11月4日と5日に、嘉手納基地へ計8機のF-22戦闘機がアラスカの米空軍基地から展開しました。
今回のローテーション派遣の期間は不明ですが、稼働率5割(2021年度実績)で米軍戦闘機最低のF-22の今後の活動に注目!
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日本の有識者の皆さんの楽観論にあえて言う
米軍は嘉手納基地に有事期待していない
日本はいつまで戦闘機に期待し続けるの?(ため息100回)
11月3日付米空軍協会webは、「Air Force magazine」編集長でこの道35年の著名な航空宇宙ジャーナリストJohn A. Tirpak氏による、嘉手納F-15撤退後の穴埋め戦力に関する記事を掲載し、アラスカ配備のF-22によるローテーション派遣をとりあえず行うだろうが、その後の長期的な対応として国防省高官は、ドイツやイタリア配備の米空軍F-16を展開させる案も検討していると紹介しています
ただ、ドイツのSpangdahlem基地とイタリアのAviano基地のF-16部隊を合併し、極東アジアに移転させる「欧州F-16転用案」は2021年には存在していたものの、国際情勢を受け国防省の「米軍態勢見直し:Global Posture Review」で廃案になった経緯があり、ウクライナ危機で欧州がロシア脅威に直面する中、欧州F-16の極東への移転は感覚的に難しいだろうと示唆しています
また世間で噂の新型第4世代機F-15EXを嘉手納に展開させる案についてもTirpak氏は、導入機数が当初計画の144機から80機にまで削減され、2022年から24年まで毎年24機程度しか予算要求されず、米本土防空用F-15C退役後を支えるのに精いっぱいだろうから、短期的なローテーション派遣がないことはないだろうが、嘉手納への恒常的な展開は考えにくいとコメントしています
更にTirpak氏は、米空軍報道官の「米空軍は嘉手納F-15の穴埋め(backfill)の責任を負っているが、計画についてはコメントしないし、戦力の展開計画についても、機体が展開先に到着するまで触れないのが米空軍のスタンスだ」との発言に合わせ、「他軍種の戦闘機を嘉手納F-15の補填にすることはない」との公式発言を伝えています
そして記事はDavid A. Deptula米空軍協会ミッチェル研究所長による本件に関する以下のコメントを取り上げ・・・
「これは米空軍が予算不足で国家安全保障戦略や国家防衛戦略を適切に遂行できない状態にあることを示す兆候だ。前方展開戦力は両戦略の基礎だが、戦力が無ければ実行できないのだ」、「状況は悪化する。米空軍は2027年までに数百機から千機を退役させようとしている(240機F-15、120機F-16、70機A-10など)」
更に「嘉手納は対中国有事の際、疑いなく数百の中国軍の精密誘導ミサイル攻撃を受けるので、嘉手納基地の航空機は危機が迫れば他基地に避難する可能性が高いが、前方プレゼンス維持、同盟国への関与維持、ISR活動の必要性等から嘉手納を捨てることはないだろうが・・」・・・を紹介しています
また併せて記事は、地上移動目標を探知追尾する専門機E-8C Joint STARSが9月に嘉手納から撤退し、この後継機に相当する機体の配備予定はないとも伝え、嘉手納F-15の段階的撤退に関し、米議員が特別ブリーフィングを米空軍に求めていると伝えています
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F-22に期待する声もありますが、所詮平時のプレゼンスであり、稼働率が米空軍戦闘機の中でずば抜けて低い5割程度で、2030年頃から退役が始まる維持運用が難しい機体です。米空軍司令部Hinote計画部長の言葉(2021年5月)を借りれば「F-22は1991年に開発が始まった機体で、中国脅威から台湾や日本やフィリピン等を守るには適切な装備ではなくなるだろう」とのアセットです。
前述のようにF-16にもF-15EXにも期待できませんし、F-35は噂にもならない点からすると、性能等が中国に知られないよう、米空軍は中国正面に平時から置きたくないのかもしれません
Deptulaミッチェル研究所長の言葉を引用するまでもなく、嘉手納航空戦力は危機が迫れば、座して死を待つことなく、遠方に退避します。沖縄より中国から遠いグアム配備戦力でも、サイパンやテニアンや南洋諸島の島自前へ避難し、そこからの「分散運用」を追求します。これが米空軍が全世界で取り組むACE(agile combat employment)構想で、太平洋空軍司令官から現在の空軍参謀総長に就任したBrown大将の信念です
中国正面の第一列島線上はもちろんのこと、第2列島線上の航空基地も有事には破壊される恐れが高いことから、米空軍は次世代の戦闘機検討で発想の大転換を迫られています。
例えば2021年2月27日に米空軍主要幹部や軍需産業関係者を前に、米空軍戦闘機族のボスである空軍戦闘コマンド司令官Mike Holmes大将は、「今現在の戦闘機に関する考え方は、例えば航続距離、搭載兵器、展開距離などについては、欧州線域ではそのまま将来も通用するが、太平洋線域では距離の問題が克服できない」と課題の本質に触れ、
「太平洋戦域では、次世代制空機(NGAD)検討において従来の戦闘機のような装備のニーズは必ずしも生まれない。距離と搭載量のトレードオフを迫るような機体は求められない」と明確に述べています。
米軍や米空軍は、同盟国日本への配慮から嘉手納の脆弱性や嘉手納の有事の役割減少について対外的には発言しませんが、嘉手納基地から有事に戦闘機や作戦機が発進するイメージなど持ち合わせていません。
日本の防衛省や航空自衛隊幹部はこのことを明確に認識しているはずです。恐らく日米で実施するウォーゲームや机上演習で、その現実を以前から突き付けられているはずです
2009年1&2月号のForeign Affairs誌に掲載された「A Balanced Strategy」との論文で、当時のゲーツ国防長官は、中国やロシアや新興脅威国の台頭を念頭に「足の短い戦闘機の役割は小さくなる」喝破しました。そしてそのころからチマチマと「戦闘機命派」を批判してきたのですが、力及ばず今日に至るまんぐーすです。
10年前からチマチマ訴えてきたのですが・・・
「脅威の変化を語らせて下さい」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
「中国軍事脅威の本質を考えよう」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2012-12-30
米空軍の戦闘機構成検討関連
「近未来の米空軍戦闘機構想」→https://holylandtokyo.com/2021/05/21/1709/
「戦闘機は7機種から4機種へ」→https://holylandtokyo.com/2021/05/18/1496/
「戦闘機混合比や5世代マイナス機検討」→https://holylandtokyo.com/2021/02/22/266/
「米空軍戦闘機の稼働率2021年」→https://holylandtokyo.com/2021/12/07/2465/