米4軍が協力して指揮統制改革に挑む実験演習中

米陸軍Project Convergence用の実験演習で
各軍種がバラバラとの批判を受け、改革の第一歩か?
アジア太平洋を舞台に英豪加NZもオブザーバ参加

Project Convergence2.jpg10月20日、米陸海空海兵隊の幹部が揃って記者会見に臨み、各軍種の取り組みがバラバラと厳しい非難を受けているJADC2(統合全ドメイン指揮統制プロジェクト)を一体推進するため、米陸軍の指揮統制改革プロジェクト「Project Convergence」演習に4軍が参加し、同盟国オブザーバーも見守る中、各軍種の兵器やセンサーを結んで円滑な指揮統制や情報の軍種間共有が行えるよう取り組んでいるとアピールしました

Project Conv22.jpg米軍の指揮統制改革JADC2(Joint all-domain command and control)は、対中国での戦力分散運用を見据え、前線の各種センサー情報を軍種を超えリアルタイムで共有してAIも活用した迅速の意思決定を可能にし、その指示を迅速に前線や各種中間司令部に伝え、戦いを優位に進める構想です。また中央集権化された指揮統制が被害を受けても、各部隊が強靭性を持って有機的に行動できる態勢を支えようとするものです

この指揮統制改革の重要性は各軍種も認識し、統合レベルのJADC2を推進すべく、陸軍は「Project Convergence」、海軍は「Project Overmatch」、空軍は「ABMS:Advanced Battle Management System」とのプロジェクトを立ち上げ、各軍種数千億円以上の規模の事業に着手していますが、各軍種の取り組みは「各軍種の利益優先」「バラバラ」と議会や専門家から厳しい批判を受けており、

Project Conv22 2.jpg8月には空軍と宇宙軍の首席サイバー補佐官が、「私は陸海空軍の各プロジェクト関連文書に全て目を通したが、各軍種はそれぞれ独自にJADC2を解釈している」、「(結果として3軍は)相互運用性があるシステム構築に向けたあるべき方向に向いていない」と公の場で辛らつに現状を批判して大きな話題になったところです

「JADC2への姿勢が各軍種バラバラ」https://holylandtokyo.com/2022/08/03/3524/
「隠れた壁:Data Formatsの相違」https://holylandtokyo.com/2020/11/24/394/

そんな中、10月から11月にかけアジア太平洋を舞台に行われている米陸軍「Project Convergence」用の「networking-and-tech」実験演習に、米海空海兵隊も参加し、同時に初めて同盟国から英豪加NZもオブザーバ参加して、様々な装備やセンサー連接試験や、関連データのデータフォーマットの相違を乗り越えた共有と指揮統制への迅速活用に取り組んでいると、会見に出席した4軍幹部がアピールしています

Project Conv22 5.jpgなお、今年の本実験演習では、アジア太平洋や欧州での脅威を想定した陸上中心シナリオと海上中心シナリオが準備され、300余りの新技術や手法がテストされる予定で、長射程火砲、無人機、自立走行車両、次世代センサー等々の国境の枠を超えた連接を焦点に試験が設定されいるようです

この会見を報じる21日付Defense-News記事は、この実験演習が具体的にどこでどのように行われているのか触れていませんが、会見はワシントンDCで行われており、「バラバラ」とのJADC2への批判に対応することを強く意識したものとなっています

●米陸軍Gabe Camarillo担当次官
Camarillo.jpg・この実験演習は陸軍だけの実験ではなく、統合実験である。そして完全な4軍参加と、同盟国のオブザーバー参加も得た実験である。昨年から本分野に取り組んでいるが、国防省と4軍が一体となって課題を見出し、継続して解決に取り組む姿勢に変わってきたことを目撃してきた

・データフォーマットに(軍種毎の)様々な形態が存在し、これら異なる形式のデータが作戦遂行のため円滑に流れる仕組みの必要性を4軍が強く認識しており、その実現のために皆で取り組んでいる

●米空軍Clinton Hinote戦略計画部長
Hinote2.jpg・今年の本演習で私が目にしているのは、分散形態の作戦管理が、アイディアを基に信じられないレベルで挑戦が行われており、実現されようとしている取り組みだ。非常に難しい課題だが、現実に進歩を遂げている。

・机上の理論が実現されていく様子が私を興奮させてくれる。我々が今できないことも、皆が協力して学び、実現に向けて着実に前進している。あるべき正しい姿だと感じている

●Kyle Ellison海兵隊戦闘コンセプト研究所長
Ellison.jpg
・海兵隊チームも他軍種からの参加者も、皆が積極的に参加しており、この情熱や熱気を持ち続けるだろう。

・実験演習参加者は、単にこの取り組みが「統合」や「相互運用性」だけでなく「融合integrated」されたものである必要性を感じており、その方向での挑戦の様子を目にしている。より相互運用性を高め、融合を目指す機会を逃すことはできない
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最近、米軍の対中国を意識した統合作戦運用や兵站面での準備が、各軍種のエゴや「主要装備重視・維持整備や弾薬輸送軽視」の旧態然とした米軍の風潮(世界中の軍隊共通)の中で全く進んでいないとの報道を多くご紹介してきましたが、少しは明るい話題になればよいと思います

Project Convergence7.jpg各軍種幹部の発言から、「取り組む姿勢の改善」、「問題の共有」は進み始めたようですが、始まったばかりで、データフォーマット相違の克服やデータの円滑な共有が実現する目途が立っているわけではありません。

米本土から遠く離れ、作戦拠点基地がほとんどない西太平洋での作戦運用コンセプトしかり、必要な弾薬確保しかり、輸送力の確保しかり、救命救助態勢しかり、4軍の円滑な情報共有しかり・・・道は遠いです。

将来戦に向けた指揮統制改革:JADC2、AIDA、ABMS関連
「JADC2への姿勢が各軍種バラバラ」→https://holylandtokyo.com/2022/08/03/3524/
「陸軍プロジェクトの教訓」→https://holylandtokyo.com/2021/12/21/2514/
「国防副長官がJADC2推進を語る」→https://holylandtokyo.com/2021/07/01/1943/
「具現化第1弾でKC-46に中継ポッド」→https://holylandtokyo.com/2021/05/31/1727/
「Data Formatsの相違」→https://holylandtokyo.com/2020/11/24/394/
「3回目はアジア太平洋設定で」→https://holylandtokyo.com/2020/10/05/425/
「2回目のJADC2又はABMS試験演習」→https://holylandtokyo.com/2020/09/09/476/
「初の統合「連接」実験演習は大成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-23
「今後の統合連接C2演習は」→https://holylandtokyo.com/2020/05/14/671/

米海軍のProject Overmatch
https://holylandtokyo.com/2020/10/22/438/

米陸軍のProject Convergence
「2021年末までの教訓」→https://holylandtokyo.com/2021/12/21/2514/
「米陸軍と海兵隊F-35が情報共有演習」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-13

対中国の作戦準備進まず
「統合作戦検討進まず」→https://holylandtokyo.com/2022/07/06/3396/

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