台湾新総統への中国の対台湾政策を展望

5月20日の頼清徳政権発足受け速攻解説
基本的な注目点を整理したNIDSコメンタリーの鏡
中国研究室の最若手研究者の今後に期待

China Taiwan.jpg5月31日付防衛研究所「NIDSコメンタリー」が、5月20日の頼清徳新台湾総統の就任を受けた中国研究室の若手・後藤洋平研究員による「頼清徳政権の発足を受けた中国の対台湾政策の展望」との論考を速攻で配信し、

「(以下まんぐーす要約)頼総統就任演説への中国側反応を概観し、中国の対台湾政策に大きな変化はない模様ながら、中台間の経済関係、台湾内政及び台湾問題の「国際化」が変数となり、個別政策が推進される方向性を考察して、最後に、個別政策の成功可能性を検討」との狙いも明確な分かり易い視点を提供していますので、つまみ食い紹介させていただきます。読みやすいので、原文をぜひご覧ください

頼総統就任演説への中国側反応を概観
China Taiwan7.jpg●(まず、新総統就任演説は、)中国に台湾への言論&&武力威嚇の停止を呼び掛け。国防意識の向上や国家安全保障法制の改善の必要性を訴え。一方で頼総統は、蔡前総統が2021年10月に示した対中政策「四つの堅持」に基づく現状維持の方針と、中台間の対話・協力及び対等な立場での民間交流の再開する意向も表明

●(以下は中国側の就任演説評価)中国台湾事務弁公室報道官の談話で、「外部勢力と結託し独立を挑発」「台湾独立工作者の本性をさらけ出し」等と批判し、「中国は、一つの中国原則と『92年コンセンサス』を堅持し、広範な台湾同胞と共に両岸関係の平和的発展・融合発展に努力し祖国統一の大業を推進」と表明

●王毅外交部長も、「波風が立つほど、一つの中国に対する国際社会のコンセンサスは強固になり、中国への理解と支持は増す」等と、中国の主張が国際社会から受け入れられていることを強調

中国の今後の対台湾政策を規定し得る3変数
China Taiwan2.jpg●中国は、中台間の交流を通じて「統一」を進める意思を表明。故に、ただちに台湾への全面的な武力侵攻を行う可能性は低い。従って蔡英文時代の中国と同様、圧力と同時に交流等で台湾住民の取り込みを図る硬軟織り交ぜ手法で台湾を揺さぶる大方針に変更はないだろう

●他方、中国の対台湾政策に影響を与える変数には、①台湾における民進党の求心力低下、②中台間の経済的相互依存の低下、③台湾問題の「国際化」―が考えられる

China Taiwan5.jpg① 台湾における民進党の求心力低下
→総統選挙で民進党が勝利も得票数は過半数に達せず(約4割)、同時実施の立法委員選挙(議会選挙)では第2党に転落しており、政権運営停滞も想定。また両選挙で若者の支持が低かった点も懸念

② 中台間の経済的相互依存の低下
→近年の中国経済の失速、台湾の対中輸出及び対中投資の減少受け、中国による経済便益提供が、台湾経済の対中依存度が大きかった時期より、影響力&訴求力低下

③ 台湾問題の「国際化」
→米国や欧州や日本が、中国の台湾姿勢に警戒感を強めており、台湾も西側諸国の協力を得て対中姿勢を強化している

中国が今後強化すると予想される個別政策
China Taiwan6.jpg●民進党批判キャンペーンの展開
→中国は、台湾与野党の対立を利用し、台湾内協力者も活用し、新政権や台湾民主制度への不信感増幅宣伝を遂行
→議会で多数派だった蔡英文政権では可能だったが、新政権では中国の浸透工作を防ぐ法整備推進が困難に

●台湾問題をめぐる国際的支持獲得の推進
→中国は近年、台湾は中国の一部であるとの中国主張の国際的宣伝に注力。最近では、ロシアやパキスタンが台湾問題をめぐって対中支持を表明。

China Taiwan3.jpg●台湾及び第三国関係者への法的措置の強化
→従来も中国は複数の台湾政治家を「台湾独立分子」に指定して制裁対象にするも、5月15日に民間人の台湾政治評論家5人を制裁対象に指定表明。5月22日には反外国制裁法で、台湾に武器売却の米国企業12社の中国国内資産を凍結し、同社幹部合計10人の中国(香港、マカオ含む)入境禁止を発表し、対象規模拡大が顕著と懸念
→中国は、台湾や第三国の関係者&団体を制裁する傾向を、頼政権の成立直前から強化。今後、同種の法改正・制定を急ぐ可能性。台湾への武力行使の要件の具体化や、台湾支援の「外部勢力」への制裁規定制定など

今後の展望:中国の対台湾政策は成功するか
China Taiwan8.jpg●台湾新政権の支持率が高くないことを背景に、台湾の分断を図る策は効果が期待できるが、反民進党勢力が過度に中国寄りと見られた場合、民進党への世論の支持は逆に増すかもしれない

●中国の法律を都合よく変更する方法は、中国にとり低コストで、台湾側に反撃する余地が少ないが、直接的な法執行に限界があり、無理強いは台湾や米国を含む第三国との関係悪化につながるリスクが高い
●中国の主張の国際的展開は、米国等の西側諸国の対中警戒感をさらに高めている側面もある
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China Taiwan4.jpgとても厳しい政権運営を迫られている「頼清徳」新台湾総統ですが、中国経済が崩壊し、「金の切れ目が縁の切れ目」で中国への国際的視線が厳しさを増していること等から、後藤洋平研究員は中国側も決して台湾への工作が容易な状態ではないと主張されているように感じました

後藤洋平研究員に関し非常に好感が持てるのは、この段階で防衛省組織所属者として明確に主張するのが難しいと思われる、「中国は、中台間の交流を通じて「統一」を進める意思を表明。故に、ただちに台湾への全面的な武力侵攻を行う可能性は低い」と、研究者の見方を率直に語っている点です。正しいか、正しくないかは別として、婉曲的な表現で逃げる研究者が多い中、清々しさを感じます。

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