「統合作戦こそが、唯一の道である。他軍種を批判するような者がいても、そのような兵士の話は聞かない」
10日、米空軍参謀総長の交代式典がパネッタ長官の臨席のもと行われました。
議員による、嫌がらせのような承認先延ばしなど紆余曲折がありましたが、現参謀総長シュワルツ大将の12日退役に何とか間に合う形で、ウェルシュ大将(Mark Welsh)の就任式を行うことができたわけです。
本日は交代式典でのパネッタ長官とウェルシュ新参謀総長のスピーチをご紹介し、そこから浮かび上がる空軍や米軍を取り巻く状況を探ってみたいと思います。
パネッタ長官は交代式でウェルシュ大将を
●米空軍はシュワルツ大将の手からウェルシュ大将の手にゆだねられる。ウェルシュ大将は率直な男(straight-shooter)である。CIA長官だった際に一緒に仕事をしたが、俳優のJohn Wayneのようなところがあり、そんな調子でこれまで35年間やってきたのだと思う
●CIA長官のときは、(米空軍派遣のCIA長官補佐官だった)彼が長官室にやってきて、「長官、何か私にできることがありますか?」と尋ねてきてくれることが待ち遠しかった
●彼の父親はノルマンディー上陸作戦でも活躍した空軍大佐であり、その血を引くマーク(ウェルシュ大将のファーストネーム)は、多くの作戦で指揮官や幕僚として輝かしい仕事を成し遂げてきた。
●でも過去に、彼が私を神経質にさせたことがあることを白状しなければならない。CIA長官として中央軍司令部のあるフロリダからワシントンDCへ移動する機内での出来事だった。急に機内の与圧が下がり、機体が急降下し、酸素マスクが客席に垂れ下がった。
●心配になった私はマークを不安げな目で見た。きっと安心させてくれるだろうと思い。でもそのときマークは、酸素マスクを手に私を見つめ「なんてこった。これは大変だ」と更に私を不安にさせてくれた(笑)
●安心させる言葉ではなかったが、シュワルツ大将はマークに、そのような発言することが度々あると申し送ったことであろう。
●ウェルシュ新参謀総長が率いる米空軍は、今後も、最新の兵器やシステム不足に悩むことはない。ステルス戦闘機、新爆撃機、無人機等々である。
●しかし国防長官として米空軍を語るとき、米空軍が世界一なのはその航空機やシステムのためだけではない。それら使用して国家に奉仕する制服姿の兵士がいるからであり、シュワルツ大将やウェルシュ大将のようなリーダーがいるからである。米空軍と米国に神のご加護があらんことを祈念して・・。
ウェルシュ新参謀総長は就任式で・・・
●統合作戦こそが、唯一われわれが戦場で勝利を得る道である。他軍種を批判するような者がいても、そのような兵士の話は聞かない。
●そして米軍の統合作戦は、他国との共同作戦として織り込まれなくてはならない。私は米空軍が統合チームの必要不可欠な貢献者であると信じている。他の軍種もそうであるように。
●同時に、他の何者も我々がなしうるフライトを持ち込むことはできない。真の兵士はこれを理解しているし、君たちにもそうあってほしい。
●空軍は兵力融合の模範である。現役と予備役がともに活発に世界中で作戦を遂行している
●米空軍兵士の家族は組織の成功にきわめて重要であり、重要な者として扱われなければならない。兵士の強靭性、自殺防止、性的暴力防止等々・・これら全ての問題について皆が問題の一部であり、皆が問題の解決者である。中間的な傍観者は要らない。
●空軍はファミリーである。家族も含めたファミリーであり、統合の、多国間共同の、そして省庁間協力のファミリーである。
●空軍人は今の戦いに勝利しつつ、将来への備えと見通しを失ってはいけない。革新的な思考と従来とは異なった問題解決手法が求められている。
●成功の鍵はわれわれのパフォーマンスへの誇りである。われわれの仕事の根本はパフォーマンスにある。次の戦いで敗れるようであれば、誰もわれわれを振り返りはしないだろう。私は皆を信頼している。
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ウェルシュ新参謀総長の就任スピーチには、空軍が直面する課題が凝縮されています。
●空軍の人員削減に際し、予備役と現役兵の削減比率をどうするかで、政治家をも巻き込んだ「どろどろ」の論争が継続していること。
●厳しい予算の中で、より各軍種が統合で作戦遂行することを要求され、同盟国等の力も活用しなければならないこと。装備品の近代化や更新を緊縮予算下で進めるため、従来の考え方を改めなければならないこと。
●兵士の家庭崩壊防止、兵士のメンタルトラブル防止、自殺防止、性的暴力防止等が、米軍のみならず米国社会全体として大きな問題となりつつあること。
「なんてこった。これは大変だ」(Oh no, this is not good.)だけでは済まされない課題が山積の新空軍参謀総長です。
新参謀総長ウェルシュ大将を巡るあれこれ
「次期空軍トップの異例の経歴」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-11
「性的暴力で空トップ人事停滞」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-07-31
「議会が次期空軍トップに質問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-07-24-1