盤崩壊訴え」→https://holylandtokyo.com/2022/08/24/3562/
「空軍長官:国防省に下駄預ける」→https://holylandtokyo.com/2022/08/09/3515/
「空軍長官:数か月で決着すべき」→https://holylandtokyo.com/2022/05/26/3260/
「上院で議論」→https://holylandtokyo.com/2022/05/18/3223/
「下院軍事委員長がAETPに関心」→https://holylandtokyo.com/2021/09/09/2184/
「エンジン問題で15%飛行不能」→https://holylandtokyo.com/2021/07/27/2022/
「エンジンブレードと整備性問題」→https://holylandtokyo.com/2021/02/17/263/
「Lord次官が最後の会見でF-35問題を」→https://holylandtokyo.com/2021/02/03/254/