現有ICBM(Minuteman III)の延命措置は不可能

複数シンクタンクの提言を真っ向否定の現職将軍
60年経過の老朽兵器には設計図も技術者も存在しないと

Richard6.jpg5日、米戦略軍のCharles Richard司令官(海軍大将)が講演し、更新兵器GBSD導入に約9兆円の予算が必要と見積もられ、バイデン次期政権関係者や一部シンクタンクが反対して延命策を提案している現有ICBM(Minuteman III)について、製造後60年経過した同兵器は設計図や技術者が既に存在せず、サイバー対処の面からもこれ以上の維持は不可能だと突っぱねました

一方で、トランプ政権下の2018年に作成されたNPR(核体制見直し)を新政権が見直す可能性に関しては、いつでも議論に応じる用意があると述べつつ、中国やロシア抑止が一層複雑な任務となりつつある点等に触れ、「核抑止の3本柱」態勢の維持の重要性を主張しました

Minuteman III 5.jpg現在米軍は「核抑止の3本柱」として、46機のB-52H爆撃機と20機のB-2ステルス爆撃機、Trident II SLBMを搭載の14隻のオハイオ級戦略原潜、そして400発のMinuteman III ICBMを保有していますが、後継ICBMとしてNorthrop Grumman社がGBSD(Ground Based Strategic Deterrent)を2029年運用開始目途で開発製造することになっています

そのほかトランプ政権下では、ロシアによる戦術核の配備に対抗して、潜水艦発射型の低出力核兵器W76-2(広島原爆の1/5程度の威力)導入が決定され、既にオハイオ級戦略原潜に搭載開始されているとの報道が出ています(米海軍はコメント拒否)

予算不足から、以前からバイデン政権は核兵器関連予算の削減に手を付けるとの予想が出ていますが、そんな動き関連の動静の一つとして、戦略軍司令官の発言を紹介しておきます

6日付Military.com記事によれば
Richard4.jpg5日、Defense Writers Group主催のZoom会議でRichard米戦略軍司令官は、複数のシンクタンクがバイデン政権にMinuteman IIIの延命措置とGBSD計画中止を提言していることに関し、「はっきりさせておきたい。Minuteman IIIの延命はこれ以上不可能である」と、米本土北西部の5か所に分散し400発保管されているMinuteman IIIについて訴えた
更に「延命は全く不可能である。兵器自体があまりに古く、箇所によっては延命を検討する際に必要な設計図さえ残っていない。6世代も前の工業規格で製造された様なもので、当時の状況をよく理解している技術者も既に存在していない」と理解を求めた

また「私にはまったく理解できない。Minuteman IIIの部品やケーブルなどその構造を把握しておらず、見る機会もないシンクタンクの研究者たちが、なぜ同兵器の今後について提言できるのだろうか?」と不満を示し
「製造後60年を経過した原始的な回路やスイッチ類を、サイバー脅威に対応できる現在基準にマッチしたものに更新し、指揮統制システムに追随できるようにする計画だ」と述べた

Richard5.jpg同司令官は現在の核抑止環境を冷戦時とは異なると説明し、「中国とロシアという2つの大国と同時に対峙する必要があり、それぞれに異なる抑止策を考える必要に迫られている。プーチンと習近平の世界観や判断基準は異なっている」、「脅威は常に変化している」と情勢認識を示し、
2018年のNPRを再考することに全く躊躇はないと述べつつも、バイデン政権の政権移行チームとの複数のミーティングを経て感じた懸念を示唆し、「このようなタイミングで核抑止の3本柱のどれかを廃止するようなことをすれば、中国やロシアの対応を容易にし両国に利することになる」と釘を刺した

また、低出力核兵器について新政権と議論することについても歓迎するとの姿勢を示し、「我が国政治指導者が望むことを遂行する準備ができている」と講演を締めくくった
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Minuteman III 4.jpg「複数のシンクタンク」によるMinuteman IIIの延命提言の内容を把握していませんが、継続的に機体改修や装備のアップグレードが行われてきたB-52爆撃機とは異なり、実質手つかずだった

Minuteman IIIの継続使用が困難だとの現場意見は重いと思います
ただ、ICBMだけで9兆円で、その他の各関連施設の更新やB-21爆撃機開発・調達予算などを含めると、40兆とかそれ以上とかの数字を見た記憶があり、更にサイバーや宇宙ドメインを含また新抑止理論構築が求められる中で、ICBM予算削減の声は簡単に収まりそうもありません

今の雰囲気からすると、バイデン政権はトランプ政権の政策を巻き戻し、オバマ時代に戻すような小手先の変化を見据えているような印象ですが、時代は変わり脅威も変わり、機能しなかったオバマ時代に戻るだけでは立ち行かない気がするのですが・・

21世紀の抑止概念を目指す
「同司令官が中露の軍事力増強と抑止を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-01
「米議会で専門家を交え中国抑止を議論」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-17
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「3本柱はほんとに必要か?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-22
「米戦略軍も新たな抑止議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-11
「21世紀の抑止と第3の相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-03

ICBM後継に関する記事
「ボーイング怒りの撤退」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-07-27
「提案要求書RFP発出」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-07-18
「次期ICBM(GBSD)企業選定」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-08-27-1
「ICBM経費見積もりで相違」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-26
「移動式ICBMは高価で除外」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-16
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1

米軍「核の傘」で内部崩壊
「ICBMサイト初のオーバーホール」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-05-15
「屋根崩壊:核兵器関連施設の惨状」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-23
「核戦力維持に10兆円?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-09
「国防長官が現場視察」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-18
「特別チームで核部隊調査へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-27
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
「米核運用部隊の暗部」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-29

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