対中国作戦での救難救助任務が今ごろ大問題に

米空軍が2023年度予算での救難救助ヘリの調達削減
今の装備では本格紛争での救難救助は困難との認識広がる
しかし現状の無人機では任務遂行には不十分で
脱出した操縦者用無線機や生存キット見直しも最近開始

CSAR2.jpg7月11日付Defense-Newsは、米空軍が2023年度予算案で2020年導入開始直後の最新救難ヘリHH-60Wの購入予算を1/3削減し、対中を意識した本格紛争における救難救助任務の在り方検討を始め、米議会も米空軍に関連の様々な将来計画提出を求めているが、現時点では無人機の活用等のアイディアが出ているものの、任務を単純ではなく課題は極めて大きいと報じています

母国から遠く離れた異国で戦う米軍兵士にとって、敵の勢力下で航空機が撃墜されたり、艦艇が撃沈された場合、または敵領域での地上活動を命ぜられた場合、いざというときに味方が救出してくれるとの「安心感」「信頼感」は士気に直結しますし、米国世論を踏まえれば、救助作戦が遂行不可能なエリアでの活動は、米大統領や米軍指揮官にとって極めて判断の難しいものとなります

HH-60W3.JPGそんな軍事作戦遂行の基盤中の基盤である「救難救助任務:レスキュー」遂行の作戦構想が、今頃になって根本的見直しを迫られているとは驚くべきことですが、どうしようもなく、手を付けられないから今まで放置せざるを得なかった感もあり、静かに対中国作戦の基礎が崩壊しつつあるとも見ることができます

仮に東シナ海で米軍機や米艦艇が撃墜や撃沈された場合、近傍の同盟国である日本が米軍兵士を見捨てることは、米国民感情からも、米軍兵士の目から見ても許容できるものではなく、日本の突き付けられた課題でもあることを念頭に置きつつ、同記事の概要をご紹介します

7月11日付Defense-News記事によれば

どのようにして救助するか
CSAR3.jpg●20年以上続いた中東での戦いでも、イスラム過激派の勢力下に取り残された有軍兵士を救助することは課題であったが、強固な防空システムを備えた中国のような国の防空エリアでF-35が撃墜され、米軍パイロットが脱出した場合、その救助をどのように行うかは大きな課題である
●敵の防空レーダーや地対空ミサイル網が整備された空域に、最新型と言えどもHH-60W戦闘救難へリを投入することは難しいと言わざるを得ない。米空軍が2023年度予算案で1年半前に部隊配備を開始したばかりの最新救助ヘリの調達予算を削減したのはそのためである

CSAR.jpg●そのような危険エリアには、エンジン音が小さく小型で、敵に撃墜されても低コストで済む無人電動ヘリを投入すればよいとのアイディアもあるが、HH-60Wと比較して速度が半分で航続距離も短い無人電動ヘリを投入して任務が遂行できるか疑問が残る
●HH-60Wの無人機型を導入するアイディアもあるが、負傷して動けない救助対象者の場合どうするか・・・との問題が大きくのしかかる。また無人にしてもHH-60Wの機体コストは高く、敵からの剛撃による損耗にコスト面で耐えられない

●無人ヘリの性能アップに投資する案もあるが、人工知能開発には相応の投資が必要で、任務に応じて多様な無人機を準備する必要も生じ、それ相当の初期投資は避けられない。
●いずれの場合も、全てを解決する1種類の新装備を導入すれば解決する問題ではなく、多方面からのアプローチが必要で、今すぐ方針を決めて装備開発等々を開始しても10年は体制整備に時間がかかる問題である

要救助者の延命装備開発
●撃墜され敵勢力下に脱出したパイロットを救助するには、パイロットとの意思疎通を可能にする高性能無線機が不可欠だが、1990年代に導入された現在のパイロット携行無線機を、より小型でバッテリー持続時間が長く、衛星通信可能で、敵に傍受されにくく、よりシンプル操作が可能な新型無線機の検討は始まったばかりで、最短で6年後の調達を目指している状況である

CSAR4.jpg●操縦者が敵領域に脱出した際に利用するサバイバルキットの見直しも急務である。最低限の食料や水や医薬品、自己防御用兵器などが含まれるキットであるが、作戦エリアに応じて中身の優先度が異なるべきとの意見があり、各地域指揮官が選択できるオプションの検討&準備も始まったばかりである
●米空軍はSERE訓練(survival, evasion, resistance and escape)の見直し&強化にも迫られている。専門家を養成して各航空団レベルに派遣し、これまで繰り返されてきた通り一遍の訓練の刷新が必要との意見も聞かれる
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「米空軍はレスキュー任務を再考し始めたが、どこへ向かうのか?」とのタイトルの長い記事ですが、その概要の概要を少しご紹介しました。

HH-60W2.jpg冒頭で「どうしようもなく、手を付けられないから今まで放置せざるを得なかった感」とご紹介しましたが、雰囲気を感じて頂けたかと思います

繰り返しになりますが、果てしなく広がる太平洋を、飛行したり航海してはせ参じる米軍兵士にとって、いざというときに助けに来てくれるかは極めて大きな問題であり、米太平洋軍が抱えるアキレス腱とも言えましょう

無人電動ヘリと救難ヘリHH-60Wの話題
「電動ヘリeVTOL導入に本格始動」→https://holylandtokyo.com/2022/06/29/3370/
「電動ヘリeVTOLでACE構想推進へ」→https://holylandtokyo.com/2021/04/13/105/
「米空軍の新救難ヘリはHH-60Wに」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2014-11-25-1

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