「Nunn-McCurdy法」要求の国防長官再検討案件に
既にコスト37%増&開発期間2年以上超過の惨状
空軍長官が昨年苦悩吐露した実態の一端が・・・
1月18日付の米空軍協会web記事は、2020年に米空軍がNorthrop Grumman社と契約して推進中のGBSD(Ground Based Strategic Deterrent:ICBMミニットマンⅢの後継ミサイルとなるLGM-35A Sentinel や指揮統制システムや通信システムや維持整備施設等々を包括した大規模計画)プロジェクトに関し、米空軍やNG社関係者からの聞き取りを踏まえ、
ミサイル自体の開発はそれほど問題ないが、地上サイロなど発射システムや通信インフラを含む指揮投資システムの開発関連で次々と難題が発覚し、少なくともコストが37%高騰し、開発期間が2年以上遅延する見込みとなっており、グダグダ装備品開発を防止する「Nunn-McCurdy法」の規定に抵触(コストが15%以上増加)することから、プロジェクトの廃止、又は問題や改善方法の明確化、コストやスケジュールに関する国防長官による再審議&承認が必要な事態に陥っていると報じました
まずGBSDプロジェクト概要は・・・
(当初計画では約$96B(約14兆円:研究開発25.5B,各種調達61.6B、各種建設費8.7B)だったものが、少なくとも$125B(18.5兆円)に膨らむ模様)
●約400個の地下発射サイロ再整備(膨大な環境影響調査や地権者や自治体等との調整を含む)と、LGM-35A Sentinel ミサイル634発の開発&調達(450発をミニットマンⅢ後継として約400個の地下サイロに。約160発は定期発射訓練や抑止力アピール用、25発は試験開発用)
●3か所の中核IICBM発射管制センター(F. E. Warren, Malmstrom, and Minot Air Force Bases)、10数か所の発射管制施設、兵器貯蔵庫、維持整備施設等など整備
●上記各施設と上級司令部や大統領等国家要人を結ぶ指揮統制システム(通信ケーブルだけで1万2千㎞以上)、ミサイル運搬用等車両56両など
国防省としてGBSDプロジェクト廃止は選択肢にないことから、「Nunn-McCurdy法」の条件を満たす「出直し計画&コスト見積もり」を2024年夏までに準備して各方面の理解を得る必要があるのですが、昨年11月に剛腕&強気で知られるKendall空軍長官までもが、「恐らく空軍が担当した各種開発計画の中でも、最も複雑で困難なプロジェクト」だと語り、その困難さの源泉を、
●ミニットマン開発から50年以上が経過し、知見(各種設計図や製造ノウハウや技術者等)が散逸し、専門家がもはや存命でなく、前進するほど次々と諸問題が表面化
●450個のICBM格納サイロが広範な土地に分散配置されている(日本の中国四国地方を合わせた面積:イメージで縦横130㎞×640㎞)
●資料散逸のサイロと土地再開発調整、サイロと指揮所を結ぶ指揮統制システム開発&建設(通信ケーブルだけでも総延長1万2000㎞以上)などなども含む、総額約14兆円プロジェクト
・・・だと、陰鬱な表情で講演で吐露していたほどでした
「Nunn-McCurdy法」抵触でも事業継続の条件5つ
●国家安全保障上で不可欠な装備品であることの説明
●問題の原因と対策が明確に調査され対策が練られている事
●出直し計画が国防省の監査機関(Cost Assessment and Program Evaluation局)に承認されること
●出直し計画より低コストの代替案が存在しないこと
●他プロジェクト予算を削減しても優先すべきもの
18日付同記事によればコスト増と遅延原因は
●後継ミサイル開発(LGM-35A Sentinel)は大きなコスト増と遅延原因とはなっておらず、おおむね順調でGBSDプロジェクト全体への影響は軽微
●問題の多くは指揮統制システムと発射用地下サイロに関するものが大半を占める。指揮統制システムは現有システムを再利用をベースに考えていたが、装備が旧式すぎて現在必要な周波数帯に適合不能など、根本的見直しを迫られている
●地下サイロ改修も知見散逸(各種設計図や製造ノウハウや技術者等)で根本見直しを迫られ、同時に(辺鄙な場所に分散配置されていること等々から、)必要なセキュリティークリアランスを取得可能な作業員確保が難しい
●現ミニットマンⅢと次期LGM-35A Sentinelの並行運用期間の対応が想定以上に難しい
●世界的なインフレによる物価上昇
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米空軍省のAndrew Hunter技術開発&兵站担当次官補は、本プロジェクトは通常のビックプロジェクトを5つ合算したようなメガプロジェクトだと語り、国防省の開発&調達次官経験者であるKendall空軍長官が「恐らく空軍が担当した各種開発計画の中でも、最も複雑で困難なプロジェクト」と呼ぶGBSDですが、長年に渡り「放置」してきた戦略核部隊からの「つけ」でしょうか・・・。核兵器と言う最終兵器が持つ悲しい運命なのでしょうか・・・
記事「中国ロケット軍の幹部汚職と同部隊能力への報道に思う」でもご紹介しましたが、米戦略核部隊は種々問題が表面化した2014年国防省調査で、「忘れ去られた部隊」「インフラの老朽化で部隊の無力感増大」「国防省や米軍幹部の期待レベルと現場の実態の格差が著しい」「予算も手当ても後回し」「兵士の昇任や福利厚生は多職種優先で、現場部隊の士気は士官クラスも含め崩壊」等々と表現され、根本的解決は今もまだ・・・が実態でしょう。どうするんでしょうか?
昨年11月にKendall空軍長官が不安吐露
巨大プロジェクトGBSDへの苦悩隠さず
「次期ICBM開発の苦悩&不安を語る」→https://holylandtokyo.com/2023/11/22/5244/
中国やロシアの核兵器運用部隊も心配
「中国ロケット軍汚職と部隊能力報道に思う」→https://holylandtokyo.com/2024/01/15/5436/
米軍「核の傘」で内部崩壊
「ICBMサイト初のオーバーホール」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-05-15
「屋根崩壊:核兵器関連施設の惨状」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-23
「核戦力維持に10兆円?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-09
「唖然・国防長官が現場視察」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-18
「特別チームで核部隊調査へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-27
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「剱持暢子氏論文:米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
「米核運用部隊の暗部」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-29