米国の安全保障用や軍用衛星打ち上げを担っているロケットには、「Atlas V」と「Delta IV」の2種類がありますが、「Atlas V」が露製のロケットエンジン「RD-180」を使用していることが問題になっています。
ウクライナ問題が表面化した昨年5月、露副首相が「RD-180」輸出停止を示唆して米国関係者が大慌て状態になり、その時点では露製エンジン供給に遅延等は無かったものの、ロシアの動向に左右されることのない国産ロケットエンジン開発に現在は向かっています
ただ、新エンジン開発にはそれなりの時間が必要で、少なくとも2020年まで待つ必要がある国産新エンジンまで、どうするするかが議論になっています
なお、「Atlas V」がダメなら「Delta IV」で代替とは単純に行かず、価格が高い「Delta IV」だけでは凌げないようです
4月30日付米空軍協会web記事によれば
●29日の上院軍事戦略小委員会で、米空軍が求めている露製「RD-180」エンジン18基の購入を認めるかどうかで委員の間の見解が分かれた。
●上院軍事戦略小委員会のSessions小委員長(共和党)は、米空軍が求めているように、ロシアによるウクライナ侵攻以前に契約した18基については購入を認めても良いとの声明を出しており、この見解は民主党議員から支持された。
●ウクライナ問題が表面化した昨年制定された法律では、既に納金済みの5基のみの購入を認めていると解釈されており、このままでは2年間しか「Atlas V」の打ち上げが出来ず、2020年まで持たない
●しかし共和党のマケイン上院議員は、国民の税金をプーチン大統領の懐を潤すことに使用することは受け入れがたいとの意見を述べ、追加の「RD-180」購入予算差し止め法案提出を持ち出した
米空軍側は18基の購入を懇願
●James空軍長官とJohn Hyten米空軍宇宙コマンド司令官は同小委員会で、少なくとも新エンジンが完成するであろう2020年まで「Atlas V」が打ち上げ可能になるよう、18基の購入を認めて欲しいと要望した
●仮に(18基購入予定を許可されてから)供給が止まっても、高価ながら「Delta IV」があり、大重量衛星の打ち上げが出来ないがSpaceX社のFalcon 9もあり、Aerojet Rocketdyne社のケロシン燃料使用のAR1ロケットエンジンも開発が始まっていると説明した
米空軍は新エンジン開発は容易でないとも
●また28日Hyten米空軍宇宙コマンド司令官は記者団に、露製エンジンなしで打ち上げ能力を国産することは、それほど単純ではないとも述べている。
●同司令官(大将)は、5月に新エンジンの提案要求書RFPを発出するが、昨年の法律は露製エンジンの購入禁止を謳うだけでなく、公正でオープンなエンジン開発競争を求めていると語った
●2019年末までに米国製新型ロケットエンジンを開発して使用証明を得ることは決して容易ではない。
●また、エンジンはロケット本体と組み合わせて機能を果たせるので、ロケット本体製造企業との連携も必要になる。エンジン開発終了からロケットとの組み合わせ適合を確認するのに、更に2年は必要だろう
●更に、2つの打ち上げプロバイダーを持ち、競争原理を働かせる必要や、事故で1つのプロバイダーが長期打ち上げ不能になった際に備える必要もある。
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当分、米国のロケット打ち上げは綱渡りが続きそうです。ロシアも外貨が欲しいでしょうから、簡単に禁輸を発動するとも考えにくいのですが・・・
恐らく議会の中には、ロシアの最近の行動に対し、マケイン議員のような「怒り心頭」の人が沢山いるのでしょう。特に何でも反対気味の共和党側には。
ここはロシア側が有利な立場ですから、冷静に選択肢を見極めることが大事でしょうし、米国内部の足並みの乱れをロシアに見せるのは良くないでしょう
しかし、思わぬところに「アキレス腱」が存在するものです。
関連の過去記事
「米国安堵;露製エンジン届く」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-22
「露副首相が禁輸示唆」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-05-22
「露製ロケットエンジンがピンチ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-18-1