露のウクライナ侵略で西側が予期し恐れていたが未だに・・・
ウクライナを支援する国への報復攻撃を懸念していたが
米国の専門家も様々に憶測中・・・
7月21日と22日付Defense-Newsは、ウクライナ侵略に関連し西側が予期し恐れていた、露によるウクライナやウクライナ支援国に対する大規模サイバー攻撃やGPS妨害が未だ確認されていないことに関し、米国専門家の見方を紹介しています
「なぜロシアは大規模サイバー攻撃やGPS妨害を行わないのか?」との疑問に対する西側専門家の結論は出ておらず、様々に専門家が仮説を出している段階ですが、いろいろ頭の体操になりますのでご紹介します。大規模サイバー攻撃関連の「なぜ?」に関しては浅い議論ですが、GPS妨害に対しては具体的仮説が提起されています
露はなぜ大規模サイバー攻撃をしていない?(21日付記事)
●ウクライナ侵略開始直前の2月24日から、ウクライナ軍民両方に高速大容量衛星通信サービスを提供していた「Viasat」へ大規模サイバー攻撃が行われ、露によるウクライナの国家指揮統制混乱を意図したものだったと分析されているが、西側が恐れていた米国やNATO諸国の電力網や社会インフラに関する大規模サイバー攻撃は確認されていない
●20日Anne Neubergerサイバー担当米大統領副補佐官は、3月にバイデン大統領が、ロシアが「かなり影響が大きいと予期される」大規模なサイバー攻撃を準備しつつあると警鐘を発したが、そのような動きは当時から情報分析やサイバー専門家の間で詳細にフォローされており、現在も同様の状態であることを示唆した
●また米サイバーコマンドは、ウクライナの隣国リトアニアに米軍チームを3か月間派遣し、ロシアによる大規模サイバー攻撃に備えた準備に取り組み、そこで得られた教訓をNATO全体の能力強化のためNATO諸国に提供したりしていると説明し、露のサイバー能力に警戒を緩めていない
●同副補佐官は露のサイバー攻撃が本格化しない理由について、「2021年5月の米国内石油パイプラインColonial Pipelineへのサイバー攻撃時に、バイデン大統領がプーチンと会談して米国の覚悟を伝えたことでロシアを抑止できていると考える見方や、ウクライナや西側同盟国が協力してサイバー攻撃対処体制を強化したことが功を奏した主張する者もいる。一方で全く理由がわからないと考える者も多い」と述べた
●そして、前職がNSAサイバー対処責任者だった同副補佐官は現時点での結論として、「議論は続いている」と語った
なぜ露は大規模GPS妨害を行っていない?(22日付)
2021年11月にロシアが衛星破壊兵器実験を行い、プーチンの代弁者と言われる露TV解説者が「ロシアは全てのGPS衛星を無効化することができる」と同実験を解説して世界を緊張させたが、ウクライナ侵略が始まって以降、世界の専門家が予期していたような攻撃を露は見せていない。
この理由について、米大統領へのPNT(Positioning, Navigation and Timing)諮問会議のメンバーであるDana A. Goward氏は、以下のような様々な推測が存在すると寄稿している
●露のGPS妨害能力は本当は大したことない?
・この見方も存在するが、多くの専門家は支持していない。例えばロシアは北部ノルウェー国境付近に、露国内の離れた場所から、非常に強力なGPS妨害を正確に繰り返し行っており、米GPSと極めて近い周波数を利用するGLONASS(ロシア版GPS)への影響なくGPS妨害を実施可能な能力の高さを証明しているからである
・この他、モスクワや黒海沿岸地域で、たびたびGPSが機能しなかったり誤位置を表示する状況が外国政府関係者や専門家により確認されているなど、ロシアのGPS妨害能力の高さを示す事例には事欠かない
●露軍もGPSを頼りにしている?
・ウクライナで撃墜されたロシア軍機内で簡易GPS表示装置が発見されていること、GLONASS(ロシア版GPS)の端末が大型で使いづらいこと、前線部隊への普及が不十分なこと等から、露軍もかなり米国GPSに依存しているのではないかと推測されており、このため本格的GPS妨害を避けている可能性がある
・また、ウクライナが通信・インターネット・電力網等々の社会インフラの重要部分でGPSに依存しており、仮にGPS妨害を本格化すると、侵攻したロシア軍のウクライナ国内での活動や地域支配が困難になるため妨害を控えている可能性もある
●将来の対米・対NATO対決に備え妨害能力出し惜しみ?
・露とウクライナでは圧倒的戦力差が存在し、基本的に露は全力を出す必要なくウクライナでの軍事目標を達成できるとの認識の下、ウクライナよりGPSへの依存度が高い米軍やNATO軍に対し、ロシアは手の内を隠したのではないか・・・との見方がある
・ウクライナ軍は西側の支援を受け、GPSを活用する最新兵器も使用しているが、依然としてGPSに依存しない旧ソ連時代の旧式装備も多数保有しており、GPS妨害の効果が限定的との見方が露軍内にある可能性も指摘されている
●GPS妨害を行えば、妨害発信位置がすぐ暴露し攻撃を受けるから?
GPS妨害装置は強力な特定周波数を継続的に発信するため、敵から比較的容易に発見され攻撃を受けやすく、ロシア軍が必要性の高くないGPS妨害を控えた可能性もある
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核保有国であるロシアが紛争当事国となっているウクライナ侵攻では、核抑止の威力が改めて強く認識され、米国もウクライナへ提供する兵器の選定に「手加減」せざるを得ない状況となっていますが、ロシアにも米国内の社会インフラに大規模サイバー攻撃を行えば「一線を越える」との認識がロシア側にあるのかもしれません
GPS妨害に関しても基礎知識が不足していますが、「対米・対NATO対決に備え出し惜しみ」と「露もGPSに依存」との理由から、ロシアが本格攻撃を控えているとの案をとりあえず支持させていただきます。
いずれにしても、非常に興味深い議論ですので、今後の展開や新情報の公開に期待したいと思います
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