中国ロケット軍の幹部汚職と同部隊能力への報道に思う

1月6日のブルームバーグ報道に絡めて思うことを
米軍の例もあり、特に核戦力部隊の実態は気になる・・・
なお水混入可能な液体燃料ロケットの比率は1割未満

Rocket Force8.jpg1月6日付の米ブルームバーグ通信が、2023年12月末の中国全人代で理由不明のまま中国のロケット軍司令官や高級幹部5名が突然解任(汚職疑惑との報道あり)され、同部隊の後任司令官にロケット軍経験の全くない中国海軍将軍が任命される等の異例の状態になっていた中国軍ロケット部隊に関し、匿名の米情報機関関係者の分析結果だとして、同ロケット軍のとんでもない状況の一端を報じていますので、米軍の核戦略部隊の問題も絡め、まんぐーすの個人的意見満載でご紹介しておきます

ちなみに、2015年までは第2砲兵と呼ばれていた部隊を、2016年に陸海空軍と同等のロケット軍に改編して軍内での位置づけを強化したように、通常戦力で米国等の西側諸国に劣っていると認識している中国軍にとって、短距離弾道ミサイルからICBMまでを運用するロケット軍は対西側戦力の柱であり、実際に中国のA2AD戦略戦術は、対中国正面に拠点の少ない西太平洋地域の米軍にとって、現在でも答えのない極めて対応困難なものだと思います

まず1月6日付の米ブルームバーグ報道概要
Rocket Force.jpg●習近平国家主席による徹底的な軍幹部粛清の背景には、腐敗の広がりが軍近代化の取り組みを損ない、戦争する能力に疑問が生じたことがあったと、米情報機関の分析が示した。この分析について詳しい複数の関係者が明らかにした。
●関係者が匿名条件で語ったところによれば、人民解放軍ロケット軍内部および国防産業全体の腐敗は非常に広範囲に及んでおり、習主席が向こう数年間に大規模な軍事行動を検討する可能性は、そうした問題がなかった場合と比較すると低いと、米当局者は考えている。

Rocket Force2.jpg●そして関係者は汚職の影響の例を幾つか挙げ、燃料の代わりに水がミサイルに注入されていたり、ミサイル格納庫のふたが機能せず迅速に発射できない不備があったりしたと米情報当局が分析していると語った。
●米国は、人民解放軍、特にロケット軍内部の腐敗がその能力全体に対する信頼を失墜させ、習主席が掲げる近代化の最優先課題の一部を後退させたと分析している。過去6カ月間の腐敗捜査では軍高官十数人が対象となり、軍への取り締まりとしては現代中国で史上最大とみられている。

この報道への村野将氏(米ハドソン研究所研究員)のコメント
Murano.jpg●人民解放軍の腐敗の影響力を過小評価すべきではありませんが、これをもってその脅威を過小評価すべきではないでしょう。

●第一に、習近平がこれらの腐敗を発見して、人事刷新を行っているということは、彼らが本気で戦える体制を作ろうとしているということを意味します。
●第二に、中国が配備を続けている弾道ミサイルのほとんどは「固体燃料」ミサイルです。これらに使われているコンポジット燃料を製造過程で水に置き換えて誤魔化すなどということは、構造上不可能です。

●となると、水に置き換えられていたミサイルは「液体燃料」ミサイルになりますが、中国が現在運用している「液体燃料」ミサイルは旧式のDF-5と一部の巡航ミサイルだけで、これは中国保有のミサイル戦力の1割未満です。
●実際、中国は年に百数十回もの弾道ミサイル発射(訓練や威嚇射撃)を行っているわけで、これらは紛れもなく本物のミサイルです。

米軍の核運用部隊の惨状(今も本質に変化なしと推測)
https://holyland.blog.ss-blog.jp/2014-11-18
Minuteman III 4.jpg●2010年ごろから米軍戦略核部隊の問題が表面化し始め、部隊能力点検時のペーパーテストでの士官による集団カンニング事案(海軍と空軍両方で。さかのぼれる範囲で過去7年間継続)、B-52が模擬核爆弾だと誤認識したまま複数回米大陸の横断飛行を行っていたことが判明等々の事案を受け、部隊に対する特別調査(ヘーゲル国防長官時)が2014年秋に行われた結果・・・

●2014年11月の調査報告書は、単に戦略核運用部隊の問題ではなく、海軍や空軍による戦略核運用部隊の扱いに関する悪しき染みついた文化の問題だと断罪し、「過去数年間に発生した事案の深さや幅は、関連部隊への国防省や軍幹部の無関心や問題分野への薄い関心を明示している」、「指導層が語り信じている兵士のレベルと、実際の任務に就いている兵士のレベルの大きな差異が極めて深刻」、
●「継続して誰も核運用部隊に注目せず、資源配分もされなかった結果、核運用部隊の士官に、将来の伸展や昇進の見込みがない無視された分野に配属されたとの意識が染みついている」、「ICBM部隊は組織改編の度に、空軍内のメジャーコマンド間をたらい回しにされ、予算も人的施策も後回しにされ続け、部隊から誇りも気概も消え失せた」、

