政府を支える民間衛星が被攻撃時、米国は防御してくれるか?とも
Musk氏が「ウ」大統領にクリミア半島はあきらめろとSNSで
10月14日付Defense-Newsが報じる匿名情報(最初にCNNが報道)によれば、ウクライナの対ロシア軍事行動に不可欠な衛星インターネット通信を「自腹で」提供しているSpaceX社のElon Musk氏が米国防省に対し、同通信サービス料を国防省で負担するよう要求している模様です
Spacex社はロシアのウクライナ侵攻直後から、ウクライナ副首相(IT担当相兼務)からのSNS上での要請に数日で対応し、同社の「Starlink」サービスをウクライナに提供した約15万個の地上ステーション装置を通じて支えており、地上施設費用だけでも毎月30億円、これに低高度軌道に配置された衛星の製造や打ち上げ費用等を含めると数百億円規模(570億円との報道あり)とも推定されています
14日の政府記者会見では、本件に関する質問が国防省や大統領府に多数向けられましたが、国防省報道官は「同リンクに関しSpaceX社とコンタクトしている」とのみ述べ細部には触れず、Sabrina Singh大統領府副報道官も「国防省はウ国防省と協議している。このネットサービスが必要で、ウクライナ軍とウクライナのために安定した通信環境を確保したいと考えている」と述べるにとどまっています
この問題を背景で複雑にしているのは、3日の週にMusk氏が「(露が占領した地域を)ウクライナに戻すべきか、露に支配させておくべきか」とのネット投票をツイッター上で呼び掛けたことに端を発する、Musk氏と「ウ」大統領の意見相違の表面化です
このネット投票呼びかけツイートに対し「ウ」大統領が、「Musk氏は、ウクライナ支援者とロシア支援者のどちらが好きなのか?」と疑問を投げかけ、これに対しMusk氏が「ウクライナを強く支援しているが、これ以上の戦争エスカレーションは「ウ」や世界への影響が害が大きすぎる」とツイートして食い違いが表面化したことが、今回の米国防省への費用負担要求に関連しているとも言われています
このツイッターのやり取りでMusk氏は、クリミア半島のロシア支配をウクライナが認め、ウクライナによるNATO加盟申請を取り下げ、ウクライナは中立的政治姿勢を取るべきとまで主張しており、米国政府との意見の相違も明らかになっています
更にMusk氏は一連のツイートの中で、国家安全保障分野で宇宙ドメインの重要性が急速に増加し、かつ民間衛星事業者が軍事や安全保障分野で大きな役割を果たしている中で、「我々はサイバー攻撃や妨害と日々戦っているが、民間事業者が攻撃を受けたなら、米国は我々を守ってくれるのか?」との究極に重い課題をストレートにぶつけて話題となっているところでもあります。
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SpaceXが提供している「Starlink」は、ウクライナ軍による軍事作戦の極めて重要なインフラとなっており、ドローン運用や目標照準や偵察活動などなど多方面に置いて不可欠で、米軍幹部が「system has proven exceptionally effective」と表現するものです
またこのサービスを維持するSpaceXの努力も目を見張るものがあり、4月に国防省電子戦担当幹部が講演で、ロシアの電子戦やサンバー妨害から「Starlink」を守り維持しているSpaceX社の対応を「泣けるほど素晴らしい」と讃え、その迅速性と適切性から米政府は学ぶべきだと訴えた程です
最近繰り返しご紹介しているように、国家安全保障分野の民間衛星事業者への依存度は急速に固まっており、「民間事業者が攻撃を受けたなら、米国は我々を守ってくれるのか?」は極めて重い問いかけです。宇宙に限らず、サイバー空間でも同様の問いが発せられていると認識すべきです
Elon Musk率いるSpaceX社の頑張り
「ロシアに迅速対処したSpaceXに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/
ウクライナ侵略が示した民間宇宙能力の重要性
「国防省有志が民間技術迅速活用求める」→https://holylandtokyo.com/2022/09/16/3609/
「民阿寒衛星を守る国際規範を」→https://holylandtokyo.com/2022/09/05/3601/
「米宇宙軍の能力向上に民間衛星をまず活用」→https://holylandtokyo.com/2022/07/27/3454/
「第一撃は民間衛星通信会社へ」→https://holylandtokyo.com/2022/06/23/3365/