2026年度予算案に付随する国防権授法NDAAで対処命じる
2019年の宇宙軍誕生以前からの問題が年々悪化
調達幹部実力者はGolden Dome責任者として宇宙軍を追放!?
2024年に下院軍事委員会の指導者達が公開書簡や公開イベントで宇宙軍に警告したにもかかわらず変化がなく、5月には宇宙軍No2で宇宙軍調達幹部の最高実力者であったMichael Guetlein大将を、宇宙軍トップChance Saltzman大将との対立激化の中で、「Golden Dome計画」責任者として宇宙軍外に放出するに至り、
ついに米議会が宇宙軍の組織文化改革のため、12月11日に下院で承認された2026年度国防権授法NDAAに種々の対策を盛り込み、上院とトランプ政権の承認を待っている、と紹介しています。
12月11日付DefenseOne記事によれば
●2001年の「ラムズフェルド報告書」が、各軍種に分散する宇宙関係者の統合を進めるべきとの提言を出し、当時調達業務を担当していた部門は「Air Force Materiel Command」から「Air Force Space Command」に移設され、9個メジャーコマンドの中で唯一、運用部門と調達部門を両方抱える司令部が誕生も、「運営者が王で、調達者が従者であるべきだ」との偏見の中、同一司令部内になって両者の対立は解消ころか激しくなった。
●2019年の宇宙軍創設後も、一部の権限が米空軍内や「U.S. Space Command」に残置されたままだったことや、宇宙軍創設から現在に至るまで、別軍種の宇宙担当兵士を相当数抱え、宇宙軍としての組織文化育成が困難だったことも重なり、「宇宙軍の中核文化をめぐる継続的な闘い」は激しさを増し外部からも明らかとなり、将来的な任務遂行に与える影響が看過できないと見なされている
●また2025年5月、宇宙軍No2で調達部門の最重要人物であったMichael Guetlein宇宙軍大将が、国防省での「Golden Dome計画」責任者との要職への転出が発表された際は、宇宙問題の専門家から「運用側と調達側の間で敵意が高まっており、Michael Guetlein大将と宇宙軍トップChance Saltzman大将その摩擦が頂点に達した結果だ」との声が上がっていた。
●問題視されている中には、例えば宇宙軍が2024年9月新設の士官入隊予定者対象の「土官訓練課程」がある。これは入隊予定の士官を対象とした12ヶ月間のコースだが、このコースは運用重視傾向があり、調達や維持管理分野は部隊現場での実地教育に委ねられ、卒業生の最初の配属は運用部門で、調達志向で関連分野の学位や専門知識を持つ新士官は、専門知識を生かすまで長期間待たされるキャリア管理となっている
(まんぐーす注:宇宙軍の調達業務は、米軍の中で最も複雑で専門性を要する調達業務で、マスターするには時間が必要)
●また、トランプ政権やヘグゼス国防長官方針の人員削減により、宇宙軍の調達部隊は運用部隊より多くの削減枠を押し付けられ、5月までに文民職員の14%を解雇したが、その多くは調達分野の熟練職員であった。この性急なマンパワー削減は宇宙軍の調達分野を直撃しており、彼らと直接接触が多い軍需産業ボーイング副社長は、「彼らがストレスを感じていることや、過労状態にあるこ
とが、我々の目にも明らかだ」と述べている
●一方で、運用部門が調達部門に不満を抱く原因が無いわけではない。例えば「次世代赤外線ミサイル警戒衛星」は、当初の2023年打ち上げから2026年に延期され、「宇宙調達失敗の典型」と揶揄される「次世代GPS運用制御システム開発」は、数十年の期間と数千億円投資の成果を生かせなかった事例として、宇宙調達部門を批判する格好の材料となっている。
●宇宙軍として組織内対立緩和に「無策」だったわけではなく、2025年8月には運用者と調達関係者の融和を企図して、対話機会を増やす「新コマンド構造:new command structure」を導入したり、同年9月には調達キャリア志向の「(新入隊者の)士官訓練課程」卒業生を対象とした、
10週間の「初級調達資格コース」を初設置している。
●また対外広報面でも、宇宙軍トップのSaltzman大将自ら、宇宙軍における調達分野の魅力を対外発信し、「宇宙軍には他軍よりも圧倒的に多数の調達士官が所属し、その比率は土官の49%以上」で、「宇宙軍の調達業務は、米軍の中で最も複雑で専門性を要する調達業務で、マスターするには時間が必要だが、その知見は宇宙軍に不可」だとアピールしています。
●しかし下院は「状況は改善していない」と判断し、12月11日に2026年度国防権授法NDAA案を可決して上院審議に委ねた。NDAAの宇宙軍への要求事項は例えば・・・・
・空軍長官に対し60日以内に報告義務付け(その後も2030年まで毎年1回報告)→運用と調達の両職種における空軍士官数と割合、両職域間の比較による不足または不均衡、不足や不均衡を是正するために実施した措置
・空軍長官に対し、「運用と調達のバランス回復のためのカリキュラム開発」に関する、上院及び下院車事委員会への四半期毎のブリーフィング
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宇宙軍OBが本記事に対し、「これは簡単に解決できる問題ではない。前進し、是正していくには、何年にも渡る粘り強い努力が必要な問題だ」とのコメントを寄せていますが、宇宙軍内部の雰囲気はどんな状況なんでしょう・・・
新たなドメインとして大きな注目と予算を確保した宇宙軍は、運用者がその活動の重要性や難しさを様々な場所で発信する機会を得るようになったが、同時に過剰な要望や期待を掛けられるようになった結果、まだ足元が固まっていない調達部門に無理難題を次々と投げかけ、溝が深まっていった・・・と言った流れでしょうか・・・。
宇宙軍トップのSaltzman大将は運用畑を歩んできた人物で、見た目も華やかで弁も立つアイコン的なトップですが、やっかみや批判も多いでしょうねぇ・・。調達関連の土官比率が約5割との特殊な構造と、「民間企業を積極的に活用したい」との宇宙軍調達部門からの新時代の要求が、ことを複雑にしているのかもしれません
宇宙軍No2で調達部門の最重要人物だったGuetlein大将関連
「Golden Domeを少し語る」→https://holylandtokyo.com/2025/12/11/13414/
「ブースト段階迎撃の宇宙配備兵器契約」→https://holylandtokyo.com/2025/12/02/13307/
「Golden Dome 責任者大将人事」→https://holylandtokyo.com/2025/08/05/12306/
宇宙軍関係者の民間企業活用の強い要望
「ウでの宇宙システム教訓」→https://holylandtokyo.com/2025/06/17/11700/
「GPS 妨害対処が急務」→https://holylandtokyo.com/2025/04/04/11011/
「宇宙企業の有事活用」→https://holylandtokyo.com/2025/04/24/11205/
「民間企業と宇宙戦争の課題」→https://holylandtokyo.com/2024/07/17/6073/
「企業協力強化に規格設定を」→https://holylandtokyo.com/2024/05/13/5833/
「国防省有志が迅速民間活用要求」→https://holylandtokyo.com/2022/09/16/3609/
「SpaceXの迅速さに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/


12月11日付DefenseOne記事は、米宇宙軍が誕生する以前から米軍宇宙関係者間に存在する根深く深刻な問題で、2019年の米宇宙軍誕生以降も「対立の溝の深さは悪化する一方だ」と、議会、所属兵士、国防省、企業関係者すべてから指摘される「運用部門と調達部門の対立」を取り上げ、