Minuteman III 5.jpg●「米空軍の核運用部隊には、意味ある能力評価の基準が無く、過度に完璧を求めて100名もの士官のカンニングを誘発している」、「インフラの老朽化により、装備の維持が益々困難で時間も経費もかさむ傾向にあり、部隊兵士の無力感に拍車をかけている」、「ICBM基地であるMinot基地勤務は、人里離れた僻地にある分散したICBMサイトを転々とし、買い物も満足に出来無い度を超して過酷な状況で、士気を低下させている」

●「海軍SLBM部隊でのカンニング事案で34名が免職になったケースでは、事案が7年間も続いていた。その試験は地上勤務である原子力推進機関の教育部隊に勤務するための資格と関係しており、(つまらないSLBM潜水艦勤務を避け、)地上部隊である教育部隊勤務を求めた結果であった」

Hagel icbm.jpg●装備品老朽化と部品不足への無関心状態を示す例として報告書は、「装備不足も深刻で、分散した3つのICBM基地に弾頭を固定する工具が1個しか無く、3個基地で使い回しするしかなく、しかもその輸送に民間宅急便を使用している状態」、「装備老朽化により、上級軍曹がミサイルや航空機の維持整備にのみ集中せざるを得ず、若手のスキルアップへの取り組みが不十分」などの事例が報告され、
●そして、組織的な投資配分、所属兵士の昇任、指導者、当該部隊への査察等の問題を指摘した報告書に、予算の増額を含む約100個の提言が盛り込まれた

Hagel icbm2.jpg●この報告書を受け、2014年当時のヘーゲル国防長官は、米空軍の要求であったGSC(Global Strike Command)司令官の大将への格上げや核兵器運用部隊の司令官の中将格上げを認め、国防省に海空軍の核兵器運用部隊部隊の予算を、2016年度予算案から5年間10%づつ増加させるよう要求するよう指示

●また人的側面では、米空軍が検討している人員削減から核兵器運用部隊4000名は除外し、GSCの整備、運用、警備分野に1100名を増員するよう指示している。海軍に対しては、2500名を工廠や教育機関に増員する予算案が指示された

まんぐーすが思うこと・・・
Rocket Force9.jpg●戦略核抑止任務を担うICBMやSLBM部隊(活躍の場が訪れる可能性は極めて低く、士気が低下しやすく、軍上層部や文民指導者の関心が薄い部隊)だけでなく、数百キロ射程からグアムやハワイを射程に収めそうな長射程弾道ミサイルを保有する中国ロケット軍と、米国の海軍SLBM潜水艦部隊や空軍ICBM部隊とを単純に比べることに無理があるとは思いますが、
●米軍のSLBM潜水艦やICBM部隊と同様に、更に加えて中国の軍人を含む中国公務員社会に根付く汚職体質も加わって、中国ロケット軍部隊が現場士気や運用能力面で大きな問題を抱えている可能性は十分考えられます

Rocket Force7.jpg●例えば2022年10月に米空軍大学の中国航空宇宙研究所(China Aerospace Studies Institute)が、中国ロケット軍の組織や部隊配備や部隊指揮官名簿や運用思想や訓練状況等に関する極めて詳細な内容を含む250ページ以上の報告書をWeb上で公開発表しましたが、その内容があまりにも詳細すぎ、中国軍内部からのリーク情報を基に作成されたものに違いないと西側専門家の多くが推測しています

●情報を外にリークするぐらいなら日本にリスクはなくメリットですが、核兵器や核物質を闇市場を通じて怪しげな過激派組織やテロ組織や「悪の帝国」に密売されるようなことがあればたまったものではありません。ロシアと共に、とても心配です

Rocket Force6.jpg●「PLA Rocket Force」でググってみると、ロケット軍をアピールするTV連続ドラマが制作&大宣伝されていたり、新しいロケット軍の制服が出来ましたとか、ロケット軍の部隊ワッペンや制服徽章が制定されましたとか、女性ロケット軍兵士が笑顔で談笑する写真が何枚も表示されるなど、部隊のイメージ刷新に中国が必死で取り組んでいる様子が伺えます。・・・その背景は・・・

米空軍大学China Aerospace Studies Instituteによる
中国ロケット軍レポート約250ページ(2022年10月)
https://www.airuniversity.af.edu/Portals/10/CASI/documents/Research/PLARF/2022-10-24%20PLARF%20Organization.pdf
米空軍大学China Aerospace Studies Instituteのwebサイト
https://www.airuniversity.af.edu/CASI/Articles/Tag/196622/pla-rocket-force/

米軍「核の傘」で内部崩壊
「ICBMサイト初のオーバーホール」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-05-15
「屋根崩壊:核兵器関連施設の惨状」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-23
「核戦力維持に10兆円?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-09
「唖然・国防長官が現場視察」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-18
「特別チームで核部隊調査へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-27
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「剱持暢子氏の論文:米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
「米核運用部隊の暗部」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-29

「台湾総統:中国は大規模な台湾侵攻を行う状態にない」→https://holylandtokyo.com/2023/12/08/5330/

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