民間衛星の軍事利用が進む中で民間衛星を守る国際規範を

ウクライナ侵略が示した民間衛星の重要性
国家間紛争時に民間衛星を守る「国際規範」を考察
今のロシアや中国を見るに、極めて困難とも思うが

Space debris2.jpg8月23日、宇宙政策を研究する米シンクタンク「Center for Space Policy and Strategy」が、ますます国家安全保障分野での重要性を高める民間衛星システムを、軍事紛争発生時に守るための「国際規範」のようなものを準備する必要性を指摘し、「特に宇宙ゴミ等の影響が、衛星の用途に関わらず急速に無差別に拡散すること等」から、民間衛星会社も関与して検討すべきだと主張するレポートを発表しました

ウクライナ侵略開始の緒戦において、ウクライナにインターネットや通信サービスを提供していたSpaceX社の「Starlink」やViasat社の衛星通信サービスに大規模妨害行為が行われた現実がありながら、例えば米宇宙軍は宇宙状況把握(space domain awareness)能力や同能力の強靭性を高めるため、西側諸国の「大きなアドバンテージだ」として米国や同盟国の民間衛星サービス利用を積極的に推進しています。

Space debris3.jpg一方でこれら宇宙アセットは官民の別を問わず、「無人アセットであり、攻撃に関する政治的敷居が低い」、「誰が攻撃したのか把握するのが困難」等の地上アセットとは異なる特徴を持つことから、サイバー攻撃と同様に民間宇宙アセットが無差別な攻撃を受けやすく、かつ影響も大きい点で、抑止を含めた概念の整理が難しい分野です

また、今の南シナ海での中国やウクライナでのロシアの動きを見ていると、「国際規範」との言葉のむなしさを感じざるを得ず、またが国際社会からの厳しい非難を浴びつつも、中国やロシアが軍民両方の衛星を危険にさらす「宇宙ゴミ」を生む衛星破壊兵器実験で強行してきた経緯を考えると、発表された「Commercial Normentum: Space Security Challenges, Commercial Actors, and Norms of Behavior」とのレポートの意義に疑問を感じる方がいても当然だと思います

Dickey Space.jpg避けて通れない宇宙アセットが直面する課題であることから、基礎的な思考の枠組み案の一つとして、全体像を把握していないながら同シンクタンクレポートの概要の概要の概要のさわり部分を、26日付米空軍協会web記事よりご紹介します。(同記事を読んでも良くわかりませんが・・・)

同レポートでは、まず過去に陸海空ドメインで、民間アセットが軍事紛争に巻き込まれて攻撃を受けた例を3カテゴリーに分けて紹介し、宇宙アセット攻撃に関する「国際規範」確立の思考枠組みとして同レポートは準備しています

陸海空ドメインで民間アセットが攻撃を受けるケース3つ
Space debris4.jpg●地上での「地雷」敷設のケース。軍民を問わず影響を与える点で、衛星攻撃兵器で生じる宇宙デブリと類似。なお国際宇宙ステーションが特別警戒対象とした2022年の宇宙デブリ681個の内、505個が露の2021年11月のASAT試験で生じたもの

●民間航空機が軍事紛争絡みで撃墜されるケース。確認できた範囲で、少なくとも6機。いずれも関連紛争では民間機の安全確保に関する「国際規範」は確立していなかった
●商船が、軍需物資を運搬したり、軍事活動を支援しているとの理由で攻撃目標となるケース

Space debris.jpgそして、宇宙での「国際規範」に考える場合、宇宙では物理的破壊だけでなく、巧妙な電子妨害、衛星へのサイバー攻撃、衛星センサー等へのエネルギー兵器(レーザー等)攻撃でも大きな影響を与えられる点を考慮することが重要で、「衛星システムへの攻撃」の定義を明らかにしておくことも重要だと指摘しています

また当然のことながら「国際規範」は、関連プレーヤーである全ての国家や団体に「受け入れられ」「行動枠組みとして機能する」ことが大前提で、そのためには最低限2つの条件、つまり軍事活動を行う官側と民間衛星企業とのやり取り情報の公開・共有、更に宇宙アセットを運用する全ての団体との公式な意思疎通ラインが確保されていることが満たされる必要があるとも議論を展開しています

そしてレポート筆者のRobin Dickey女史は、3つの「国際規範方針」候補をレポート内で議論しているようです(細部は確認していません)

Dickey Space CNAS.jpg●全ての民間衛星を保護する。軍事行動に利用されているか否かに関わらず、全てを保護し、全ての衛星システムへの攻撃を禁止する。この際、前述の「攻撃の定義」も重要な論点
●緊要な民間衛星のみを保護する。この場合、多くの民間衛星は「国際規範」上で保護される対象から外れるが、「規範」として国際的に受け入れられるハードルは低くなる
●軍事とかかわりのない民間衛星のみを保護する。他国に「軍事と関係ない衛星」について、用途や目的を明確に示して誤解を防止することが重要
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space awareness4.JPG2020年6月にCSISが、宇宙兵器を制限するための議論を促進する基礎の基礎として、「宇宙兵器の6分類」を提案するレポートを発表していますが、それと同様に、如何にその道が難しく険しかろうと、重要だと思う分野の道を切り開く地道な取り組みとしてご紹介しました

このような地道な取り組みを前にすると、「平和」と目指すにあたっての基本姿勢として、以下の言葉を思い出します。

「人間の本性における突然の革命にではなく、人間の制度の漸進的な進化に基礎を置く、もっと実際的でもっと達成可能な平和に我々の焦点を合わせよう。人間の制度の漸進的な進化がそれである」・・・。平和平和と口うるさく叫ぶのではなく、地道な取り組みを大切にして・・・

同シンクタンクのレポート紹介ページ
→ https://csps.aerospace.org/papers/commercial-normentum-space-security-challenges-commercial-actors-and-norms-behavior
同レポート原文(33ページ)
→ https://csps.aerospace.org/sites/default/files/2022-08/Dickey_CommercialNormentum_20220819.pdf

宇宙兵器問題への取り組み
「国防宇宙戦略を発表」→https://holylandtokyo.com/2020/06/23/629/
「提案:宇宙兵器の6分類」→https://holylandtokyo.com/2020/06/01/611/

宇宙軍が商用衛星利用を加速
「宇宙軍がまず民間衛星企業利用を考える」→https://holylandtokyo.com/2022/07/27/3454/
「第一撃は民間衛星通信会社へ」→https://holylandtokyo.com/2022/06/23/3365/
「地上移動目標探知技術を求め」→https://holylandtokyo.com/2022/06/09/3309/
「ロシアに迅速対処したSpaceXに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/

ロシアの宇宙兵器関連
「ウクライナの第1撃は宇宙で?」→https://holylandtokyo.com/2022/02/18/2732/
「衛星破壊兵器でデブリばらまく」→https://holylandtokyo.com/2021/11/17/2435/
「ロシア衛星が謎の物体射出」→https://holylandtokyo.com/2020/07/30/584/
「4月中旬のロシア衛星破壊兵器試験を批判」→https://holylandtokyo.com/2020/04/22/732/
「怪しげなロシア衛星問題提起」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-04

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